2014-1月号 JANUARY
住むことから考える
住むことは、明らかに既存のルールからはみ出しつつある。というより、住むことをもはや既存の社会通念に収めることができない。「帰宅困難地域」「集団移転」「長期化する仮設住まい」など、終息をみることのない東日本大震災への対応は、それを痛感させる。また、昨今話題に事欠かないシェアハウスだが、そのベッド数は、2000年から2007年の間に、およそ10倍になった*1。これらを広がる経済格差と地域格差、縮小経済の象徴、とみるとらえ方も、もちろんあるだろう。ただ、そうした俯瞰的・他者的な眼差しだけでは、あまりに見落とされるものが多い。個別の事例にあたれば、そこに生きる人々の知恵や戦略が見えてくるし、住むことから社会が変容する可能性を発見できるかもしれない。むろんそれは、「住む」という当事者意識を持つ者にしか、見えてこないものである。
クリスチャン・ノルベルグ・シュルツは、彼の著書『住まいのコンセプト』のなかで、「住まうこととは、自分がどこに、いかに存在するかを知ること」*2であると述べている。それが、一筋縄ではいかないことが明らかになった今だからこそ、住むことから考える必要があり、そこに必要とされる当事者意識が意味を持つのだと思う。
編集会議における、こうした議論をもとに、2014年の1月からの2年間を通した『建築雑誌』の編集のコンセプトを「住むことから考える」とした。また、同時に1月号の特集のテーマとすることとなった。右の黒板の図は、分野横断的、年齢横断的に集まった各編集委員による特集案をおおよそのジャンルで整理したものである。しかし、このくくり自体には大きな意味はなく、むしろ現在への問題意識を率直に伝える各委員の出した特集案そのものにこそ、意味がある。是非、この2年間の間に、会員・読者の皆様から、ご意見、ご批評を頂戴し、随時、この黒板の図を修正変更しつつ、進めていきたいと思う。
篠原聡子(Satoko Shinohara 日本女子大学教授/会誌編集委員長)
注
*1 「シェア居住白書」 http://www.hituji-report.jp/about.html
*2 クリスチャン・ノルベルグ・シュルツは、住むこととは「定位」(orientation)と「同一化」(identification)であり、それは、建築によって充足されると、述べている(『住まいのコンセプト』鹿島出版会、1988)
[目次]
2 | 吉野博 会員の英知を結集して喫緊の諸課題に取り組む─震災復興推進、気象災害対応、低炭素社会実現に向けて |
4 | 篠原聡子 |
6 | 國分功一郎 倫理学と住むこと |
8 | 松村秀一 「住む」から新しい仕事のかたちを考える |
10 | 植田実 どこまで現実?─「住む」はメディアの逃げ口上 |
12 | 上野千鶴子×織山和久 |
20 | 小林秀樹 新しい住まい方と法規制─シェアハウスの建築用途をめぐって |
22 | 久保田裕之 シェアとポスト家族論 |
24 | アサダワタル 住み開き─住むことから再考する「わたし」のこと、「まち」のこと、「しごと」のこと。そして、その「境界」 |
26 | 坂東幸輔 神山町における二拠点居住のあり方 |
28 | 米田智彦 ノマドトーキョー・プロジェクト─情報化時代における都市生活者の移動性・身体性 |
29 | 坂口恭平 日本の中の日本じゃない土地に暮らす男 |
30 | 在塚礼子 終の棲家または現代隠居術 |
31 | 五十嵐徹也 今なぜ病院アート─Hospitable in hospital, and beyond... |
32 | 槇文彦 建築が共感の場を生み出す未来へ |
34 | 馬場正尊 R不動産に見る、クリックの軌跡と住むことへの欲望 |
36 | 豊田啓介 「建築情報学」の必要 |
38 | 江尻憲泰 定性的な安全性の確保 |
40 | クリス・トゥイン Step Change─BedZEDが切り開いた英国のゼロカーボンロードマップ |
42 | 中上英俊 住むことからエネルギーを考える |
44 | 都築和代 住むことから人の健康を考える |
46 | 大月敏雄 コミュニティケア型仮設住宅 |
48 | 髙橋謙司氏インタビュー 超高齢社会、いかに住むか?─厚生労働省の施策とは |
50 | いしまるあきこ |
51 | 大庭早子 コパン住人記 小林徹平 風景 原田雄次 味噌味のキス |
52 | 内藤廣 安全地帯を出でて発言せよ 安森亮雄 建築家像の問いの先にある建築文化の醸成 |