2010-4月号 APRIL

特集= 〈郊外〉でくくるな

──等身大の都市周縁
De-Framing Suburbia -The Many Faces of Urban Outskirts

 

 今回の特集は今一度〈郊外〉を見つめ直すことが目的である。〈郊外〉にはステレオタイプなイメージがつきまとってきた。中流家庭のユートピア、均質・画一的・没個性的な空間、コミュニティの喪失・欠如、消費社会の純粋な体現、コンテクストのない環境、「ファスト風土」......といった言葉などに代表されるだろう。
 それらに対して、本特集のタイトル「〈郊外〉でくくるな」には二つの意図を込めている。ひとつめは郊外住宅地・ニュータウンだけに「くくるな」である。二つめはネガティヴな意味づけのみで「くくるな」である。
 郊外とは近郊の〈外〉なのであった。その外部性ゆえにニュータウンも建設可能であったのではないか。新興の住居群のみならず、歴史的履歴、インダストリー、経済的欲望、そんなさまざまな思惑の拮抗する舞台としてのダイナミズムあふれる郊外を、さまざまな側面から浮かび上がらせることを目的とした。主編集担当は伊藤俊介、サブ担当は饗庭伸である。
(編集長:中谷礼仁)


あまりに限定的だった〈郊外〉像

 郊外と呼ばれる都市周縁の地理的範囲には、住宅地の他に工場や大学といった産業も立地し、むろん農業も従来から行われている。しかし、〈郊外〉批判の多くでは住宅とその周辺、すなわち郊外住宅地、ニュータウン、国道沿いの商業施設群、駅前などに対象空間が限定されており、周囲に対してはあまり目を向けない。

 郊外批判は、少なくともある時期まで豊かな住環境、憧れの場所として提示されてきた郊外住宅地の虚像に対してリアルな実像を、ネガティヴな現象を通じて明らかにしようとする。だが、そこで語られる実像もまた、同様に一種の虚像であるといえよう。なぜなら、郊外の空間や生活にも多様性・多面性があるはずだが、それを便宜的にせよ均質・画一的であることを無条件の前提にしているからだ。〈郊外〉は仮想敵なのである。はたして都市をそのように論じるだろうか。

 では、そうした表裏のイメージに対して、現実はどのように把握すればよいのか。郊外の団地・ニュータウンや工業団地、大学は計画的に開発された場所である。しかし大きく見れば、都市周縁の農村地域に都市に収容しきれない住民、都市から追い出した機能を展開しながら、一方で市街化を抑制するという二重に消極的な論法で形成されてきたのが郊外である。したがって、そもそも明確に定義されにくい存在なのである。

 郊外は、都市と同じように将来像を検討すべき存在である。言説の中の存在に「くくる」ことではなく、「くくりきれない」ことを意識したうえで向き合うこが必要だと考える。そこで本特集では、郊外にも歴史とコンテクストがあり、住民にとっては〈場所〉であり、さまざまなことが起きているという視点をとった。(1)郊外をどのように認識するか、(2) 郊外をどのように再編するか、(3)郊外でいま、なにが起きているかを論じることで郊外という茫漠とした広がりを、断片的・局所的にかもしれないが実体として把握する手がかりを提供できればと考えている。
(伊藤俊介)

(特集担当委員:伊藤俊介、饗庭 伸)


CONTENTS

連載
日記のなかの建築家たち
第4回 磯崎特集とカーン特集/中村敏男 004
建築雑人 ピーキーな技術/ピーキーな建築/日埜直彦 006

特集イントロダクション/中谷礼仁 008
特集主旨 あまりに限定的だった〈郊外〉像/伊藤俊介+饗庭 伸 009
対談 郊外に生きるとは/重松 清×若林幹夫 010

連載
オン・サイト 八王子市めじろ台/山岸 剛 016

インタビュー 「農村の中の都市居住」から「郊外の都市空間」へ/渡定夫 018
論考 土地の履歴から読み解く郊外のコンテクスト/宮城俊作 022
論考 「まがいもの」の風景を考える/中川 理 024
鼎談 郊外の仕切り方─捨てずに縮小するための方法論を考える
/大野秀敏×福川裕一×藻谷浩介 026
論考 千里ニュータウンにおける「都市組織」の再構築/木多道宏 034
論考 商業施設を地域社会の活性化のために
─行政と小売業と市民の提携の必要性/鷲巣 力 036
論考 郊外空間の生む生活スタイル/岩佐明彦 038
ルポ 郊外の現在進行形/伊藤俊介+饗庭 伸 040
①都市の開拓民
─ニュータウン第一世代の住環境維持/秋元孝夫 040
②郊外都市は工場をどう受けとめていくべきか/松原 宏 042
[ フィールドワーク]東京郊外の断面
/東京電機大学情報環境学部・伊藤研究室+首都大学東京・饗庭研究室 044
③都市の一歩外へ─農的暮らしを発信する/後藤雅浩 046
総括 郊外の思考法をめぐって/饗庭 伸 048

連載
The Long Distance Chat
The Eroticism of Space /ユハニ・パッラスマー×トム・ヘネガン 049

特集を読んで(2010年2月号[特集=建築・有象無象]) 050
「神さま 対 烏合の衆」という、思考の枠組みそのものを問い直す/芹沢高志
アジアの価値観/田辺新一