2011-11月号 NOVEMBER

特集= 国・人・土のデザインⅠ

――アーカイブとしての東北
Designing Nation, People, and Land: Vol. I -Tohoku as Archives

 

 日本はひとつではなかった。そして大地もひとつではなかった。これが今回の東日本大震災で実感したことであった。国家はシステムとして流動的であり、大地もまたその形成条件において異なった環境条件を生み出す。またそこで予想もつかなかった出来事すら発生した。「国土」とはそのような流動する社会と大地とが契った連鎖のデザインであった。それらをつなぐのが、人間の役割ということになるだろう。そのような〈国・人・土〉の連関性の総体こそを問うてみたい。
 三号を連続して行う東日本大震災特集号では、10月号を現状認識編とし、次号の12月号を展開編とする。中間となる今号はいわば蓄積編である。これまでの〈国・人・土〉にかかわるデザインの蓄積を、東北を中心として提示する。その分析と評価なくしては、新しい展開の提示は不可能である。
 同時にこれまで過去のものとして見過ごされがちだった建築的「文化財」に焦点をあて、そこから私たちが学ぶべき方向性を発見したい。それらはいわば地域文化そのものでもある。
 また近年、情報ネットワークの発達によってさまざまな記録化の試みが行われている。それらが単に記録のみならず、今後の環境作りのために有効に活用されうるかも検証することとしたい。
 環境とはまず、アーカイブなのだ。予想しえなかった出来事の連鎖のなかで、その環境世界を再調律する理念、具体的行為として、「建築」を再び築き上げたいのである。本号は中谷礼仁、柴原聡子、山口俊浩を編集担当とした。そして次期『建築雑誌』編集委員長である青井哲人をゲストに招いた。
(中谷礼仁)

CONTENTS

対照マップ 津波被災地の100年前と今/明治大学 建築史・建築論研究室 005
特集主旨 蓄積から学ぶ/中谷礼仁 009
巻頭インタビュー 8,000万人の日本列島/赤坂憲雄 010

東日本大震災緊急報告
応急仮設住宅の住みこなし/岩佐明彦 016
グループホーム型仮設住宅──特殊解から一般解としての仮設住宅へ/石井 敏 018
札幌へ避難してきた人々/森 傑 020

第一部 蓄積から学ぶ
論考① 「開発」に翻弄され続けてきた「東北」/北原啓司 022
論考② 計画遺産のアーカイビング 三陸地方の復興計画史からの展望/中島直人 026
論考③ 海・漁村集落へのまなざし/後藤春彦 030
論考④ 事後のアーカイビング:山口弥一郎に学ぶ/青井哲人 032
論考⑤ 蘇えらせよう、津波碑の教訓/北原糸子 034

第二部 震災のアーカイビングから
論考① 集落/民家の状況──宮城1,000のムラの継承・修復・転生を考える/大沼正寛 036
論考② 近世以来の家伝資料から──水戸德川家の記憶/德川眞木 038
論考③ 近代の芸術活動における象徴から──六角堂の流出への対応/小泉晋弥 040
論考④ 現代美術を通じた文化蓄積の試みから──福島県須賀川市と東日本大震災/神山俊一 042
古、今代建築の被害状況リスト 国指定等の主な歴史的建造物における被害状況/本号編集委員会とりまとめ 044

連載
オン・サイト
尾形家、宮城県気仙沼市、2011年7月17日、日曜日、11時/山岸 剛 046

第三部 アーカイビングから国土のデザインへ
ルポ 地域の蔵がなくなる 被災地の文化財の現在──尾形家再建プロジェクト、雄勝町まちづくりをとおして/
話し手:尾形 健+熊谷秋雄+川島秀一+小池淳一+田揚裕子+葉山 茂+後藤 治 執筆:柴原聡子 048
インタビュー 「デジタルアーカイブプロジェクト」「未来へのキオク」Google担当者インタビュー/村井説人+馬場康次 052
論考① 災害の記録/腰原幹雄 054
論考② 東日本大震災後方支援の取組みから/菊池新一 056

編集後記 058
「安全か、文化か」/中谷礼仁
多様であること/山口俊浩
以前、以後、地続きの文化/柴原聡子
アーキビストとしての人間/青井哲人

連載
日記のなかの建築家たち
第23回 続ドイツ日記/中村敏男 060
特集を読んで
(2011年9月号[特集=建築年報2011──木/東日本大震災]) 062
木材・木造の広がりと連携/有馬孝礼
建築の「明るさ」を忘れないために/大西若人