2011-12月号 DECEMBER
特集主旨 未来へのしなやかな思考
東日本大震災と原発災害は、日本の国土の不安定性とその上に構築されてきた人工的空間、人工装置の不安定性と危険性を強烈に示した。大災害は現在までの人工空間・システムの限界と危険性を明らかにした。不安定な大地に生きつづけるためには、大地(海)と人のつながりの再デザインが突きつけられている。
本特集は四部構成からなる。第一部は「不安定な国土に生きる」で、日本の多様な地形、環境のなかで構築された風土的日本を再生させるための理念、人々の暮らしと生き方の再考、そして国土空間・社会復興の方向性を考えた。日本の風土・景観に造詣の深いオギュスタン・ベルク氏に特別寄稿をいただき、風土の復興理念を論じてもらった。座談会・は、復興主体としての被災者自身の生き方を、環境哲学、建築文化、農的暮らし、サバイバルな生き方、コミュニティ再生から、座談会・は、具体的な国土復興、県土復興のビジョン、復興施策の展望について行った。
第二部は「仮設と本設」で、現地の復興活動状況に即した復興再生の形、姿、しなやかな建築、コミュニティの再生を考え、その姿のうえに再生の途と主体の構築、再生空間を展望した。被災者の視点に立った暮らしとコミュニティの再生の方向を、東北の被災地での建築学会関係者の実践活動の論考と、現地座談会で構成した。さらに、災害復興の建築的姿として、しなやかで柔軟な建築構法も展望した。
第三部の「バイオリージョンとアウトリージョン」は、揺れ・浸された大地、放射能汚染された大地とどう長い時間をかけてつながっていくのか、地震学のシナリオ、チェルノブイリからの学び、技術と時間を再考する論考に加え、地産地消的なバイオリージョン(生命地域)を超えた定住と移住のハイブリッド、ノマドの歴史や社会から学び、国土と人のつながりの再デザインについての座談会で構成した。
第四部の総括座談会は2年間の編集活動を振り返り、東日本大震災を建築界はどう受け止めたか、新たな建築学の総合的創造に向けた脱皮の方向を語った。
(糸長浩司)
2010年からの2年間にわたる『建築雑誌』編集委員会の最終号である。2011年3月11日から、日本の仕組み、人、そして国土のかたちが大幅に変わることになった。それを受けて2011年10月号より本格的に始まった東日本大震災特集は、現状認識編、蓄積編をへて、展望編となった。本号のテーマは「不定」である。
個別に働いてきた基準が、大津波や福島第一原子力発電所起因の放射性物質の拡散によって、流動している。値は常に暫定だ。このようななかで、どのような方向に具体的な「建築」の舵を取ればいいのか、多様な立場の交錯のなかからその萌芽を見つけ出したいと図った。編集は糸長浩司幹事、日埜直彦委員、牧紀男委員が行った。
(中谷礼仁)
東日本大震災緊急報告
岩手に生まれた新しいつながりと復興支援/北原啓司 003
山田町、野田村の復興まちづくり支援活動:
「寄り添う」カタチの多様性/市古太郎 004
石巻中心街・復興まちづくりの展望/真野洋介 007
特集主旨 未来へのしなやかな思考/糸長浩司 010
第一部 不安定な国土に生きる
緊急メッセージ 日本の風土を再建することが考えられるか?/オギュスタン・ベルク 012
座談会① 人と土に根ざしたコミュニティ・再デザイン/鬼頭秀一×藤森照信×加藤登紀子 014
座談会② 不安定時代の国×土/鈴木 浩×小林英嗣×中島正弘 020
第二部 仮設と本設
現地座談会 被災地現地座談会 そのとき何が求められたか/森山雅幸×芳賀沼整×本江正茂×福屋粧子 024
論考① 東海大学チャレンジセンター3.11生活復興支援プロジェクト仮設公民館/杉本洋文 030
論考② 恒久住宅建設による 『村』再生プロジェクト/後藤 治 032
論考③ 東日本大震災と多発する天井落下から学ぶもの─10年遅れの世紀末/川口健一 034
連載 オン・サイト
北上川、2011年10月25日、火曜日、18時/山岸 剛 036
第三部 バイオリージョンとアウトリージョン
座談会 移住の権利・定住の権利/池澤夏樹×伊勢崎賢治×吉良森子 038
論考① M9巨大地震によってもたらされた日本列島の変形─東北地方太平洋沖地震の発生メカニズム/平田 直 044
論考② 時間と技術の関係をどのように結びなおすのか/戸田 穣 046
論考③ 放射能汚染と心身のデザイン─チェルノブイリとフクシマ/振津かつみ 048
第四部 総括座談会
総括:建築雑誌2010-2011 /中谷礼仁×糸長浩司×内田祥士×饗庭 伸×市川智子×伊藤俊介×木下 光×金 玟淑×林 憲吾×牧 紀男×山岸 剛 司会:後藤 治 050
連載 日記のなかの建築家たち
第24回 プリツカー建築賞の人々/中村敏男 054
特集を読んで(2011年10月号[特集=検証:東日本大震災と建築学会]) 056
津波対策への取組みを/岡田恒男
自らの問題としての大震災復興/仙田 満
付録 『建築雑誌』2010-2011──表紙一覧/特集・連載一覧 057