この雑誌の編集方針▶ 大岡龍三

 

未来をつくる
Creating Futures

 

 建築や都市はつくられた時点から社会遺産となり、非常に長い時間スケールで、われわれの生活を規定することになる。それゆえ、建築や都市をつくる際には、「未来をつくる」という意識を持たなければならない。しかし、現存する建築や都市は十分にそのことを考えてつくられたのであろうか。少なからぬものが負の遺産となってはいないであろうか。これは未来を見ようとしなかった、あるいは見えなかったことが原因ではないのか。一方、「未来を見る」ことは非常に困難であることは理解している。塩野七生氏の『ローマ人の物語』からユリウス・カエサルの次の言葉を引用する。

「どんなに悪い事例とされていることでも、それがはじめられたそもそもの動機は、善意によったものであった」。

 これは、物事を始めるときに悪意から始めることはほとんどなく(もしそうであればそもそも社会的に受け入れられない)、未来を透徹することができなかったがゆえに、現状と合わなくなるということだと理解している。そして、塩野氏は「未来を透徹できるのはカエサルのような天才だけである」とも述べている。残念ながらわれわれの多くは天才ではない。しかし、凡人であっても多くの人が知恵を出し合い意見を戦わせることによって、天才と同じ高みに達することができると信じたい。もちろん、凡百の議論よりも、ひとりの天才の直観の方が真実の的を射ていることは、われわれは歴史のなかで多く見てきた。しかし、われわれは議論を続けなければならない。天才と思われた一個人に未来を託して、道を誤った例も多く見てきたからだ。

 2016年の1月からの2年間を通した編集のコンセプトを「未来をつくる」とし、「建築と都市の未来」について議論していきたいと思う。未来を語るうえで根源的なことは、「未来の環境がどう変わるか」「われわれはどうありたいか」の二つである。そのうえで「建築がどう貢献できるのか」ということを考える必要がある。右の図は現時点での各編集委員による特集テーマを整理したものである。この2年の間に、会員・読者の皆さまからご意見・ご批評を頂戴し、随時、この図を修正変更しつつ、進めていきたいと思う。

[大岡龍三 Ryozo Ooka 東京大学教授 / 会誌編集委員長]