2014-8月号 AUGUST
特集 住宅と都市のあいだで
住宅と都市との関係を考えた場合、都市の構成要素はひとまず「住宅」と「住宅以外の建築(すなわち、諸施設)」であるとされることが多い。しかし、人間は住宅にだけ住んでいるのではなく、町や地域にも住んでおり、親族やご近所とのつながりがあって初めて生活が成り立つという人もいる。歩いて行けるところにある店や職場がなければ、そもそも私の生活は完結しないのだといった暮らしをしている人もいるだろう。しかし、ごく一般的にはそんな暮らしは「想定外」なのであり、日々供給されつつある圧倒的多数の「住宅」は、住宅と都市の間にある空間の意味と関係なく設計されている。果たしてそうした思考のままでいいのかというのが、今回の特集の投げかけである。住まい方のリアリズムから見た場合、住宅という器以外に、地域においてどんな建築がわれわれに必要なのかという考察も必要であろう。それは、個人や行政、企業といったフォーマルな組織以外の人間関係、すなわち中間集団の活動の場を都市空間に迎えるための建築の登場を要請するのかもしれない。
すなわち、住宅と都市の間で起きることを考え始めることによって、「住宅」でも「諸施設」でもない、新たな建築空間を構想してみようというのが、本特集の趣旨である。(大月敏雄)
会誌編集委員会特集担当
大月敏雄(東京大学)、北山恒(横浜国立大学)、寺田真理子(横浜国立大学)、真壁智治(エム・ティ・ビジョンズ)
[目次]
2 | 会誌編集委員会 主旨 |
3 | 難波和彦×西沢大良×山本理顕 国家と建築の〈間〉をめぐって─機能という視点、物化という視点 |
10 | 塚本由晴 建築の産業化がもたらしたもの |
14 | 大月敏雄 地域中間集団とルールという知的財産の生成 |
18 | 土谷貞雄 住人祭という取組み─団地内のコミュニティをどう育てるか |
22 | ケース・クリスチャーンセ 都市育成の基盤─シンガポール、上海、深圳、そしてバンコクにある創造的な近隣空間 |
26 | 吉本憲生 『生きられた家─経験と象徴』多木浩二 |
27 | 降旗千賀子 あこがれのカリフォルニア住宅運動との遭遇─CSH展に見た建築展の可能性 |
28 | 新井信幸 続・復興のその先に向けたコミュニティ・デザイン─あすと長町仮設住宅(仙台市)での取組み |
30 | 富久慎太郎 富久邸(ヴォーリズ・シェアハウス) |
31 | 会沢佐恵子 バランス感覚と未来の生活圏 井本佐保里 ナイロビ・ステイ 辻琢磨 都市に住まう |
32 | 会誌編集委員会 編集後記 |