2011-9月号 SEPTEMBER
2011年度の建築年報の編集方針について
昨年度(2010年度)の建築年報については、日本建築学会(以下「学会」と略す)の各常置委員会に、2009年度の主要な活動報告をしていただくよう執筆依頼をして、学会の幅広い活動を総合的に紹介することを目的とした。その結果、編集方針や内容はおおむねご支持いただいたが、一部の識者から、各委員会に向けた学会としてのテーマ設定があってもよいのではというご意見をいただいた。そこで、本年度の建築年報では、昨年度の編集方針を継続しつつ、テーマの設定も行うこととした。
テーマのひとつとしたのは、「木」(第三部・第四部)である。本年が国際森林年にあたることに加え、漫画『美味しんぼ』でにわかに注目された学会の「木造建築禁止宣言」もその契機となった。「木造建築禁止宣言」については、社会の誤解を招かぬよう学会としての見解が出されたが、その直後に『建築雑誌』としてもなんらかの形で取り上げて欲しい旨、佐藤滋会長(当時)から依頼があった。そこで編集委員会としては、建築年報がその場に最もふさわしいと判断したのである。
もうひとつのテーマとして「東日本大震災」をとりあげた(第二部)。これをテーマとしたのは説明するまでもないだろう。とはいえ、震災に関わる活動については、建築年報の執筆依頼時点では、総括的なことを述べる時期ではないと判断したため、各常置委員会等に対して、震災発生後から執筆時点までの活動記録を掲載するという編集方針を伝え、依頼を行った。
そのほか執筆を依頼した委員会等は、その時点で編集委員会が災害に関わる活動実態を把握していたところであるため、活動をしていたにもかかわらず執筆依頼がなかった委員会等については、この場を借りてお詫び申し上げたい。
なお、鉄筋コンクリートや鉄骨を扱う委員会など、「木」に関する活動とは迂遠の委員会については、昨年度どおり2010年度の主要な活動の報告を執筆いただいた。また、災害委員会には、東日本大震災によって忘れ去られてしまうことがないよう、ニュージーランド地震に対する報告を特別に依頼した(第五部)。
編集委員会からの依頼に対する各常置委員会の協力に、この場を借りて感謝申し上げたい。 (後藤 治)
また、福島第一原子力発電所における未曾有の事故についての建築構造学的報告を編集委員会として構造委員会に求めた。それについては、「原発災害がなお進行中であること、災害原因を客観的に検討するための技術資料等が現時点で不足していること」などを踏まえ、現時点での執筆を控える旨を構造委員会委員長からいただいた。事態の進展に合わせ、可能な限り、速やかな検討成果の公開を期待したい。次号の東日本大震災特集号その1においては、原子力発電所に関連する構造関連の記事を掲載予定としている。 (中谷礼仁)
編集方針 後藤 治+中谷礼仁 004
第一部 新旧会長対談
「建築の拡張」を引き継ぎ、「原点に戻る」/和田 章×佐藤 滋 005
第二部 東日本大震災活動報告
大災害調査復興支援本部活動報告 本部の立ち上げと初期活動/辻本 誠 012
災害委員会活動報告 災害発生後の主たる活動/平石久廣 013
東北支部構造部会活動報告 地震発生直後からの活動報告/薛 松涛+船木尚己 015
関東支部地震災害調査WG活動報告 関東支部地震災害調査連絡会と初動調査/塩原 等 016
東海支部構造委員会活動報告 3月15日、静岡県東部震度6強の余震を中心に/井戸田秀樹 018
北陸支部災害連絡部会活動報告 長野県北部の地震と東北地方太平洋沖地震の対応/五十田博 019
都市計画委員会活動報告 復興まちづくり支援・復興まちづくり調査・まちづくり展/加藤孝明 020
農村計画委員会活動報告 震災復興をバネにした農漁村の居住環境整備の支援/三橋伸夫 021
建築計画委員会活動報告 人々の生活に寄添い支える建築を目指して/松村秀一 022
建築歴史・意匠委員会活動報告 災害と歴史/伊藤 毅 023
防火委員会活動報告 東日本大震災に伴い発生した火災の調査/田中哮義 024
第三部 木造建築の課題と近年の取組み
座談会 展望:日本の木と建築/鈴木祥之×長澤 悟×安藤直人×腰原幹雄×安井 昇 025
論考 伝統の知恵を汲む現代木構造の確立こそ急務 伝統を未来につなげる会/増田一眞 030
第四部 「木」に関わる日本建築学会の取組み
防火委員会 火事に強い木造建築──背景・展望・可能性・課題/長谷見雄二 031
材料施工委員会 木造建築に対する材料施工分野の課題と役割/中島史郎 032
建築歴史・意匠委員会 今求められる真の木造伝統構法とその構造力学的解明/麓 和善 034
環境工学委員会① 木造住宅の熱性能に見る歴史的変遷とバイオクライマティックデザイン/長谷川兼一 036
環境工学委員会② 「木」とヒートアイランド──生態系サービスという視点から/田中貴宏 038
環境工学委員会③ 木質エネルギーと木造建築/三浦秀一 039
都市計画委員会① 地域の住宅生産者との協働による地域住宅推進と復興まちづくり/武田光史 040
都市計画委員会② 防災まちづくりと木造建築/山本俊哉 041
建築計画委員会 学校建築にみる地域材活用の課題──東洋大学 木と建築で創造する共生社会研究センター/樋口貴彦 042
農村計画委員会① 木を見て森を知る──里山林と潜在自然植生/大野啓一 044
農村計画委員会② 農村地域の自立を促す木質エネルギー地産地消/浦上健司 045
建築社会システム委員会 木造による学校施設の建設現況を概観する/松野浩一 046
建築法制委員会 建築基準法と木造建築──法制定時を振り返って/五條 渉 047
海洋建築委員会 厳島神社に学ぶ沿岸防災の知恵/濱本卓司 048
情報システム技術委員会 アルゴリズミック・デザインと木造建築/池田靖史 049
文教施設委員会 木を生かした学校づくりの意義と課題/長澤 悟 050
地球環境委員会 建築分野の木材活用促進をいかに進めるか/稲田達夫 051
第五部 常置委員会活動報告
構造委員会① 構造委員会のあゆみ──2010年度/中島正愛 052
構造委員会② 「海外組積造建築の地震被害とその対策」の概要/花里利一+黒木正幸 053
構造委員会③ 兵庫県南部地震から15年:建物への入力地震動はどこまで解明されたか/加藤研一 055
災害委員会 2011年2月22日ニュージーランド・クライストチャーチ地震における被害状況/河野 進+中埜良昭+前田匡樹+真田靖士+石川裕次+ムカイ・デヴィッド 058
建築教育委員会 建築独学/稲葉武司 059
連載
The Long Distance Chat
震災を契機に縮小社会で飛躍する/山崎 亮×吉良森子 060
日記のなかの建築家たち
第21回 アムステルダムの建築家たち/中村敏男 062
オン・サイト
復興小学校(東京都中央区立明石小学校)、2010年10月7日、木曜日、12時/山岸 剛 064
特集を読んで(2011年7月号[特集=Re・edit 環境学カタログ]) 066
カタイものとやわらかいものの出会い/高野雅夫
環境学という概念の普及/清家 剛
第六部 2010年度支援建築会議・調査研究委員会活動報告 067
第七部 2010年度支部活動報告 086
第八部 建築年表2010 096