このたび『建築雑誌』編集委員会では、「Our Realities」という言葉を掲げています。現実(Reality)は一つであるかのように捉えられがちですが、実際には無数の多様な現実(Realities)が重なり合う集合体であると考えます。自らの実感に根ざした現実に加え、誰かにとっての現実、人間以外の存在にとっての現実、どこかに存在し得る現実、グローバルな現実から足元の裏庭に広がる現実まで、さまざまなリアリティが併存し、混在しています。先行きの見通しが立ちにくい現代において、単一の未来像を掲げるのではなく、こうした複数形の現実の一つひとつに、すでに未来が宿っているのではないでしょうか。
私たちは、SDGsやCO₂削減など、多くの「正しさ」にコミットすることを常に求められています。しかし、その意義や効果を自らの実感として捉えられているかと問われれば、必ずしもそうとは言い切れない状況にあります。個人のリアリティと、地球規模で語られるリアリティとの間には、むしろ乖離が広がっているとも言えるでしょう。加えて近年、真実=リアルそのものも大きく揺らいでいます。フェイクニュースやAIによる映像生成によって現実は容易に歪められ、情報源ごとに異なるリアリティが並立する状況もまた、リアリティーズと呼べるのかもしれません。
常に当事者性と想像力を求められる建築は、こうした多様なリアリティ、その不在や格差、揺らぎに対して、横断的に向き合う術を備えているはずです。今回「Our Realities」を掲げる意義は、建築から世界を見ることではなく、世界に広がる多様な現実から建築を見つめ直す点にあります。不確定な時代において、複数形の現実の先に、多様な可能性が立ち現れることを期待しています。