2011-2月号 FEBRUARY

特集= 建築論争の所在


The Locus of Architectural Debates

 

 ずいぶん前、葉書が一枚編集部に届いた。
「建築論争史」をまとめてくださいという会員からのリクエストであった。
 
 またある日、若い人と話しているうちに微妙に会話がずれていることに気づいた。どうやら「批判」の意味が違っているのである。問うてみると、「相手の言い分を攻撃して勝つこと」という。「disる」ともいった。暗澹たる気持ちになって、辞書を差し出した。
 
 同じころ、明治以来の日本近代の建築論を収録したコンパクトな本(定価1,400円)が、稀覯書になっていて3万円もの値段がついていた。

 そして当方の印象としても、ネットを見れば、ごろごろと「議論のようなもの」が転がっているにもかかわらず、少なくとも建築界においては、最近とんと論争らしき論争を聞いたことがないように感じた。

 以上のような状況が、この「建築論争」についての特集企画をすすめた背景である。

 明治期の議院建築様式論争、大正期の虚偽論争や分離派宣言を巡る議論、昭和期の国民建築様式論や、戦後の「伝統論争」「民衆論争」「巨大建築論争」など、建築論争が日本近代の建築の認識を進化させていったことは間違いないだろう。

 しかしながら検討を進めるうちに、単なる建築論争の回顧をすればいいのではないことに気づいた。むしろ、なぜ現在、そのような論争が生まれないのか。あるいは「論争」がないように見えるのか、を問うことこそがこの特集の意義になるだろうと思った。


この特集は大きく2部に分かれる。

 第1部は「回顧と吟味」編 である。日本近代の建築論争を紹介した書籍が事実上ないのであれば、『建築雑誌』こそ、その役目を担うべきである。特に第二次世界大戦以前における主たる建築論争は、この雑誌を舞台に展開されたからである。そしてそのすべてが現在、CiNiiとの連携によって公開されている(『建築雑誌』ホームページhttp://jabs.aij.or.jp/にリンクあり)。小特集であるが、そのリンクを示せれば、レファレンスになる可能性がある。碩学に聞き取り、その分野の研究者の第一線に各時代の論点をまとめてもらった。その結果として日本近代の「建築論争」の歴史的性格が現れることを期待した。

 第2部は「批判と展開」編 である。第1部をふまえたうえで、「論争なき時代」にみえる現在の建築界の状況をすべて対談において展開した。「論争」とは何か、もしかしたら私たちは「論争」の幻影に惑わされているのではないか。その正当的な批判から始め、現在の論点をいくつか紹介した。3月号以降にも引き継がれる視点の一部を提供したかったのである。
 編集担当を中谷礼仁(本誌編集委員長)、戸田穣委員とした。

(編集長:中谷礼仁)


CONTENTS

特集主旨 中谷礼仁 002

第一部

インタビュー 建築論争の条件/山口 廣 005
論考① 国家のアイコンをめぐって
──折衷主義・純粋美学・弁証法/土居義岳 008
論考② 対抗勢力の誕生/岡山理香 010
論考③ メディアと建築家/井上章一 012
論考④ 戦後建築論争史の見取り図
とくに「巨大建築論争」の再読のために/青井哲人 014

連載
オン・サイト
越谷レイクタウン、2010年12月6日、月曜日、7時/山岸 剛 016

第二部

公開対談 「論争」なき時代と展開する建築論/隈 研吾×岡﨑乾二郎 018
対談① 高層ビルから墓石の間で建築を考える/内田祥士×石川 初 022
対談② 合意と妥協 媒介者のありかを巡って/饗庭 伸×藤村龍至 024
対談③ サステイナブル時代の建築論/難波和彦×青木 茂 026
対談④ 法と構法 建築の理想と現実を巡って/深尾精一×大森文彦 028

編集後記 論争なき時代の論点を巡って/戸田 穣 030

連載
The Long Distance Chat
都市開発における共存と断絶──タイ・バンコクの歩み/
岩本昌樹×クリス・マノーピモーク 031

日記のなかの建築家たち
第14回 チューリッヒを通って──その2/中村敏男 032

特集を読んで(2010年12月号[特集=平城遷都1300年考]) 034
歴史を読む/渡辺豊和
古都を巡る開かれた論争/陣内秀信