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表紙『幸せな名建築たち 住む人・支える人に学ぶ42のつきあい方』
本誌の人気連載(2014-17)が書籍になりました。
東日本大震災緊急報告連載
建築漫画

2010-5月号 MAY

特集= BOSAI立国ニッポン


“BOSAI”-Disaster-reduction Nation, Nippon

 

 防災特集である。比較的地味に扱われがちな分野であったが、巨大災害が頻発するニュースをみるに、その特集の射程は広大である。編集会議上、「防災」をより広義で身近な概念にすべきではないかという意見もあり、MOTTAINAIよろしくBOSAIという新語を今回提出することとした。
 ニッポンは実はBOSAIという側面から世界、特にアジアとつながっている。というのもその地域の人々の多くは、地震が多発するプレート境界地域の上に文化を築いてきたからである。被災害国ニッポンの教訓と実践は、新しいかたちで世界に貢献できるのではないか。そのさい単なる防ぐことから、災害がもたらす文化的側面をも含めた国づくり=立国へのケアをも慎重に扱わなければいけないのではないか。ニッポンが迎えつつあるメガディザスターの時代での生き残りを図りつつ、このような挑戦的なテーマを掲げた編集担当は牧紀男、林憲吾である。
(編集長:中谷礼仁)


BOSAI立国ニッポンの視座

 20世紀が戦災の世紀であるとするなら、21世紀は自然災害の世紀であり、今後の日本を考える上でBOSAIは重要なキーワードとなる。

 南海トラフを震源とする地震、首都直下地震の今後30年間の発生確率は50~70%にも達し、予想される被害額は日本の国家予算に匹敵する。また、気候変動の影響も深刻であり、巨大台風による高潮により大都市の0m地帯が水没するような事態も予想される。こういった巨大な自然の外力に対して備えるためには、被害を出さないための対策だけでなく、被害から立ち直るための回復力を強化することも重要である。そのため、抵抗力と回復力を兼ね備えた総合的なBOSAI力を強化することが必要となる。
 もうひとつBOSAIが鍵となるのは、かつて日本のGDPの20%を占めていた建設業の生き残りである。国内での建設需要は今後それほど期待できず、日本の建設業が生き残るためには海外進出が不可欠になる。海外で活躍するためには他の国にはない「強み」を持つ必要がある。日本のBOSAI水準は世界的に見ても高い水準にあり、海外において建設業が活躍する上での鍵になるだろう。

 被害を出さないための工学的な対策は、「建物が壊れない」「人を殺さない」という世界共通の基準のもとに成り立っている。しかしながら、総合的な観点からBOSAIを考えると、最も基本となる「何を守るのか」ということでさえ地域ごとに異なる。日本においては災害から守るべき最も重要なものは個々人の命であるということになっているが、世界を見渡すと、氏族の生き残りであったり、数世代にわたって利用する住宅であったりと、千差万別である。さらに地域固有のさまざまなBOSAI技術が存在する。BOSAIとは地域の文化的背景を含めた概念であり、日本の技術をそのまま海外に持っていっても役に立たない。

 工学技術としての防災ではなく、長い間災害と共に生きてきた地域文化の中に残るBOSAI対策、災害に見舞われても速やかに立ち直る回復力にも着目した総合的なBOSAIという観点から、本特集では、今後の日本の生きる道としての「BOSAI立国ニッポン」のあり方について考える。具体的には以下の二つの視点、・メガディザスターの時代:果たして日本は21世紀前半の巨大災害の時代を乗り切ることができるのか、・国際防災コンサルタントとしての日本:日本の持つ自然災害対策のノウハウは果たして海外で通用するのか、という視点から検討を進める。

 本特集が、これまでの被害を出さない対策に特化した「防災」対策ではなく、総合的な・文化的な側面も含めた意味での「防災」対策、さらには「TSUNAMI(津波)」「SABO(砂防)」のように日本発の概念として世界に向けて発信する「新たな防災」=「BOSAI」のあり方を示すものになればと考える。
(牧 紀男)


(特集担当委員:牧 紀男、林 憲吾)


CONTENTS

連載
日記のなかの建築家たち
第5回 ニューヨーク・ファイヴ/中村敏男 004
オン・サイト
2010年1月17日/阪神・淡路大震災15周年/神戸/山岸 剛 006
特集イントロダクション/中谷礼仁 008
特集主旨 BOSAI立国ニッポンの視座/牧 紀男×林 憲吾 009

第一部
インタビュー 地球システム・人間圏・駆動力―その最適値をさぐって/松井孝典 010

第二部
座談会 21世紀前半のメガディザスターをどう迎え撃つのか/大熊 孝×中林一樹×田中 淳×林 康裕 014
論考 地震火災に対する消防力の延焼防止効果とその限界/関澤 愛 020
論考 東海・東南海・南海地震 高知市における湛水被害からの復旧・復興対策の検討/澤田雅浩+馬場俊孝 022
論考 気候変動と「広域ゼロメートル市街地」/加藤孝明 024
論考 首都直下地震と海溝型巨大地震による超高層建物の被害と対策/久田嘉章 026
鼎談 国際社会が求める日本のBOSAIとは/西川孝夫×岡崎健二×伊勢崎賢治 028

第三部
論考 日本の「防災」技術は世界で通用するか/渡辺正幸 036
論考 転用・改築に強い耐震技術を─インドネシアが日本の防災に期待するもの/山本博之 038
論考 風景が記憶する災害/小林英之 040
論考 都市計画化するオランダの洪水リスクマネジメント/ヨス・ファンアルフェン+フランス・ファンド・フェン/聞き手 吉良森子 042
鼎談 しなやかな社会の構築とBOSAIの国際化/増田幸宏×楠 浩一×巴 紀行 044

連載
The Long Distance Chat
ドバイショックその後
Dubai Now; after Dubai debt crisis in November 2009 /サイモン・フレーザー×中江 哲 049

特集を読んで(2010年3月号[特集=ナイーブアーキテクチャー]) 050
IN-BETWEENのスタンス
─ナイーブアーキテクチャーからみえること/堀越英嗣
自閉はどちらか/倉方俊輔