2011-3月号 MARCH

特集= アジアアトラス


Asia Atlas : Order and Wisdom for the Future

 

特集主旨
繰り返し考える私たちとアジア

 アジアとは東を意味する言葉に過ぎず、空間的・概念的に定義することはできない。アジアとは動態的な存在である。私たちとアジアも時代とともに移ろいでいる。伊東忠太のアジア、フィールドサーベイのアジア、失った私たちの原風景を探し求めるアジアなど。かつて世界地図(World Atlas)の辺境であったアジアも、21世紀、世界に大きな影響を及ぼす地域になっている。特にこの10年の状況変化は目まぐるしい。
 日本建築学会も1986年(創立100周年記念)から来るべき時代を見据え、中国、韓国との国際シンポジウムを開催してきた。東アジアの建築国際シンポジウム(ISAIA)がそれである。しかし、これまでISAIAが『建築雑誌』でまとめられたことはない。投稿論文にはプロシーディングがあるが、基調講演やテーマセッションは、記録をつくらない限り、人々の記憶のなかに消えていくだけである。それではもったいない、この特集の始まりである。これまで8回のISAIAはその時々におけるアジアの断片であり、私たちはアジアをどのようにとらえているのだろうか、どのようにつき合おうとしているのだろうか、という問いへの視座を与えてくれる。辺境の民がISAIA 8thで選んだテーマは、「Asian View: Order and Wisdom for the Future」。そのISAIAの記録と歴史をまず、まとめた。
 相対的な私たちの位置を確かめることも含め、70年代ごろからリージョナリズムとともに、多くの研究者がアジアで調査研究、活動を行ってきたが、今や研究中心とは言えない。国際会議、ジャーナル、ワークショップそして教育といった人的交流など、日本対アジア、あるいは日本対東アジアという枠組みを超えて、アジアというフィールドで建築や都市に関する活動は活発かつ、多様化していると言えるだろう。その範囲はより拡張する一方で、地域間の関係性は多極化しながら、その身体的かつ物理的距離は縮まりつつある。すなわち、特集の終わりは、アジアの今やこれからのアジアを論じるため、日本からのアプローチに加えてアジア諸国・諸地域からの視点、試みを取り上げることである。
 本特集では、地域的には南アジア、切り口では設計や建設について触れられていない。その意味で「21世紀アジアアトラスVOL.1」ととらえていただければ幸いである。編集担当を木下光とし、副担当を牧紀男があたった。ゲスト編集委員として山根周(滋賀県立大学)とした。

(木下 光)

CONTENTS

特集主旨 繰り返し考える私たちとアジア/木下 光 005

第一部 8th ISAIA
基調講演① 日本
日本の都市・建築空間にあらわれた奥の思想/槇 文彦 006
基調講演② 中国
本土設計──地域固有の自然・人的資源に基づいた設計/崔愷 008
基調講演③ 韓国
韓国における三つのコミュニティデザイン
──望ましい都市と住みよい近隣に向けた異なるアプローチ/パク・ソヒョン 010
テーマセッション 構造系
耐震改修における美・用と強/牧 紀男 012
テーマセッション 歴史系
アジア建築史家たちの航路図/高村雅彦 014
テーマセッション 計画・デザイン系
「アジアの都市住宅の再生/
Regeneration of Urban Housing in Asia」報告/八代克彦 016
テーマセッション 北九州・環境系
アジアの低炭素都市づくり/高口洋人 018
テーマセッション 特別企画 学生国際設計競技・ワークショップ
2050年の海域環境都市/池添昌幸 020
ISAIAの歴史
ISAIAの歩みとこれから/山根 周 022

第二部 これからのアジア
論考① スラム再生への経験交流/穂坂光彦+内田雄造 026
論考② アジアの建築知を掘る・つなぐ・育てる:mAANの試み/村松 伸 028
論考③ アジアの都市・建築ジャーナルの役割と『Journal of Asian Urbanism』
『Journal of Habitat Engineering』の刊行/出口 敦 030
論考④ アジアからみた台湾/呉 秉聲 032
論考⑤ 東南アジアからのサステイナビリティの教訓:シンガポールの経験/
ヨハネス・ウィドド 034
論考⑥ ユネスコ・アジア太平洋遺産保護賞の歴史と重要性/
リチャード・エンゲルハルト 036
座談会 アジアにおける私たちの展開──支援・研究の先にあるもの/
国広ジョージ×佐藤浩司×篠崎正彦 038

編集後記 044
英語版アジアアトラスの必要性/木下 光
自然災害とアジア/牧 紀男
Asian View:変革期のアジアをどう展望するか/山根 周

連載
The Long Distance Chat
Architecture and Democracy/ジョー・ノエロ×トム・ヘネガン 045
日記のなかの建築家たち
第15回 チューリッヒからミラノへ/中村敏男 046

オン・サイト
検見川送信所(1926-1979、設計:吉田鉄郎)、2010年12月6日、月曜日、13時/山岸 剛 048

特集を読んで(2011年1月号[特集=未来のスラム]) 050
スラムに学ぶ/藤井敏信
「未来のスラム」は存在しない/山形浩生