この雑誌の編集方針▶ 田所辰之助

 

各専門分野の交叉を求めて-建築学への原点回帰

 

基幹8分野の導入-幅広い分野・領域への訴求力を

建築学会の会員数は3万6千人を越え(2023年8月現在)、そのなかでおよそ3分の2にあたる会員はひろく産業界で社会・経済活動に従事されている。 
幅広い職域におよぶ会員を読者対象にもつ『建築雑誌』の役割を考える際、建築の多様なる専門分野における学術的な発信力ととともに、伝達すべき内容の包括性、偏りを排した各専門分野のバランス等が求められているといえよう。
こうした観点から、各号の特集を企画・立案するに際し、【基幹8分野】(構造/情報/計画/都市・防災/設計・デザイン/実務/地方/歴史)を設定し、それぞれの分野に精通した幹事・委員に就任いただいて、各分野の最新の情報やトピックを会員に対し提示できる道筋を切り開いていきたい。
「建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達」という建築学会の基本理念に立ち戻り、専門性を際立たせながらも、各専門分野を越える訴求力、メッセージ性を有した誌面を提供していけるようにしていきたい。

変革期における「建築」像を照射する

また、現代の社会は、情報や通信技術の分野における技術革新をはじめ、気候変動による災害対応なども喫緊の課題となって、われわれの生活を規定するさまざまなインフラが想定以上の速さで変容していく時代に突入することが予測されている。建築、および建築に隣接する各分野についても、大きな変革期を迎えていくことが想定される。
こうした時代性を鑑み、【基幹8分野】のそれぞれについて最新の取り組みや、時代の変革期を象徴する事象等を取り上げ、ひろく共有していく場として『建築雑誌』を位置付けていきたい。
こうした変化の現れは、都市的事象としてだけ捉えられるものではなく、日本全国の各地域・地方(ローカリティ)やそのまちづくり、人材育成や建築に関わる教育の課題、一方ではまた国際的な連携などの論点にも関わっていくことだろう。
それぞれの見方を示していくなかで、建築が今後いかに変わっていくのか、変わっていけるのか、という視点を組み込み、各分野の先端的取り組みを紹介、発信していける機会として『建築雑誌』を捉えていきたい。

特集(案):
[構造]:女性エンジニアの現状とこれから/木造のサステイナビリティを再考する/木造の新局面/AIは構造設計を変えるのか
[情報]:人工知能時代の建築デザイン/「環境の情報」BIM X サステイナビリティ/ 「フィジタル」-建築におけるヴァーチャルとリアルの融合
[計画]:虚実の狭間の建築イメージ──建築写真と建築画像/ステーション・アーキテクチャー/集落における所有・保有・私有・共有・総有
[都市・防災]:新・耐災害建築・耐災害都市 マルチハザード・マルチアプローチ/阪神・淡路大震災30年が建築・都市に残したもの・消えたもの/復興祝祭空間としての都市(祝祭レガシーの検証を通じて)
[設計・デザイン]:若手建築家とまちづくり/若手建築家とものづくり/デザインと構造の新しい関係
[実務]:アクティビティと建築/DIGITAL GEOMETRY-デジタルと幾何学/サステイナビリティと環境-脱炭素時代の建築
[地方]:New Regionalism 仙台/New Regionalism 名古屋/New Regionalism 福岡
[歴史]:建築ツーリズム/近代住宅遺産の継承/建築展覧会・建築ミュージアム

個別的テーマの深化-歴史との往還

 さらに、現代の社会が大いなる変革期にあることを認識しつつ、現代建築が置かれている状況や同時代との関係性を探るうえで、建築を歴史との往還のなかで再考していく場があらためて求められているのではないか。
「連載」の形式を取りながら、それぞれの個別的テーマを掘り下げ、関連する社会状況についてひろく再認識していく機会を提供していきたい。
 1970~80年代に活躍した建築家、またそうした建築家とともに批評空間を構築していった雑誌編集者へのインタビューなどを通じ、現代建築の礎となったこの時代の建築的状況を振り返りつつ、建築とメディアとの関係、そして建築家の時代認識を析出させていく。
また、この時代に生み出された作品群に光を当て、その現況を調査し報告していきたい。すでに半世紀を経たいま、時代を画した作品群がどのように使い続けられ、その当初の建築的価値がいかに継承、展開されているか、その様子を紹介していく。
さらに、現代の建築や都市が、歴史からいったい何を学ぶことができるのか。現代建築が胚胎している歴史認識について識者たちに問い掛け、今後の建築のあり方についての指針を提示できればと思う。
そのほか、視野を世界に向け、それぞれ大きな変容過程にまさに置かれている各都市の現状、その姿を紹介いただく。
また、建築外も含め各分野の最前線で活躍される方々に、独自の視点で選んでいただいた建築作品を示していただき、現代における建築的主題の広がりを見つめていきたい。

連載(案):
・建築家の転回点
・建築と雑誌-歴代の各誌編集長が語る「あの頃の建築」
・歴史を未来へつなぐ建築と人-DOCOMOMO Japan 選定建築物を巡って-
・再訪・低層集合住宅
・いま、建築は歴史から何を学ぶのか
・世界都市の現在
・私の三つ星建築たち

会誌編集委員会

委員長:田所辰之助(文責)
幹 事:池田靖史、小澤雄樹、勝矢武之、越山健治、塩崎太伸、福島加津也、堀田典裕、山﨑鯛介

2022-2023 岩佐明彦

2020-2021 高口洋人

2018-2019 藤村龍至

2016-2017 大岡龍三

2014-2015 篠原聡子

2012-2013 青井哲人

2010-2011 中谷礼仁