この雑誌の編集方針▶ 高口洋人

 

新たな社会課題に対応し建築学を拡張する

 

あまり気張らずにやろうと思う。『建築雑誌』の編集委員は楽しい。異分野の委員とあれやこれやと議論し、普段は会えない偉い人たちを座談会に引っ張り出しては直に話を聞ける。内心、もう一度やりたいと思ったこともある。でも委員長となると話は別だ。特に辣腕の前任者の後はいやだ。こんな編集方針なる文章も大上段に書かないといけない。しかし歴史家でもなく、論客の建築家でもない自分が推薦されたのには、何か理由があるのだろうと前向きに解釈し、引き受けてしまった。折しも今年は完全令和最初の年だ。すこし変わったやつがやるのも悪くないだろう。

人口減少、自然災害、脱化石燃料、AIやロボット、自動運転など、昭和と平成を通じて建築や都市を規定してきたものが大きく変わろうとしている。高度成長期、日本の人口は毎年100万人も増えていた。今年は逆に40万人以上が減る。現代の都市は自動車のために作ったようなものだが、自動運転が普及すれば自動車は激減する。当然建築も都市も変わるだろう。こういった新たな社会課題に対し、建築学がどう変わり貢献できるかを『建築雑誌』では取り上げたい。現在の建築学ではカバーできていない分野もあろうが、むしろ積極的に周辺分野の専門家と分野横断的に連携し、建築学の新領域として拡張する場としたい。

特に災害への対策は急務だ。災害が激甚化するなか、技術的なレベルアップもさることながら、良い技術や仕組みをどうやれば普及でき、維持できるかは新たな社会課題といってよいだろう。

災害後のシビアな状況を生き抜くために、建築学はなにをすべきか。建築物の計画/設計・構造・環境、材料や施工などの全分野が一体となって取り組む物理的な強靱化にとどまらず、普及や維持にかかわる法律や制度、経済などの社会経済的側面も含めたレジリエント建築社会実装の議論の場を提供できればと思う。竹脇会長のレジリエント建築に学会を上げて取り組みたいという所信にも沿えるだろう。また、2021年には東日本大震災10周年を迎える。この10年間に私たちは何をしてきたのか、その検証と反省も記録として残したい。

今年はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックの年だ。また建築物省エネ法や建築士法などの変更もある。繰り返し取り上げられているテーマではあるが、時機にあったテーマは取り上げていくつもりだ。

最後にもう一つ。Webメディアとの連携も模索したい。2021年に論文集が電子化される予定で、毎月会員に郵送される紙メディアは『建築雑誌』だけという月が多くなる。郵送され手元に届くことの良さ、紙媒体の良さをWebメディアとの連携を通じて行いたい。建築学会はWeb メディアとして『建築討論』を運営しているが、『建築雑誌』の特集に関する批評、討論を学会員以外も閲覧できる『建築討論』の場で行うことでより議論を深めることを考えている。また反対に、『建築討論』での議論も『建築雑誌』の連載として連携する予定だ。新しい時代だ。多少実験的なこともお許しいただけるだろう。

こんな思いで各方面の実力者に編集委員をお願いした。きっと面白くなると思う。

2年間よろしくお願いします。

会誌編集委員会

委員長 高口洋人(文責)
幹 事 加藤耕一 長澤夏子 難波和彦 能作文徳 増田幸宏

2018-2019 藤村龍至

2016-2017 大岡龍三

2014-2015 篠原聡子

2012-2013 青井哲人

2010-2011 中谷礼仁