2011-10月号 OCTOBER
東日本大震災を検証する
この10月号より、現編集委員会体制による東日本大震災に関連する特集を継続して3号行う。まず今号は現状編を報告する。次号以降、蓄積編、展望編と展開する。現状編では各項目に対し、的確な分析と判断を執筆していただけるよう、特集構成を注意深く検討した。そのなかで浮き彫りにされたのは、この現状認識が、震災の単なる報告ではなく、建築を制御し持続させるための学的組織としての、日本建築学会の役割についても及ばざるをえないということであった。 (中谷礼仁)
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、戦後の日本が経験したなかでは最大級の災害である。津波による都市・集落の壊滅的な被害、原子力発電所の重大事故、広域にわたる液状化被害、東京での帰宅困難者の発生、サプライチェーンでつながった工場停止といったさまざまな事態が発生し、さらにヨーロッパでの原発廃止決議が行われるなど、この災害の影響は日本だけにとどまらず世界各国に広がっている。東日本大震災は、決して建築学会と無関係ではなく、建築学会がその計画・設計に深くかかわってきた都市、集落、学校や病院といった公共施設、そして原子力発電所が大きな被害を受けた。建築学会は、今回の事態を真摯に受け止め、なぜ、東日本大震災では多くの人が命を失い、生き残った人々も住まいや仕事を失い、生活再建という長く、苦しい道のりを歩むことになったのか、なぜ計画停電に伴う都市機能不全が発生するのか、といったことについての原因究明を行い、その反省を踏まえ、今後の都市・建築のあり方について考えていく必要がある。『建築雑誌』ではこれから3号連続で東日本大震災についての特集を行うが、今回の特集ではまず、建築学会がかかわりを持ってきた都市・建築に、東日本大震災はどのような影響を与え、何が課題となっているのかについて、①原子炉建屋の被害、津波による建物の倒壊といった建築構造にかかわる課題、②漁村集落、都市、公共施設といった建築・都市の配置計画にかかわる課題、③現在のエネルギーシステムの問題と、代替エネルギーや自律分散型システムといった環境エネルギーシステムに関する課題、④まちづくりの方法、ジャーナリズムといった建築を取り巻くシステムについての課題という四つの観点から明らかにする。本特集幹事は内田祥士、担当は牧紀男、高口洋人である。 (牧 紀男)
連載
ON SITES p.1~p.5 山岸 剛
尾形家被災文書、リアスアーク美術館、2011年7月19日、火曜日、13時
万石浦、宮城県石巻市沢田、2011年7月20日、水曜日、14時
宮城県石巻市北上町十三浜、
本設住居敷地(施主:工学院大学)2011年7月19日、火曜日、9時
東日本大震災緊急報告
公共施設の被災状況と地域生活のひずみ/坂口大洋 007
災害時の医療の継続と医療施設の役割/厳 爽 007
命と暮らしを守りつなぐ場──高齢者介護施設の被災/石井 敏 008
小中学校の再開運営の実態/伊藤俊介 010
公共文化施設の被災状況と復旧への断片/坂口大洋 011
特集主旨 東日本大震災を検証する/牧 紀男 013
第一部
座談会 検証:東日本大震災と建築学会/
尾島俊雄×進士五十八×川島一彦×佐藤 滋×和田 章 014
第二部
構造論① 福島第一原子力発電所の放射能漏洩事故とその背景/秋山 宏 022
構造論② 建築者の責任/木村建一 027
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」掲載について/内田祥士 027
付録 発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針 029
構造論③ 津波と建築構造/中埜良昭 034
第三部
配置論① 集落の復元力と三陸集落の再生の視点/重村 力 036
配置論② 津波と土地利用──人口減少時代を踏まえた防災のための
土地利用規制の可能性について考える/姥浦道生 038
配置論③ 建築計画はどの程度の災害までを想定すべきか/吉村英祐 040
第四部
環境エネルギー論① 震災と建築・都市エネルギーシステム/下田吉之 042
環境エネルギー論② 復興に向けて──建築学会への期待/外岡 豊 044
環境エネルギー論③ 再生可能エネルギー再考/田中俊六 046
第五部
システム論① 東日本大震災における応急仮設住宅の建設について/高見真二 048
システム論② コミュニティ・アーキテクト(地域建築家)制度の確立へ
──被災地の最も深い現場で、無数の地域再生の経験を/布野修司 050
システム論③ 東日本大震災と建築ジャーナリズム/五十嵐太郎 052
編集後記 054
震災を考える/内田祥士
3.11から5カ月を経過して──まちの再開を考える/牧 紀男
建築学会が背負った課題/高口洋人
連載
日記のなかの建築家たち
第22回 ドイツ日記/中村敏男 056
特集を読んで(2011年8月号[特集=シミュレーション・デザイン]) 058
シミュレーションを担うコンピュータ/長島雅則
シミュレーションの妖しさを払うために/日色真帆