2015-2月号 FEBRUARY
特集 未来と生きる
未来と聞いて何をイメージするだろうか? 明るい未来、バラ色の未来、暗い未来、灰色の未来、とらえ方は人それぞれであるが、かつては右肩上がりの経済に支えられ未来は必ず現在よりも豊かになるという神話に支えられていた。ところが今は、地球環境問題、高齢化問題、少子化問題、経済問題などさまざまな問題の顕在化に加え、今日よりも豊かにならない未来、欲しいものが手に入らない未来など、概してネガティブなとらえ方が多いように思う。これは現在の社会が閉塞感に覆われていることに加え、多くの人々が新たな価値を共有できるシステムを提案できていないことが大きな原因と考えられる。しかし、このように多くの問題を抱えているからこそ、まずはわれわれ一人ひとりが未来に対して夢見なければならないと思う。過去に行われた科学技術礼賛に基づく楽観的な未来予想ではなく、地に足をつけた未来予想が必要なのである。それは希望と言い換えてもよいかもしれない。夢見たことは必ず実現するという楽観論を言うつもりはない。しかし、夢見なければ何も実現しないのも事実である。まず現実を直視し、そこから生ずる問題を予想し、それに対するアクションを行う必要がある。また、そこでのアクションは対症療法的なものではなく、未来社会の具体的イメージに基づいたものであるべきである。そのイメージが多くの人々の共感を得られれば、確実に社会は変わっていくと思う。
左に本編集委員会で作成した「未来へ向けての年表」を示す。これはわれわれの未来予想であるとともに、未来への希望でもある。当然、複数の委員によるものなので統一の取れていない部分がある。共通して挙げられているのが、高齢社会の問題、地域の問題、国際化の問題、気候変動の問題、宇宙開発などである。高齢社会の問題に対しては、現在の行き過ぎた個人主義ではなく、そのケアは地域やコミュニティに回帰するであろうという予想が出された。地域の問題に関しては、今後バーチャル技術・ICTの発展に伴い、都心集中が緩和し、地方回帰が進むという予想と、都心集中がますます進み、地方は衰退するという予想に分かれた。また、都心と地方との多拠点居住が一般的になるであろうという予想が複数の委員より出された。国際化の問題に対しては、ますますボーダーレスになるであろうという予想が多い。そのためにはさまざまな国際紛争が解決されなければならないであろうし、言語の壁を超えるコミュニケーションツールの開発も必要である。さらにそれらを支えるグローバルな組織も必要になる。一方、その国の文化の独自性を保ちたい、継続したいという欲求は極めて自然なものであるので、移民の受け入れには慎重な意見もあった。しかし、異文化交流の機会は今後確実に増えていくであろう。気候変動をはじめとした各種災害は今後も頻発するようになるので、それに対する居住形態も変化するであろうとの予想が出された。宇宙開発については資源フロンティアとしての宇宙に展開するという意見が主であり、技術的には2050年以降くらいであろうとの予測であった。
この予想を踏まえ、本号のテーマを「未来と生きる」としている。これは、予想された未来を単に漠然として受け入れるのではなく、現在のわれわれの選択が未来を構築することを意識し、未来を見据え、現在をどのように生きるかを念頭に置いたためである。これらの問題に対し、本号では未来社会に関する専門家の論考・インタビューを準備した。また、最初に漫画家の松本零士氏と長年宇宙建築にかかわってきた松本信二氏にフロンティア精神に溢れる対談をしていただいた。これらの内容が読者に未来への希望を与えることになれば幸いである。
(大岡龍三)
会誌編集委員会特集担当
いしまるあきこ(いしまるあきこ一級建築士事務所)、大岡龍三(東京大学)、篠原聡子(日本女子大学)、田中稲子(横浜国立大学)、近本智行(立命館大学)、槻橋修(神戸大学)、厳爽(宮城学院女子大学)
[目次]
2 | 会誌編集委員会 未来へ向けての年表 主旨 |
4 | 松本零士×松本信二 宇宙に住むこと |
10 | 瀬川友史 未来における住宅ロボット |
12 | 後藤純 活力ある超高齢社会を共創する |
14 | 岡本奈穗子 ドイツの多文化社会と日本の未来 |
16 | 齋藤精一 2020年の都市に何が可能か |
18 | 五十嵐太郎 時間概念と未来の歴史 |
20 | 曽我和弘 未来の気候変動の建築環境への影響 |
22 | 山下祐介 集落発の日本社会論へ |
25 | 竹内昌義 人口減少社会における価値観の変化 |
26 | 市川紘司 「伝統」梁思成(『祖国的建築』所収) |
27 | 今村創平 建築と理論を結び付けプロデュースする試み |
28 | 米野史健 借り上げ(みなし)仮設住宅 |
30 | 前田達之 中銀カプセルタワービル |
31 | 飯塚哲平 移民問題における建築の罪 稲垣淳哉 世界を物語る、観察する 渡辺香奈 宇宙での暮らし |
32 | 会誌編集委員会 編集後記 |