2015-6月号 JUNE

特集= 空き家考


AKIYA―Empty Houses, or its Redefinition as New Social Resource

 

特集 空き家考

空き家は廃屋か? 活用できる資源か?

 現在進行中の空き家現象は、事の重大さが次第に認識され、顕在化してきている。この現象は、戦後日本の持ち家制度が生んだ「戸建て住宅」の構造的・運命的産物として位置付けられ、また人口(とりわけ生産年齢人口)減少・少子高齢化などの一次要因が誘導する過疎化や世帯構成の変化などの現象のひとつとして、「縮み社会」の象徴的存在とすらなっている。
 今日、空き家を日本の社会の盲域として葬るのではなく、むしろ、戦後の住宅政策との構造的連関性を明確化する必要があるのではないか。「戸建て住宅」(宅地も含む)が上手に更新されにくい背景や要因がそこに潜んでいるに違いない。
 家と人との営みが立ち行かない事態に陥り、人が家を離れることを「空き家」として規定することができるとしたら、空き家現象を積極的に家と人との営為として総合的に把握し、「空き家生態学」としての視点を本特集として提示したいというのが狙いとなる。家を人と共生していく生物いきものとしてとらえる視点拡張を図ることによって、家がどのように空き家になってしまうのかを生態学的パラメーターから解読していきたい。
 また、空き家現象は空き家「問題」としてマスコミに取り上げられ、都市経営にマイナスな病巣としてとらえられることが多い。しかし、空き家を積極的に活用して社会が抱える問題に対処している事例も増えてきており、空き家を「問題」としてとらえるだけではなく、「活用できる資源」としてとらえる発想の転換も必要ではないか。本特集を通して、今後さらに増え続けるであろう空き家に対して、新しい解釈を加え、空き家の展望に活力を与えていけたら幸いである。
 「空き家生態学」は、かつて、篠山紀信『家 meaning of the house』(1975)に寄稿した多木浩二の論考(『生きられた家』のもととなったもの)にもうひとつの視座を加えることになるかもしれない。もっとも、篠山紀信『家』は「空き家」というよりは「廃屋」としての美学的様相を主題にしていたものではあったのだが。

本特集の構成

 本特集は三部構成である。第1部では、空き家の実情を分析したうえで、増減をもたらす社会的要因に焦点を当てる。第2部では、文化人類学的・都市論的また文明論的な視点から空き家について考える。そして第3部では、「空き家」を利活用することにより現代の社会が抱える問題を解決する一助となっている具体的な事例を通して、空き家の「活用できる資源」としての側面に光を当てる。

(真壁智治・神吉優美)

本特集が対象とする空き家

 「住宅・土地統計調査」では、「居住世帯なしの住宅」のうち、「一時現在者のみの住宅」と「建築中の住宅」を除いた住宅はすべて空き家として計上されており、別荘等の「二次的利用」や「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」も含まれている。しかし、本来、問題となるのは別荘等の二次的利用もなく、賃貸や売却で市場に出回ることもない、空き家の内の「その他の住宅」に分類される住宅であろう。本特集では、「その他の住宅」に分類される住宅を空き家としてとらえることとし、かつ紙幅の関係もあり、主に戸建ての空き家に焦点を当てている。

会誌編集委員会特集担当
有岡三恵(Studio SETO)、いしまるあきこ(いしまるあきこ一級建築士事務所)、勝矢武之(日建設計)、神吉優美(奈良県立大学)、星野雄(アサツー ディ・ケイ)、真壁智治(エム・ティ・ビジョンズ)、宮原真美子(日本女子大学)、厳爽(宮城学院女子大学)

[目次]

特集|空き家考

会長就任の挨拶
2中島正愛
建築としての声を一つに

主旨
4会誌編集委員会

第1部|空き家の実情分析
5厳爽
空き家の現状分析
8首都大学東京饗庭研究室
空き家研究の現在
12松村秀一×浅見泰司×谷口守
多彩な生き方を受容する場としての「空き家」
18長瀬光市
住宅政策・土地制度の問題
20山本理奈
高齢化する家族と空き家のゆくえ
22宗健
地方の戸建空き家を生む背景と不動産流通市場の課題
24糸長浩司
自然と暮らす農の家・コミュニティからの強いられた退去と空き化

第2部|空き家論
26黒石いずみ
東京の空き家考現学
28貝島桃代
地域資源としての空き家についてタイポロジーから考える
30鈴木了二
無いが有る─「空き家」の物質性と不在性に関する建築論
34木幡和枝
生きることを広げる戦略─ゴードン・マッタ=クラーク

第3部|空き家活用のアイデアと問題
35山代悟
ソフト・スクウォッターたち─まちの空き家を誰に託すのか
36三宅理一
リロケーションを考える
38橘弘志
空き家の福祉活用の意義
39葛西リサ
住宅アマリの時代の住宅問題
40宮原真美子
" ながら"で、ゆるく住みつなぐ
41伊藤洋志
床張りから始まる空き家修繕─全国床張り協会(ナリワイ)
42西川博美+柳田里穂子
木造密集市街地の社会環境単位─未接道宅地を共有空地とする

連載

EDITORS' CAFÉ⑱
43井上えり子
空き家が拓く、地域と学生の可能性

住むことから考える東京2020⑩
46山形浩生
さらなる合理化を目指して─高齢化・人口減と建築の権力性&情報化

海図の切れ端─現代建築批評再考⑫
47岸佑
『神殿か獄舎か』長谷川堯

震災復興ブレイクスルー⑱
48千葉学
建築家に何が可能か

未来にココがあってほしいから─名建築を支える名オーナーたち⑱
50松居直+松居身紀子
白の家

住むことから考えるU-35⑱
51黒岩大朗
神道と歩む暮らし
笹本直裕
住まないことからも考える
野田直希
町家の管理

次代を拓く建築展⑫
52鈴木明
実物を展示する建築展、都市と社会にコミットする建築展とは