2014-5月号 MAY

特集= 建築情報学 アーキインフォマティクス


Archi-informatics

 

建築情報学 アーキインフォマティクス(Archi-informatics)

 本誌の歴史のなかで、「情報」という単語が初めて登場したのは1996年6月号「建築の情報化」という特集においてであった。この時期に初めて情報特集が組まれたのは偶然ではない。今から振り返れば、その前年─1995年は建築と情報の関係性を考えるうえで大きな時代の転換期と言えるからだ。Windows95が発売され、個人レベルで広くコンピュータが普及した。また、阪神・淡路大震災でインターネットの威力が認められるようになると、その後利用者が急増し、1995年は「インターネット元年」と呼ばれるようになった。それ以降、本誌では定期的に情報特集が組まれ、「建築の情報化」あるいは「情報の建築化」といった両側面からの議論が徐々に蓄積されてきている。

 本特集もその流れのなかにある。「建築情報学 アーキインフォマティクス(Archi-informatics)」というタイトルは、Architectural Informaticsを略した造語である。近年よく聞かれるバイオインフォマティクス(Bio-informatics)が情報通信技術を応用して生物学の問題を解こうとする学問だとすれば、同様にアーキインフォマティクス(Archi-informatics)も、情報通信技術を応用して建築学の問題を解こうとする学問であると言えるだろう。すなわち本特集は、建築学という学問の枠組みそのものがどのように情報化されてきているのかという「建築学の情報化」の現在進行形を情報化する試みである。

 一口に情報通信技術で建築学の問題を解くといっても、各専門領域でどのような問題を扱っているのか、その全貌を把握することは不可能に思えるほど建築学の枠組みは複雑で広い。そこでせっかくの学会誌なのだから各委員会の皆様にご協力いただくかたちで、建築学の情報化の現在を俯瞰してみたいと考えた。現在日本建築学会には、15の調査研究委員会が常設され、それら本委員会の傘下に、39の運営委員会、265の小委員会、274のワーキンググループ(WG)が存在する。そして、各委員会に所属する委員数の合計(WGは除く)は約2,500名にものぼる。本当はすべての委員の方にご執筆いただきたいところだが、さすがにそういうわけにもいかないので、傘下の小委員会とワーキンググループの数によって調査研究委員会ごとに執筆担当者数を割り当て、最終的には87名の方にご執筆いただくこととなった。短い執筆期間にもかかわらずご協力いただいた委員の皆様にこの場を借りてあらためて感謝申し上げたい。

 第1部ではその87名の小論考を一挙に掲載した。各論考は、次項に記載した五つの設問に対する5段階評価の平均点が高い方から順にソーティングしてあるので、情報化が進んでいると思われる分野とそうでもない分野を比較しながら読み進めていただくものいいだろうし、あるいは、黄色くハイライトされたキーワードをザッピングしながら、気になったテキストから読んでいただいても構わない。とはいえ、Googleの検索結果において、最初のページしか見ない人が全体のユーザーの75%を占めるという統計もあるので、できるだけ多角的な「読むキッカケ」を提供するためにも、第2部では「委員会から検索する」「推薦図書から検索する」「キーワードから検索する」という三つの索引を用意した。また第3部では、本誌1月号でまさに本特集と同じタイトルを用いた論考「『建築情報学』の必要性」を書いてくださった豊田啓介氏をお呼びして、87名の論考と可視化されたデータを見ながら、建築情報学の可能性や限界について議論を行ったので、全体の傾向をまずつかみたい方は、第3部から読んでいただくといいかもしれない。

 1996年6月号の「建築の情報化」特集がそうであったように、本特集においてインデックス的に列挙された各論考は、そこから他の情報源に跳んで参照作業を繰り返すためのハイパーリンクである。本特集が専門分化された建築学の間に、建築情報学という新しいネットワークを張り巡らす一助となれば幸いである。

会誌編集委員会特集担当
松川昌平(慶應義塾大学)・槻橋修(神戸大学)・勝矢武之(日建設計)・星野雄(ADK)・有岡三恵(STUDIO SETO)・藤原徹平(横浜国立大学)

[目次]

特集│建築情報学 アーキインフォマティクス(Archi-informatics)

主旨
2会誌編集委員会

第1部|アーキインフォマティクス─建築学の情報化の現在
3凡例/湯本長伯
4花里俊廣/円満隆平/衣袋洋一
5渡辺俊/野城智也/三辻和弥
6中井正一/中川貴文/倉田成人
7吉田聡/金子智弥/平田京子
8栗原伸治/諸岡繁洋/中島裕輔
9飯塚悟/鈴木広隆/湯浅昇
10佐野友紀/中川理/加藤孝明
11楠浩一/藤田謙一/武藤厚
12長島一郎/増田幸宏/中野淳太
13永田明寛/藤本郷史/武藤正樹
14山田哲弥/齋藤隆司/瀧澤重志
15浅野聡+志村秀明+大影佳史/外岡豊/川上善嗣
16多田元英/今塚善勝/腰原幹雄
17岡部喜裕/梅宮典子/赤司泰義
18松下眞治/宇田淳/廣井悠
19高口洋人/谷明勲/佐藤栄治
20加藤研一/望月悦子/大久保孝昭
21杉山央/本江正茂/齊藤広子
22野澤康/長沼一洋/西名大作
23甲谷寿史/小見康夫/浦江真人
24小林剛士/平野吉信/有田智一
25金澤健司/小檜山雅之/吹田啓一郎
26坂本慎一/石橋敏久/長井達夫
27蔡成浩/伊藤史子/池田憲一
28中島智章/位寄和久/小瀬博之
29戸倉健太郎/工藤和美/鈴木英之
30野口貴文/長谷川拓哉/森田武
31軽部正彦/冨安亮輔/岸本一藏
32松田雄二/西澤泰彦/注・参考文献

第2部|索引
33委員会から検索する
36推薦図書から検索する
38キーワードから検索する

第3部|連載:拡大版EDITORS' CAFÉ
39豊田啓介
ネットワークとしての建築情報学

連 載

未来にココがあってほしいから─名建築を支える名オーナーたち⑤
45伊藤晴夫
自由が丘の家 伊藤邸(旧園田高弘邸) 

震災復興ブレイクスルー⑤
46宮原真美子
木造仮設住宅─東日本大震災における木造仮設住宅の現状

住むことから考えるU-35⑤
48石津優子
情報空間と物質空間の間
隈太一
解像度について
酒井みのり
生きている建築