2010-8月号 AUGUST
建築界周辺ではいわゆるNPO"的"な活動が盛んである。自身の専門知識が災いして、やむなくマンションの理事を引き受ける。これもまた、NPO的な始まりの縁と言える。
建築ほど社会に開かれた学/術はない。建築は潜在的にNPO的とも言えるだろう。しかしながらNPO的であることと、本格的なNPO活動との距離をまだ見定められていない会員が多数ではないだろうか。本特集では、NPO法成立以来10年以上を経た多数のNPO活動の場における建築的学/術の展開ぶりを紹介した。編集担当は孤軍奮闘でまとめた饗庭伸(首都大学東京准教授)、後見人幹事を内田祥士とした。建築の展開性を見つけるきっかけとなれば幸いである。
(編集長:中谷礼仁)
「我々がこの雑誌をつくれば、大阪とか東京の繁華街に3桁の書店が生まれるんですよ」。対談に登場いただいた、ビッグイシューの佐野章二代表が設立時に語った言葉である。写真は建築会館のあるJR田町駅前の「書店」である。現実には、道路占有をめぐる極めて現実的な調整がその背後にあるのだが、そこには社会的な「正しさ」を持った小さな空間が確実に生まれている。 NPO法ができて11年が経過し、39,893のNPOが生まれた。このことを、まずは、都市空間の中に、社会的な正しさを持った39,893の小さな空間が誕生した、ととらえよう。 国会議員は722人、都道府県知事は47人、市区町村の首長は1,727人、都道府県議会の議員は2,731人、市区町村の議員は34,374人、合計で39,601人である。政府にいる市民の代表とほぼ同数が誕生したことになる。つまり、私たちは何か公共的なことをしようと思ったときに、政府ではない、もうひとつの実現手段を手に入れたことになる。 では、この小さな空間は建築をどのように変えてきたのか、変えていくのだろうか。本特集はNPOが開拓してきたヨコ方向の「広がり(39,893)」と、NPOが積み上げてきたタテ方向の「歴史(11年)」に注目し、建築を中心に、NPOの「広がり」と「歴史」を「適切に見渡す」ことを目的として企画された。
(饗庭 伸)
(特集担当委員:饗庭 伸)
連載
日記のなかの建築家たち 第8回 ホワイト・アンド・グレイ/中村敏男 004
オン・サイト
神奈川県川崎市川崎区、2010年5月24日、月曜日、15時/山岸 剛 006
特集イントロダクション 中谷礼仁 008
特集主旨 39,893の小さな空間/饗庭 伸 009
第一部
対談 NPOこれからの10年──組織とつながりのデザインに踏み出す/
佐野章二×山口洋典 010
第二部
記事 NPOの広がり──56のNPO 015
①住まいづくり NPOの住まいづくりへのかかわり方/伊丹絵美子+小林文香 015
②地域遺産保全と景観形成 遺産を生かし、風景を生み出すNPO /中島直人+岡村 祐+松井大輔 016
③災害と復興 阪神・淡路大震災の被災地から/宮定 章 017
④住宅開発 民間非営利組織による住宅開発/海老塚良吉 018
⑤住教育 住教育NPOは必要か?/薬袋奈美子 019
⑥外国人居住 日本で暮らす外国人の居住問題と支援の取組み/山本薫子 020
⑦自治とアドボカシー 市民社会組織による自治の創出/長野 基 021
⑧地球環境 地球環境NPO /岡田久典 021
⑨紛争と調停 欠陥建築・近隣紛争とNPO /澤村 明 022
⑩農山漁村 NPOで農山漁村、枠の組み直し/山崎義人+中塚雅也+内平隆之+中塚華奈 023
⑪こども こども×NPO活動/佐藤栄治+山田あすか 023
⑫防犯 防犯⇔まちづくり/樋野公宏 024
⑬創造都市 大阪の歴史的都心に広がる創造的運動エネルギー/嘉名光市 025
⑭居住福祉 住宅弱者への居住支援/米野史健 026
⑮まちづくりの支援 コミュニティ・イネーブラーとしての専門家NPOのあり方/北原啓司 027
筆者略歴 028
第三部
対談 NPOこれまでの10年──NPOと建築運動/今田 忠×布野修司 029
編集後記 2010年のネットワーキング/饗庭 伸 035
連載
特集を読んで(2010年6月号[特集=われらの庭園]) 036
「ところ」と「こころ」の世界観/齊木崇人
ぬぐえぬ違和感/野城智也