2014-4月号 APRIL
教育考─暮らしと社会のエンライトメント
・建築教育の当事者性を探る
「住む」ことから建築教育を考えてみる。
当たり前のことだが、建築の教育を受ける以前に皆「住む」ことを行っている。その意味では誰もが建築をつかう当事者である。
そう考えてみれば建築教育とは、建築を「つかう」側から「つくる」側へと当事者の意識化を促すための技術と言えるのかもしれない。建築のイニシエーションにあたる導入教育に注視することで、建築を「つくる」ことへの意識化がいかなる回路で築き上げられていくのか、その構造が垣間見えてくるはずである。
人口動態や産業構造の変容によって、単身世帯の増加、高齢者独居など家族像が社会のなかで大きく変わってきている。シェアハウスや多世代近居など1家族1住宅というモデルでない住居のかたちや、託児所にもデイケアにも分類できないようなまちの居場所など、地域のつながりの新しい感覚が生まれつつある。このことは「つくる」現場以上に、「つかう」現場で変化が生まれつつあること、当事者から生成される変革の可能性について示唆している。
例えば、ここで現在という点を人類学的に俯瞰して見たとき、近代社会が崩壊し、その崩壊のなかから新しい価値観が再生されていく過程にある、と見ることができるかもしれない。もしそうだとしたら、今起きつつある変化は単に建築家やその他建築にかかわる専門職のあり方が変わるという話に留まらないはずだ。われわれが当事者として、社会全体の変革、新しい暮らしの生成という出来事を引き起こしつつあるということだ。そのようななかで、今どのような建築教育が要請されるだろうか。
本特集は、目次をつくっては壊し、またつくっては壊すという試行錯誤の連続であった。「つくる」/「つかう」という単純な二項対立による整理を避け、当事者性という視座に立ち返りながら、広く教育について考えを深めていった。違う意図で組まれた対談や論考において、しばしば「実感」「知の光」といった、エンライトメントの感覚とでも言うべき共通の話題に遭遇した。暮らしや社会のなかにあるまだかたちにならない感覚に光を当てること、このイメージに導かれながら建築教育を考えてみたいと思う。(藤原徹平)
会誌編集委員会特集担当
黒石いずみ(青山学院大学)・鉄矢悦朗(東京学芸大学・同こども未来研究所)・藤原徹平(横浜国立大学)・山崎泰寛(編集者・京都工芸繊維大学)・厳爽(宮城学院女子大学)
[目次]
2 | 会誌編集委員会 建築教育の当事者性を探る |
4 | 西川祐子 祐成保志 篠原聡子 住まい教育と社会 |
10 | 碓田智子 学校教育での住まいの教育 |
12 | 玉置一仁 暮らしを表現する「ビーンズ・ハウス」 |
14 | 藤原直子 学校の教員と建築─教育活動を支える校舎を目指すために |
16 | 伊藤俊介 学校文化のなかの教室空間 |
18 | 鷹野敦 【COLUMN 1】 一般教養としての建築─フィンランドの初等教育段階における建築教育 |
20 | 元倉眞琴 東京藝術大学建築科における導入教育について─〈木の椅子〉の課題を中心に |
22 | 竹山聖 京都大学における設計課題と導入教育─ドローイングとぞうきんがけ |
24 | 稲葉武司 建築スタジオとその導入部 |
26 | 田中元子 【COLUMN 2】 建築への入り口を設計する |
28 | 伊東豊雄 木下勇 仲綾子 建築の教育 何かを実現し、何かがわかる |
34 | 北原啓司 まちを学ぶ楽しさから「まち育て」へ |
36 | 遠藤幹子 建築する力を育てる |
38 | 藤村龍至 鶴ヶ島プロジェクト 模型が議論を前向きに蓄積する |
40 | 石原弘一 地域から広めるこれからの暮らし─自治体におけるエコハウスの建築とその現状 |
42 | 倉方俊輔 【COLUMN 3】 建築を語る子どもから学ぶ─「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」子ども建築鑑賞ツアー |
44 | 岩佐明彦 仮設のトリセツ |
46 | 近角真一 求道学舎 |
47 | 坂口大史 自然と住む、しぜんに生きる 森山茜 イメージ 渡邉賢 節度のスケール |
48 | 会誌編集委員会 「実現すること」の教育はいかに可能か? |