2014-10月号 OCTOBER
特集 我々はもっと助けたかった─安心して「住む」ために構造ができること
災害のたび、構造は痛感します。大自然のすべてを知ることはできないし、操ることもできないけれど、あと少し地震の揺れを知ることができたら、あと少し水の流れを知ることができたら、あと少し多くの人を救えたに違いない。東日本大震災に際して、悔しい想いを感じた構造関係者は多いだろうと思います。
構造は多様な材料でつくられる多様な形状が、多様な工法でつくられ、多様な外乱を受けます。この複雑な対象のすべてを知ることはできないなかで、検討したいことすべては検討できないなかで、つくっていく決断に迫られます。材料、外乱、変形、応力、工法など、少しでも多くのことを知り、安心して「住む」ために、そして快適に「住む」ために探究を続けます。
生物、天候、大地、海、天体といったものだけが大自然なのではないと思います。材料の性質を知ることも、慣性力を感じることも、座屈現象を知ることも、数値計算の方法を編み出すことも、素粒子を観測することも、大自然を知ることだと思います。地震が起きた直後、われわれ構造関係者は奔走します。被害を把握し、余震に備えて避難を検討し、地震動を解析します。今ある材料と人を把握し、今どんなものがつくれるのか考え、仮設施設の計画に協力します。そして、次に地震が来たときにはもう少し人を助けられるように。少しずつ、大自然に対する知識を蓄え、環境を整えていくのだと思います。
構造に携わっておられる方々は皆、このような想いを持って活動されているのではないかと思います。この特集では「大自然が少しずつ教えてくれること」として対談を、「大自然を少しずつ知るための探究」として論考を企画しました。対談では、和田章先生、緑川光正先生に登場していただき、構造のなかでも立場によって皆、着眼点も活動方法も異なるなか、過去の災害の後でどのような行動が必要だったか、どんな現象がわかったか、自分の役割をどのように考えておられるか、貴重なお話しが伺えました。そして、今着目している現象、構造の心構えについても伺えました。
現在、日本建築学会の構造委員会は13の運営委員会のもとに小委員会とワーキンググループが設けられ、そのほかに特別研究委員会が設けられています。これら85に上る委員会のなかから60の委員会にご執筆いただき、これまでに人々が種々の災害や問題を経験してきたことを踏まえて、今着目している現象やその対策など、検討されている話題を紹介していただきました。
全体は五つのテーマ「材料」「外乱」「解析」「部材」「架構」に分類しました。これはおおむね構造設計の手順で登場する項目の順序としています。そして、各テーマの冒頭では構造設計者に登場していただき、ご自身の活動のなかで感じておられることをご紹介いただきました。
専門性の高い分野ばかりで、少ない紙面で平易に記述するのは困難ですが、なんとかその想いを構造以外の方々へも伝えたいと思います。
たまたま算数が得意になった子が、たまたま力学を操れるようになって、誰かがやらないと建物は建たないから、必死に探究を続けています。開き直りたくなる場面も多いけれど、決しておごることなく大自然と向き合っている、そんな姿を垣間見ていただければ幸いです。
(佐藤淳)
会誌編集委員会特集担当
腰原幹雄(東京大学)、佐々木仁(Arup)、佐藤淳(佐藤淳構造設計事務所、東京大学)、満田衛資(満田衛資構造計画研究所)
[目次]
2 | 会誌編集委員会 |
3 | 和田章 × 緑川光正 大自然が少しずつ教えてくれること |
材料 | |
8 | 陶器浩一|私はお前を信用しよう、お前も私の設計を信用せよ 槌本敬大(木質構造災害WG) |
9 | 軽部正彦(木質構造材料・接合部の変形破壊小委員会) 中村昇(木質構造の振動障害に関する小委員会) |
10 | 見波進(鋼構造素材小委員会) 玉井宏章(鋼構造塑性設計小委員会) |
11 | 福井剛(PC常時荷重設計法小委員会) 藤本利昭(合成構造規準国際標準化検討小委員会) |
12 | 松本幸大(FRP合成構造の建築への適用性検討小委員会) 花里利一(海外組積造耐震性検討小委員会) |
外乱 | |
13 | 向野聡彦|外乱と構造性能 竹脇出(構造物のレジリエンス評価小委員会) |
14 | 小檜山雅之(信頼性工学利用小委員会) 石井透(耐震設計における地震荷重検討小委員会) |
15 | 植松康(風荷重小委員会) 高橋徹(雪荷重・対雪設計小委員会) |
16 | 石川孝重(温度荷重小委員会) 中村尚弘(建築物の減衰機構とその性能評価小委員会) |
17 | 奥田泰雄(津波荷重小委員会) 内田明彦(液状化対策小委員会) |
18 | 壇一男(大振幅予測地震動に対する耐震設計法検討小委員会) 久田嘉章(地盤震動小委員会) |
19 | 護雅史(地盤基礎系振動小委員会) 飛田潤(強震観測小委員会) |
20 | 辻聖晃(期限付き建築物構造性能小委員会) 瀧口克己(原子力建築物維持管理小委員会) |
解析 | |
21 | 大畑勝人|強力な武器を自分のものとするために 鈴木琢也(次世代の構造系解析インターフェース特別研究委員会) |
22 | 高田豊文(構造設計・解析の最適化理論応用小委員会) 山田耕司(不整形構造物のモデリング検討小委員会) |
23 | 山下哲郎(耐震診断・改修小委員会) 濱本卓司(衝撃作用連成問題小委員会) |
24 | 萩原伸幸(空間構造における数値解析小委員会) 山本憲司(構造形態の解析と創生小委員会) |
25 | 薛松濤 + 西村功(構造モニタリング小委員会) 北山和宏(耐震構造評価小委員会) |
部材 | |
26 | 小西泰孝|多くの可能性のなかからいかに選ぶか 川口健一(非構造材の安全性評価及び落下事故防止に関する特別調査委員会) |
27 | 元結正次郎(強非線形問題の理論と応用小委員会) 平出務(小規模建築物地盤調査小委員会) |
28 | 田村修次(杭基礎の耐震設計法小委員会) 五十田博(耐震要素・構造システム評価小委員会) |
29 | 井戸田秀樹(鋼構造座屈小委員会) 増田浩志(鋼構造接合小委員会) |
30 | 玉井宏章(鋼構造制振小委員会) 河野進(鉄筋コンクリート部材性能小委員会) |
31 | 丸田誠(PC耐震設計小委員会) 河野進(PC部材構造性能評価小委員会) |
32 | 堺純一(合成構造の地震被害対策WG) 福元敏之(鋼とコンクリートの機械的ずれ止めWG) |
33 | 岡田章(ケーブル・膜構造小委員会) 藤谷秀雄(建物の振動制御性能評価小委員会) |
34 | 佐藤秀人(地盤アンカー指針改定小委員会) 桂豊(山留め指針小委員会) |
架構 | |
35 | 細澤治|安心 濱本卓司(耐衝撃性能評価小委員会) |
36 | 大橋好光(伝統的木造構法の構造要素設計法小委員会) 平島岳夫(鋼構造耐火設計小委員会) |
37 | 藤田正則(鋼構造環境小委員会) 勅使川原正臣(等価線形化法に基づく耐震性能評価指針作成小委員会) |
38 | 和泉信之(保有水平耐力計算規準小委員会) 中澤祥二(立体骨組構造小委員会) |
39 | 浜田英明(RCシェル構造小委員会) 菊地優(免震構造小委員会) |
40 | 今川憲英(鉄筋コンクリート厚肉壁式床壁構造設計指針作成小委員会) |
41 | 古市徹雄 未来のアジア型都市を目指して |
42 | 種田元晴 『建築について』小能林宏城 |
43 | 山崎泰寛 航路としての建築展─松風荘と日本建築写真展 |
44 | 伊東充幸 災害公営住宅第1号 相馬井戸端長屋とその可能性 |
46 | 高橋鷹志 + 橋本都子 + 大原彰 |
47 | 荒木美香|日常的に触れる範囲 平島ゆきえ|ロサンゼルスの日射対策 藤田皓平|ありふれた日常から |
48 | 会誌編集委員会 編集後記 |