2011-7月号 JULY

特集= Re:edit 環境学カタログ


Re-edit, Catalog of Environmental Studies

 

環境学の再生

 本特集は東日本大震災発生前に企画したものである。この緊急事態に対し、企画内容の変更も編集委員間で議論したがそのまま進めることにした。原発事故にせよ、震災の復興計画にせよ、またそれ以前から続く地球温暖化問題にせよ、われわれが直面するこれらの問題には共通点があるように思えたからである。独立した高度な技術をシステムとして機能するよう統合することの難しさ、それらをコントロールしようとする人間の限界。われわれが直面する課題を前に、環境学を再編集してみたい。 (中谷礼仁)

 環境問題の解決には学際的なアプローチが不可欠と言われて久しい。環境学にはそもそもそういう思想が内包されている。還元主義的な手法では、局所最適解は得られても全体の最適解は得られないとの反省によるものだが、実際の社会でわれわれが目にするのは、ますます還元主義的に細分化され高度化していく技術や学問体系である。
 一方で環境問題を取り巻く社会情勢も、成熟化に伴う人口減少やグローバル化により加速される生活速度、若年層の不安定化など、複雑にそしてさらに深刻化しつつある。そして当然ではあるが、環境学という学問体系においても、このような社会の変化に応えようと変化しつつある。
 古典的な環境学は、現象を理解しようとする自然科学的なものであったが、ポストモダンでは環境学は自然科学と社会学が融合したものであった。そして現在のそれは、社会としてのシステム解、あるいは最適解を求める立場から、自然科学に社会学、さらには経済学や民俗学、哲学、宗教をも緩やかに包含するものになりつつある。
 本特集の主眼は、変化著しい分野を抽出し、現在の環境学の観点から対象を再評価[再編集]することにある。ここでは専門家の基点ともいうべき古典と、これからの古典を対比させながら、変化を読み取っていただければと思う。対象が不十分であることはお許しいただきたい。不十分な点については、自らの環境学として[再編]していただきたいと思う。本特集幹事は糸長浩司、担当は高口洋人、林憲吾である。 (高口洋人)

CONTENTS

東日本大震災緊急報告
見えなくなる被災者──三陸海岸の被災地域の今/三宅 諭 002
仮の施設/エンジニアド・バラック/竹内 泰 004
東京電力福島第一原発大災害による被害農村の苦闘/糸長浩司 006

特集主旨 環境学の再生/高口洋人 009

第一部
対談 東日本大震災と環境・工学のこれから/内山 節×内藤 廣 010

第二部
 Textbook
1  ① 生命系に根差した地域社会を創る/中野佳裕 016
2  ② 良質な環境を志向する計画住宅地の源流と発展/渡 和由 017
3  ③ 20世紀の環境建築史/太田浩史 018
4  ④ 建築物の再使用・再利用に対する炭素固定という新視点/中島史郎 019
 Technology
5  ① 人間と温熱環境──機械が自動調節するか、人間が調整するか/田辺新一 020
6  ② 環境の「見える化」──単純計測から能動制御へ/野城智也 021
7  ③ 彰往考来──Simulation /谷本 潤 022
8  ④ 空調システムデザインから総合建築環境システムデザインの時代へ/伊香賀俊治 023
9  ⑤ 原発から自然エネルギーへ/三浦秀一 024
10 ⑥ 環境共生型建築外皮に向けて/野原文男 025
11 ⑦ 木造住宅から木造建築へ/腰原幹雄 026
12 ⑧ ビルの温室効果ガス排出削減手法におけるイノベーション/諸富 徹 027
 Project
13 ① エコハウス2.0に向けて/難波和彦 028
14 ② 建物におけるソーラーエネルギー利用という視点 ソーラーエネルギーを前提とする建物という視点/川瀬貴晴 029
15 ③ プロトタイプ・アーコロジーとしてのアーコサンティの意味/田村富昭 030
16 ④ 藤井厚二『THE JAPANESE DWELLING-HOUSE』&「聴竹居」と21世紀環境共生型住宅「エコハウス」/松隈 章 031

第三部
座談会 震災後の環境学を考える/
マエキタミヤコ×糸長浩司×高口洋人×林 憲吾 032

連載
日記のなかの建築家たち
第19回 ル・コルビュジエを見る/中村敏男 036

オン・サイト
岩手県宮古市田老青砂里、2011年5月1日、日曜日、12時/山岸 剛 038

特集を読んで(2011年5月号[特集=建築学会の国際化 ゼロ・サーヴェイ]) 040
日本建築のグローバリゼーション/マルク・ブルディエ
一人ひとりの国際化で読み解く建築文化論/禹 東善