この雑誌の編集方針▶ 篠原聡子

 

住むことから考える

 

 住むことは、明らかに既存のルールからはみ出しつつある。というより、住むことをもはや既存の社会通念に収めることができない。「帰宅困難地域」「集団移転」「長期化する仮設住まい」など、終息をみることのない東日本大震災への対応は、それを痛感させる。また、昨今話題に事欠かないシェアハウスだが、そのベッド数は、2000年から2007年の間に、およそ10倍になった*1。これらを広がる経済格差と地域格差、縮小経済の象徴、とみるとらえ方も、もちろんあるだろう。ただ、そうした俯瞰的・他者的な眼差しだけでは、あまりに見落とされるものが多い。個別の事例にあたれば、そこに生きる人々の知恵や戦略が見えてくるし、住むことから社会が変容する可能性を発見できるかもしれない。むろんそれは、「住む」という当事者意識を持つ者にしか、見えてこないものである。  クリスチャン・ノルベルグ・シュルツは、彼の著書『住まいのコンセプト』のなかで、「住まうこととは、自分がどこに、いかに存在するかを知ること」*2であると述べている。それが、一筋縄ではいかないことが明らかになった今だからこそ、住むことから考える必要があり、そこに必要とされる当事者意識が意味を持つのだと思う。  編集会議における、こうした議論をもとに、2014年の1月からの2年間を通した『建築雑誌』の編集のコンセプトを「住むことから考える」とした。また、同時に1月号の特集のテーマとすることとなった。右の黒板の図は、分野横断的、年齢横断的に集まった各編集委員による特集案をおおよそのジャンルで整理したものである。しかし、このくくり自体には大きな意味はなく、むしろ現在への問題意識を率直に伝える各委員の出した特集案そのものにこそ、意味がある。是非、この2年間の間に、会員・読者の皆様から、ご意見、ご批評を頂戴し、随時、この黒板の図を修正変更しつつ、進めていきたいと思う。

[篠原聡子 Satoko Shinohara/日本女子大学教授・会誌編集委員長]

 

*1 「シェア居住白書」 http://www.hituji-report.jp/about.html
*2 クリスチャン・ノルベルグ・シュルツは、住むこととは「定位」(orientation)と「同一化」(identification)であり、それは、建築によって充足されると、述べている(『住まいのコンセプト』鹿島出版会、1988)

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