2015-7月号 JULY

特集= メディア・コンテンツ化する建築


The Medium is the Massage for Architecture

 

特集 メディア・コンテンツ化する建築

 建築は現在、建物の学問的(技術的、歴史的)価値を超えた「メディア・コンテンツ」として、さまざまな形でネタ化し、再定義されつつある。ここでいうメディアとは、新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアのみならず、展覧会、ブランディング、観光などの文化産業やイベントを広義に含む。
 本来的に動かすことができない建物は、実際に訪れて経験される機会よりも、メディアを通じて経験される機会の方が圧倒的に多い。建築は非専門家や一般の人々にとってみれば、実体よりもメディアを介した「メディア・コンテンツ」として経験され、受容されていると言えるだろう。では、建築はどのような社会的波及力を持っており、文化産業のなかでどのような効果を果たしているのだろうか。
 20世紀前半には、ル・コルビュジエが『レスプリ・ヌーヴォー』誌に広告の論理を取り入れて、自らの建築やコンセプトを流通させ、出版におけるメディア・コンテンツとしての建築の生産者たろうとした。現代では、レム・コールハースが建物のみならず、本、雑誌、広告、映像、展覧会、インターネットなどのメディアを通じて生産、流通、消費される建築のイメージとそれらへの介入の術について探究を続けている。
 そこで、本特集では、建築の使用価値よりも「流通価値」に注目し、建築の「扱われ方」にフォーカスしたい。
 とりわけ2000年代以降、ライフスタイル誌の『Casa BRUTUS』、テレビ番組の「大改造!! 劇的ビフォーアフター」、美術館での建築展、ファッション・ブランドの旗艦店へのスター建築家の起用など、非専門家が建築を扱うメディアの種類と数が増加してきた。これらのメディアは、自らの理念、商品、産業をより広範に流通させるために、既存の建築界の有名性やヒエラルキーを戦略的に活用することがある。
 その一方で、これらのメディアは、建築の専門家とは異なる切り口や価値基準で建築を取り扱い、一般の人々の建築に対する意識を変えようとしている。専門誌が次々と廃刊・休刊する時期と、建築のメディア・コンテンツ化が進行する時期が、重なっているようにも見える。結果的に、メディア・コンテンツを介した、専門家がこれまで把握していなかった建築との付き合い方が、建築をめぐる営みに新たな驚きと喜びを与えているようだ。
 メディア・コンテンツ化する建築とは、ときにリアルな建築空間の体験と交差・共振しながら、それらの体験を共有・拡張していくプロセスを内包している。
 建築を専門的に学んで来たわけではない人々は、さまざまなメディアのなかで建築をどのように扱い、どのような流通価値を見いだしているのだろうか。そして、建築のメディア・コンテンツ化は、建築の受容と経験、建築の産業と表現、建築の評価(コンペティション)に、どのような変化をもたらすのだろうか。そこには歓迎すべき変化もあれば、そうでない変化もあるかもしれない。メディア・コンテンツ化する建築に関与している、さまざまなプレイヤーへのインタビューとデータ分析によって、その変化の兆しをとらえたい。本特集を通じて、専門家と非専門家という枠組みを超えた新しい当事者像が浮かび上がってくることを期待している。

(南後由和・山崎泰寛)

会誌編集委員会特集担当
有岡三恵(Studio SETO)、太田佳代子(建築キュレーター)、槻橋修(神戸大学)、寺田真理子(横浜国立大学)、南後由和(明治大学)、藤原徹平(横浜国立大学)、星野雄(アサツーディ・ケイ)、山崎泰寛(京都工芸繊維大学)

[目次]

特集|メディア・コンテンツ化する建築

主旨
2会誌編集委員会

展覧会
3長谷川祐子×保坂健二朗
コンテンツとしての建築展、メディアとしての美術館

雑誌
8吉家千絵子×松原亨
建築の消費者代表であり続ける─『Casa BRUTUS』

ブランディング
12得能摩利子
ブランドに力を与える建築/建築の可能性を広げるブランド

住宅産業
14原研哉
建築家との協働・境界線─「HOUSE VISION」から産業の未来を考える

観光
18今瀧哲之×佐藤竜馬×増田敬一
地域資源を掘り起こす建築・アートツーリズムのつくりかた─丹下健三生誕100周年プロジェクト/瀬戸内国際芸術祭

プロジェクションマッピング
20森内大輔
建築の時間的奥行きを引き出すプロジェクションマッピング

テレビ
22井口毅
建築を通して家族の再生を描く─「大改造!! 劇的ビフォーアフター」

広告
24室井淳司
空間×体験×SNSのデザイン─キリン一番搾りガーデン

社会問題
26明治大学建築史・建築論(青井哲人)研究室
メディアのなかの新国立競技場コンペ問題

連載

EDITORS' CAFÉ⑲
28会誌編集委員会
「メディア・コンテンツ化する建築」の公共性

住むことから考える東京2020⑪
30白井宏昌
開かれたオリンピックと閉ざされたオリンピック─2012年ロンドン大会と2020年東京大会の広報戦略から見る都市の開き方について

海図の切れ端─現代建築批評再考⑬
31鬼頭貴大
『日本の建築』大岡實

震災復興ブレイクスルー⑲
32泉谷春奈
仮設商店街を利用した商業再生の可能性

未来にココがあってほしいから─名建築を支える名オーナーたち⑲
34裵仲洙
GUNKAN東新宿(旧第3スカイビル)

住むことから考えるU-35⑲
35山道拓人
「写真家の家」≠「写真の家」
島矢愛子
建築の物語を伝える
冨永美保
梅に鶯

次代を拓く建築展⑬
36吉村靖孝
建築としての「水の波紋1995」展