2015-10月号 OCTOBER

特集= 住むためのパブリックスペース


Public Space, Public Life

 

特集 住むためのパブリックスペース

 古い高架鉄道の跡地を活用して摩天楼に線状の空中公園が出現し、世界各国の街路を巨大な少女のマリオネットが闊歩する。道路がある日、芝生のフィールドに変わり、駐車場に腰掛けていつもと違う角度で風景を眺めながらのコーヒータイム。近年、公共空間パブリックスペースで思いもよらない出来事が起こるようになった。都市生活者のための「まつり」のような光景だ。伝統的な郷土芸能や豊作を祈る奉納祭など、歴史ある地域では長い期間繰り返されてきた、非日常的なハレの空間づくりを、現代都市では意識の高い市民たちが担うようになってきた。公的資金を一方的につぎ込むのではなく、BID(ビジネス改善地区)のようにさまざまなステイクホルダーの参加をコーディネートする仕組みも増えてきた。官民パートナーシップの拡充と並行して、市民による積極的な公共空間パブリックスペースの活用のアイデアも地域の特性やグループのテーマ性を反映してどんどん多様になってきた。1960年代にジェイコブズによって都市生活者による多様で活力ある街のイメージが謳われ、70年代にアーキグラムは『インスタント・シティ』において、サーカスのように仮設的で祝祭的な都市のあり方を構想した。思えばこのイメージは、行政やデザイナーからの一方的な供給ではなく、受益者たる都市生活者による自発的な創造性によって初めて実現されるものであったのだ。21世紀に入り、私たちはようやく住むための公共空間パブリックスペースの行方を実感できるようになってきた。パブリック・ライフの新しい時代が到来しつつある。

(槻橋修)

会誌編集委員会特集担当
槻橋修(神戸大学)、福岡孝則(神戸大学)、有岡三恵(Studio SETO)

[目次]

特集|住むためのパブリックスペース

主旨
2会誌編集委員会

第1部|パブリックスペースの新しいコンセプト
3ジェフリー・シューメーカー
ニューヨーク市のLivable City戦略:パブリックスペースから始めよう!ジェフリー・シューメーカーインタビュー
10伊藤香織
公共空間の使いこなしカタログ

第2部|パブリックスペースの実践
16佐藤信
パブリックシアターからソーシャルシアターヘ─公共劇場の新しい挑戦 佐藤信インタビュー
21高宮知数
地域文化を地産地消する場所─久留米シティプラザについて 高宮知数館長インタビュー
22阿部大輔
都市を映し出す公共空間─揺らぐバルセロナ
26村上豪英
都心の公園を育てる試み、始まる
28忽那裕樹
使いこなして獲得する水辺の公共空間
30竹内智子
都市のリビングルーム、公園
32山下裕子
まちなかに広場のある暮らし
34間瀬裕士
民間企業によるパブリックスペースの可能性
36深見かほり
道に集う─公共私の境を超えて
38松岡聡+田村裕希
配置図を描くことから公共を考える
40インターボロ・パートナーズ
すべての人が住みやすい都市をつくる

連載

住むことから考える東京2020⑭
45太下義之
「東京文化資源区構想」序論

海図の切れ端─現代建築批評再考⑯
46勝矢武之
現代世界を航海するための批評と理論─連載を振り返って

次代を拓く建築展⑮
47寺田真理子+山崎泰寛
次代へつなぐメディア─建築展のこれから

震災復興ブレイクスルー㉒
48小林徹平
みんなの家

未来にココがあってほしいから─名建築を支える名オーナーたち㉒
50原若菜
原邸

住むことから考えるU-35㉒
51飯島絵里
終の棲家
中島弘貴
快適なにぎわい
原行宏
場を共有する

EDITORS' CAFÉ㉒
52会誌編集委員会
編集後記