2014-2月号 FEBRUARY
環境デザイン─スケールとアプローチ
Environmental Design: Scales and Approaches
2014・2015年を通じて本会誌を貫くテーマは「住むことから考える」ということである。特に本号においては「住む」という視点から「環境」を論じる。または「環境」の視点から「住む」ことを論ずる。ところで、環境とは、環境デザインとはいったい何であろうか。そのとらえ方は各人各様である。環境とは自身を取り巻く周辺環境を指し、そのスケールは建築学においては身体周辺環境から地球環境までの非常に大きなスペクトルをもつ。これら環境との関係性に配慮したデザインのことを環境デザインと言うのであろう。建築はそれ単体では成立しておらず、周囲環境となんらかの関係性を有する。そのため、すべての建築は環境建築であり、環境デザインがなされているとも言える。しかしながら各人にとって環境のどの部分を重視しているかが異なるために、環境デザインという言葉があいまいさを包含することになる。ただ、歴史的に見れば環境という言葉が広く意識されるようになったのは1960~1970年代に『Design with Nature』や『Design with Climate』などが出版されたころであるように思う。これは日本においていわゆる公害が顕在化した時期と重なる。すなわち建築を含めた人間活動のすべてが環境容量を無視できなくなったことに人々が気付いた時からである。より広いスケールでの環境が強く意識されるようになった。さらにそれは1980年代後半からの地球環境問題により加速されることになる。一方、環境デザインがもつあいまいさの問題は、アプローチの方法の差異にも起因する。すなわち、思想的・理念的・情緒的対象としての「環境」と、工学的計量・分析対象としての「環境」が存在する。建築学の一分野である建築環境工学は建築計画原論として、建築計画学のなかから計測可能なもの、定量的に取り扱うことができるものを分離させるかたちで発展してきた。「環境」のもつ思想性や理念性に対する責任はデザイナー側に押し付けられ、観測者としてそこからはできるだけ遠い極に位置しているように思われる。一方デザイナー側も環境を定量的に評価する手段をもたないがゆえに、その思想性は一層純化され、もう一方の極へと収斂しているように思われる。この二つの極を結び付ける試みは、デザイナー側からもエンジニア側からもなされてはきているが、その方法論はまだ確立途上にある。この両方を配慮できて初めて環境デザインと言えるのではないであろうか。そして、環境デザインの意図が達成されているかどうかは、単に意図された物理的目標を達成しているだけでなく、また、デザイナーの思い入れが反映されているだけでなく、それを体験すること、すなわち能動的に「住む」ことを通じて確認されるのだと思う。そこで今号では環境デザインについてさまざまな論者に語ってもらうことにした。本号が環境デザインのより一層の発展にとって一助となれば幸いである。
会誌編集委員会特集担当
大岡龍三(東京大学)・佐々木仁(オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッドアソシエイト)・田中稲子(横浜国立大学)・近本智行(立命館大学)・槻橋修(神戸大学)・福岡孝則(神戸大学)・松田法子(京都府立大学)
[目次]
2 | マティアス・シューラー クライメイト・エンジニアリングから発想する環境デザイン |
7 | 会誌編集委員会 |
8 | 伊香賀俊治×小泉雅生×澤地孝男 住むことと環境デザイン |
14 | 鈴木信恵[金子尚志(協力)] 住まいと環境デザインの系譜[年表] |
16 | 長谷川兼一 住まいと環境デザインの系譜[解説] |
18 | 堀越哲美 身体性からみた環境デザイン─枕草子からのヒント |
20 | 宿谷昌則 エクセルギーで読む住まいの熱環境 |
22 | 岩船由美子 スマートハウスができること |
24 | 土田義郎 音と環境デザイン |
26 | 益田兼房 環境・コミュニティと防災─今井町と川越の歴史的都市景観保存 |
28 | 清水重敦 見えない景観─文化的景観が開く建築・都市への視座 |
30 | 木村建一 形態は環境に従う |
32 | 槻橋修 「失われた街」模型復元プロジェクト |
34 | 堀信子 堀ビル |
35 | 池田伸太郎 日常への関心 |
高濱史子 空間のサイズ |
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宮島昇平 言葉抜きでの会話 |
36 | 会誌編集委員会 「住むこと」へとつながる環境デザイン |
37 | 光嶋裕介 ストラグルの先にあるもの |
廣井悠 不確実性の許容 |