2011-8月号 AUGUST

特集= シミュレーション・デザイン


SIMULATION DESIGN –beneath the calculation

 

 この特集は、3月11日の東日本大震災の前に企画されたものである。現在、想定の「内」と「外」という言葉が煩雑に飛び交っている。シミュレーションを予測の技術と広義にとらえた場合、その限界を痛感せざるをえない事態である。しかし、私たちはシミュレーションという予測の過程なしにモノをつくることができないこともまた真実である。シミュレーションの本質が真摯に再検討される必要があるだろう。 ( 中谷礼仁 )

 「仙台メディアテーク」(2001)や「北京国家体育場(鳥の巣)」(2008)、フランク・O・ゲーリーやザハ・ハディッドの作品など、2001年前後から世界中の建築の形態が大きく変化した。この変化を推進したのは、膨大なデータを扱いうる高速なコンピュータ環境を背景にした、シミュレーションであるといわれている。そこではもちろん、彫塑的な形態のスタディのみならず、構造や設備、施工技術や都市リサーチなど、広く建築分野一般でこそ、シミュレーションが行われていることを見逃すべきではない。
 建築の歴史を振り返ってみると、ウィトルウィウスの『建築十書』や日本最古の木割書『匠明』における、比例関係を手がかりとした設計手法にも、シミュレーション・デザインの始まりを見ることができるのではないだろうか。それらの書は長い年月を越え、現代に過去の建築デザインの考え方を教えてくれる。つまり、シミュレーションを知ることは、目に見える形の奥底にある、デザインの成り立ちや実態を明らかにすることでもあるのだ。
 この特集では、シミュレーションの持つ意味について再考し、近年著しく成長したコンピュータによるシミュレーションの現状とその可能性や限界を考察することから、建築デザインの次の時代への流れを探りたい。本特集幹事は内田祥士、担当は福島加津也、日埜直彦である。 ( 福島加津也 )

CONTENTS

東日本大震災緊急報告
歴史的建造物の被害調査/山崎鯛介 003
JIA建築家の被災調査への参加/篠田義男 006
全国町並み保存連盟の取組み/山本玲子+高橋賢一 007

特集主旨 形態の変化の奥にあるもの/福島加津也 011

第一部
インタビュー1 コンピュータ・シミュレーションの黎明期/月尾嘉男 012
インタビュー2 シミュレーション1980/入江経一 014
論考 不合理な建築の設計/松川昌平 016

第二部
対談 構造解析とシミュレーション/陶器浩一×金田充弘 018
論考 人工知能とシミュレーション/松原 仁 020
インタビュー 失敗のシミュレーション/畑村洋太郎 022

第三部
座談会 デジタルデータというプラットフォーム/
山梨知彦×宮倉保快×羽鳥達也×勝矢武之 025
インタビュー コンピュータとロボットと建築──スイスからの報告/
ファビオ・グラマツィオ+マティアス・コーラー 聞き手:細谷浩美 028
論考 都市シミュレーションの課題:スペースシンタックスとエビデンス導入型デザイン/
ケイヴァン・カリミ 030

第四部
総括 シミュレーション・デザインとコンピュータ/
内田祥士×福島加津也×日埜直彦 032

連載
The Long Distance Chat Unity in Adversity──On disasters in New Zealand and Japan/
ジュリアン・ウォラル×アンドリュー・バリー 035

日記のなかの建築家たち
第20回 ロンドンの建築家たち/中村敏男 036

オン・サイト 宮城県気仙沼市、唐桑半島、半造、2011年5月2日、月曜日、10時/山岸 剛 038

特集を読んで(2011年6月号[特集=建築の境界]) 040
建築の境界/浅見泰司
間取りの研究ばかりやっていては駄目/三浦 研