2011-4月号 APRIL

特集= 日本のデザイン×ビルド


DESIGN x BUILD in Japan

 


特集主旨
建築の潮目──デザインとビルドをめぐる思索

 日本の住宅着工戸数が最大になったのは、1973年の191万戸。絶対とは言えないが、この数字を超えることはおそらくもうないだろう。戦後、私たちはすべての人が等しく幸福になることを信じて、まちを、建築をつくってきた。必然的に建築は大きくなり、効率化、均質化した。建築のつくり方も建築産業もそれに対応して、かたちづくられた。その間、デザインとビルドは制度的には分けられながらも、デザインビルド(設計施工一貫)が歴史をベースにしながら、主たるつくり方として成長していく。デザインとビルドのそんなねじれた関係を見直し、両者を近づけ直そうとする動きは、地域主義やsmall is beautifulのような考え方、伝統や職人への礼賛とともに、断続的に今日まで続いている。社会への影響は小さいかもしれないが、建築観とも言えるその議論は、つくり方それ自体も常に巻き込み、デザインとビルドの関係は多様性を増してきた。しかし、数多くの試行は残念ながら、いまだマイノリティである。今日、建築は消費され、その意味は薄れ、つくり方もより収斂されつつあるかもしれない。そんな現状は誰しも受け入れ難いが、もちろん、昔に戻すことが困難であることも自明である。
 私たちにとって、デザインとは、ビルドとは何だろうか。私たちの建築のつくり方、デザインとビルドの距離感を近世以降から歴史的に整理していく必要がある。拡大ではなく、縮小(シュリンク)という社会の基礎的条件の根本的な変化によって、私たちはデザインとビルドの関係を自ら議論できる機会を与えられている。高度成長期のように、時代の趨勢に身を委ねざるをえないという状況ではない。この特集において、デザインとビルドの関係性をもう一度再構築することで、建築が社会にどのような影響を与えられるか、役割を担えるのか、検討したいと思う。それは新たに建築をつくることを誰もが疑わなかった時代から、どのような建築が必要とされているかが吟味される時代の潮目にあるからである。そして、この特集には、建築をつくる喜びや面白さをどのようにすれば、再生できるかという思索が水底を閑かに流れている。

(木下 光)

CONTENTS

特集主旨 建築の潮目──デザインとビルドをめぐる思索/木下 光 005

第一部
講義 戦後日本のデザイン×ビルドの展開/内田祥哉 006
論考① 江戸初期の城作事と大工棟梁・中井大和守正清/谷 直樹 012
論考② 「等」に込められた全体性──建築士法の成立に見るデザインとビルド/速水清孝 014
論考③ 「施主」とは何か?/後藤 治 016

第二部
連載
オン・サイト
佐藤浩司邸、2011年1月22日、土曜日、16時30分/山岸 剛 018

ルポルタージュ 佐藤浩司邸 建築人類学者の仕事場──建設中の佐藤浩司邸を訪れて/中谷礼仁 020
ルポルタージュ 佐藤浩司邸 擁壁の栖──縁起としての家づくりの記録/木下 光 021

第三部
インタビュー 場所に根ざして──Team Zoo Style/象設計集団の矜持/富田玲子×樋口裕康 022
論考① アーキテクト・ビルダーとタウンアーキテクト/布野修司 026
論考② 普請旦那とお抱え大工/岸本 耕 028
論考③ 建築家の了見と大工・工務店/植久哲男 030
聞き取り アメリカの教育 日本の現場/木下庸子 032
論考④ これからのデザイン×ビルド:日本の建築生産の将来/金多 隆 034

第四部
座談会 デザイン×ビルドの社会的側面──発注と請負/安藤正雄×西澤英和×小林秀樹×山梨知彦 038

編集後記 046
デザインの前、ビルドの後/木下 光
建築的ものづくりと教育/伊藤俊介
「普請」が「FUSHIN」となる/中江 哲

連載
The Long Distance Chat
台湾における市民・住民主体のふるさとおこし・まちづくり──社区(総体)営造/
王 貞儒×廖 嘉展×中野くみ恵 047

日記のなかの建築家たち
第16回 ふたたびチューリッヒへ/中村敏男 048

特集を読んで(2011年2月号[特集=建築論争の所在]) 050
「論争」が照射するもの/沢 良子
論争なんていらない/長島明夫