2010-10月号 OCTOBER

特集= 構造者の格律


Maxim of Structural Professionals

 

 すでに自明であるが、普遍は遍在する以上、それが現実をなす場合、決して単一なかたちを指し示すわけではない。ここに格律が生じる。

 「格律」とはカント哲学で、"普遍的法則に対する、実践的原則"のことである。要は制作者が課した個人的規則、決断である。

 最近の建築生産のプロセスの急速な変化は私たちに多様な解法をもたらしてくれた。しかし同時に建築の理が問われている。この問題に日常的に直面しているのは、本特集でいう構造者である。揺れ動く与条件、解析方法のなかで、彼らはどのように自らを律しているのか。この根源に立ち向かう特集を企図したのは陶器浩一である。副担当を中江哲があたった。ゲスト編集委員として福島加津也(建築家)を迎え、後見を中村敏男顧問とした。
(編集長:中谷礼仁)


構造・力・主体

 なぜ構造か。

 そもそも構造とは倫理的存在である。なぜなら、"こわれてはならない"ということはいつの時代でも変らぬ自明の真理であるから。

 コンピューターを背景にした技術の向上は建築の可能性を大きく広げた反面、なんでもありの空虚な建築とものづくりの空洞化を生み出す両刃の剣でもある。また、過度の技術への依存は冗長性をもたない都市・建築をつくりだしかねない。

 急速に進化するテクノロジーにわれわれは何を託し、次の時代に向かって何をすべきなのか。構造の主体性とは何か。"建てること、築くこと"とは何かをいま一度見直し、構造という思考がもたらす新しい世界観を考えてみたいと思う。

 

 特集は大きく以下の三つで構成した。

① 可能性の極大化のなかで、自らの立脚点をどこに定めるか?

 建築は合理的で機能的でなければならないが、その定義は時代や社会によって変わるものである。技術の進歩と共に建築の可能性が広がるなかで自らの立脚点をどこに定めるのか。

②不確実性の極小化のなかで、構造が持つべき主体性とは何か?

 構造は倫理でありながら、その根拠である科学技術は常に不確実性を伴う。予測の精度があがり、一見、不確実性が極小化してゆくなかで、技術がレンジを狭くして包容力をなくしていることはないか。またその不確実性の縮小は、前提となる要求条件が変われば、砂上の楼閣になりはしないか。そのような変動のなかで構造者が持つべき主体性とは何か。

③ いつの時代も変らないものとは?

 時代や社会が変っても変らない構造的理性は果たして存在しうるのか。そこであらためて建築の歴史における構造の果たした役割に立ち返り、築くということの本質を考えたい。

(陶器浩一)

(特集担当委員:陶器浩一、中江 哲、福島加津也)


CONTENTS

連載
日記のなかの建築家たち
第10回 グロピウス邸からシンドラー邸へ/中村敏男 004
オン・サイト
岩手県宮古市津軽石、2010年8月18日、水曜日、9時/山岸 剛 006

特集イントロダクション 中谷礼仁 008
特集主旨 構造・力・主体/陶器浩一 009

第一部
対談 構造家の立ち位置をさだめるもの/川口 衞×佐々木睦朗 010
論考① 私たちの構造設計への思い/彦根 茂 018
論考② 私の構造決定論/細澤 治 020
論考③ プロジェクトをちょっと引いて見る/佐藤 淳 022

第二部
鼎談 不確実性をどうとらえるか/和田 章×神田 順×内田祥士 024
インタビュー 合理が振れたとき──新耐震施行から学ぶこと/高坂清一 029
論考① アナリシスの限界/西澤英和 032
論考② 最適化と冗長性/大崎 純 034

第三部
インタビュー 伝統と地形から構造を考えること/ユルグ・コンツェット 聞き手:細谷浩美 036
公開座談会 築くことの初源・歴史・公理/斎藤公男×中川 武×藤森照信 040

編集後記 048
 時代を泳ぐのも"格律" /陶器浩一
 相対的なものとしての設計基準/内田祥士
 構造が持つ同時代性/中江 哲
 Ghost in the Structure /福島加津也

連載
The Long Distance Chat
Open-endedness and new Slovenian architecture /ピーター・シェンク×河野 裕 049

特集を読んで(2010年8月号[特集=NPO Now]) 050
専門家として立場を固定したところで支援が成立するのか?
(対談での佐野章二氏の提起)/林 泰義
NPOという言葉/平山洋介