表紙アートワーク REFLECTA, Inc.
表紙写真 System of Culture

2026-9月号 SEPTEMBER

特集= 09 もうひとつの/たくさんの水と建築


09 Another-Many Waters & Architecture

 

特集09 もうひとつの/たくさんの水と建築

水はおよそあらゆるものとつながり、さまざまに現象する。しかし、その私たちへの表れは偏っている。くりかえし表れる透き通った水のイメージは、「水」をひとつの理想に閉じ込める。そこに収まりきらないたくさんの水の現実を追いやり、もうひとつの水の世界に潜行させながら。
 暮らしにかたちを与える建築は、このもうひとつの水の世界に否応なく関わってきた。建物とそこに連なる種々の構築物は、水の通りみちのなかでその恵みを集め、災いを退けてきた。水はかたちをつくる手がかりでありつづけ、その各々のかたちは水と水以外のものどもの関係を静かに証言している。
 建築は世界に挿入され、その働きを変える。水は土を通り、電力になり、都市に届く。斜面に浸みた雨は伏流し、途中でダムに堰き止められて発電し、遥か下流の空港に人工の滝をつくりだしさえする。この一続きの運動を、近代都市は管とポンプに委ね、恩恵と脅威というふたつの指標へと縮めてきた。しかし、その恩恵と脅威は誰のものだろうか?
 水の道すじを変えることは、つねに誰かの土地と暮らしを変えることでもあった。流域に引かれた線は、水源と受益地を、上流と下流を、いまとのちを分ける。ダムに沈む村と、遠い都市に湧く滝は、同じ一本の水系の両端にある。開発は水の恩恵を分け与えると同時に、その脅威を割り当て直す。
 しかもその再分配は、多くの場合ゆっくりと効いてくる。導入された技術が生活世界を変えるのは竣工の日ではなく、その後の数十年においてである。水をめぐる決定の帰結は、決定した者のもとには届きにくく、被る者のもとには選びようもなく届く。
 地球を覆う気候危機と資本主義が加速させる水の脅威の凝集と恩恵の争奪に、建築はもうひとつの水の世界から介入することができる。世界環境意識が芽生えたおよそ半世紀前、公害と汚染からの積極的な再生を目指した日本はその草分けとなった。水との密接で複雑な関係のなかで積み重ねられた実践と思考のレガシーは、日本の過去から世界の未来へとつながるだろう。
 建築は水との接点に未知の現象を発見し、その表れを構想し、かたちに整え、その働きを社会とともに豊かな景色へと導くことができる。天と地を結び、大地に導かれ、崩し、運び、混ざり、洗い、磨き、分離し、媒介し、温め、冷やし、地域をつなげ、産業を動かし、政治を揺るがし、種々の生命を支え、脅かしもしながら、流れ、満ち、引き、溶け、凍り、蒸発し、巡る廻るこの地球の水。その変化する諸相と生きられたリアリティに深く関与する国内外のとりくみにこれからの建築の可能性をさぐる。

[目次]

00巻頭連載
広げ、重ね、縒り、束ねる水

02

特集 もうひとつの/たくさんの水と建築

03インタビュー1
〈水みち〉から〈蓄雨〉まで-見えない水を読む建築の技芸
神谷博
07インタビュー2
ヴァナキュラーな地球工学のための志向的プロジェクティヴな建築
エヴァ・フランシュ・アイ・ギラバート
11インタビュー3
水・氷・蒸気:地球温暖化と水の元素政治
ラフィコ・ルイズ
14論考1
水をめぐる五つの場
程婧如+占晨
16写真と文1
ビーバーもまた、詩的に住まう
セイラー/モリス(スザンナ・セイラー&エドワード・モリス)
18論考2
動いている川のための開かれた計画原則
田村将理
20論考3
自給自足のランドスケープ:
エンジニアリングによる戦後香港の水の安全保障
ドロシー・タン
22座談会
流れるもののかたちに触れる 気候変動時代の発見的方法
岡村晶義、柗井正澄
26写真と文2
引き潮
マリー・ロレンツ
28総論
漂う水のなかに都市を建て・築くこと
田村将理

復興のリアリティーズ:09
29「きれいなゴミ」から解放された新たな暮らし
―令和元年東日本台風による被害で私が学んだこと
天利一歩

ノードとしての建築展:番外編
31近代デザインの足跡を辿る
川勝真一