2010-7月号 JULY
『建築雑誌』では1979年10月号以来の久々の建築写真特集である。そのあいだに建築写真は急激に変容してきた。デジタルカメラの普及、単なる修正を超えた絵づくりのできるコンピューターソフトの登場、そしてなかでも携帯端末における撮影機能の登場は大きかった。量はいつか質に変わるという。そのイメージの氾濫、凶暴とも言える複製可能性は、高価なフィルムを使って1枚1枚対象をつかみ取るように撮影していた時期とはまったく違う。確かに写真の質が変わっているのだ。しかしながら写真と被写体としての建築という関係は、そのような変化の中でもなぜか微妙に安定しているように思える。しかし巷の写真の氾濫は確実に建築写真の定義をも変えていくだろう。その未来のおぼろげな像の構築を企図した編集担当は山岸剛(写真家)である。サブ担当は柴原聡子。幹事役を中村敏男とした。
(編集長:中谷礼仁)
本特集では、戦後日本における建築写真の小史を書くことを試みる。 ネガの発明者W.H.F.タルボットによる世界初の写真集『自然の鉛筆』の最初の1頁は、建築の写真であった。写真術の発明とともに誕生した「建築写真」が、戦後日本においてどのような変遷をたどってきたのかを、主にその撮影者すなわち写真家への聞き取りを中心として行う。これはすなわち建築家、建築潮流、ひいては建築ジャーナリズムなどの「建築」と「写真」の共犯あるいは共鳴という、関係の歴史をたどることにもなるだろう。 さらにこの小史は、現在の一般化したデジタライゼーションをもその射程に入れる。つまり記録媒体の飛躍的な技術革新によって、写真そのものがかつて経験したことのないほどの混沌のなかにある。そんななか、建築ひいては絵画の豊かな蓄積をもとに形成されてきた、由緒正しき「建築写真」は今どこに立っているのか、そしてどこに向かおうとしているのか。その現在地と現代性を問う。 建築写真を拡張していくための、ドキュメントとグラビア構成による建築写真小史である。(山岸 剛)
(特殊担当委員:山岸 剛、柴原聡子)
丹下健三「 広島平和記念資料館」 001
二川幸夫「 高山市日下部礼一邸 おいえとなかおいえ」 002
村井 修「 国立屋内総合競技場(代々木体育館)」 003
大橋富夫「 せんだいメディアテーク模型」 004
小川重雄「 ヴェニスの現代美術館Punta della Dogana」 005
ホンマタカシ「 Niteroi Contemporary Art Museum, Brazil」 006
畠山直哉「 UNTITLED / CCTV」 007
Wolfgang Tillmans 008
写真クレジット・出典一覧 009
特集イントロダクション 中谷礼仁 010
特集主旨
「建築写真」の現代性をとらえるために/山岸 剛+柴原聡子 010
第一部
レポート 歴史を書く眼??二川幸夫の建築写真について/山岸 剛 011
インタビュー 「建築写真」を開く――象徴としての写真/村井 修 012
インタビュー 「建築写真」はカタくない/大橋富夫 015
論考 建築写真の歴史から見た建築/岡塚章子 018
第二部
対談 錯綜する「建築写真」/小川重雄×岸 和郎 020
論考 曖昧と極端――建築=写真ノート2010(その1)/倉石信乃 023
第三部
対談 「建築写真」以後/鈴木了二×西沢立衛 024
論考 曖昧と極端――建築=写真ノート2010(その2)/倉石信乃 027
関連年表 戦後日本建築写真年表/加門麻耶 戸田 穣 柳井良文 東辻賢治郎 028
連載
オン・サイト 森山邸(設計:西沢立衛建築設計事務所)、2010年4月6日、17時/山岸 剛 030
日記のなかの建築家たち 第7回 『a+u』の写真家たち/中村敏男 032
編集後記 ここから始めなければならない/山岸 剛 034
特集を読んで (2010年5月号[特集=BOSAI立国ニッポン]) 034
「BOSAI立国ニッポン」の危うさ/室崎益輝
それぞれの防災/深見奈緒子