2015-12月号 DECEMBER
特集 生きるための家 II
2014年1月号の冒頭に、新しく始まる2年間の特集テーマを模索するための海図を掲載した。その上に、この2年間に特集したタイトルを落とし込み、さらに今回の「生きるための家」の七つのグルーピングを重ねてみたのが、右の海図更新版である。これを見渡すと、「住むことから考える」というテーマを通奏低音にしながら、ほぼ最初に示した海図の全域を航海したように見える。しかし、実際には、この海図の更新版をつくりながら、どのテーマをどのあたりに位置させるのがよいか、かなり迷った。ひとつのテーマが複合的にいろいろな要素と絡まり合っており、単純にはいかないのである。試行錯誤しながら、なんとか完成した図を見て、これが「住むことから考える」ということだったのかと思った。つまり、「住むこと」は無数のことがらと絡まり合っている。日常のごく私的と思えることが、実は深く国の政策や制度とかかわり合っている。私たちが暮らす環境はと言えば、物理的なものから、歴史や文化的な環境までを包括する。特集のなかではあえてそれを細分化せずに包括的に扱った。また、特集や連載を通して、編集会議では常に、批評的であるより、建設的であり、前向きな事例を集めてきた。建築を単なる批評の道具にはしない、という思いは共通していたように思う。包括的にかつ前向きに対処した多くの特集のなかで、幾つかの課題が浮上してきた。そのひとつは、住むという私的な行為や空間のなかで、失われた公共性を、どう新しいかたちで取り戻すかということだったように思う。それは、建築の公共性と言い換えることができるかもしない。12月号も11月号の事例を受けたかたちで、七つのグループの構成をとっているが、各グループのなかに、そうした課題のより具体的な諸相を論考や対談のかたちで組み込んでいる。単に問題提起に終わらず、できるだけ、現実にフィードバックする、つくる手がかりを示そうと試みたつもりである。
篠原聡子(Satoko Shinohara 日本女子大学教授/会誌編集委員長)
[目次]
2 | 篠原聡子 |
4 | 神里達博 「住むこと」の行方─技術民主化時代における専門家の条件 |
10 | 岡啓輔×岩崎駿介×岩崎美佐子 住まいが立ち上がるとき |
16 | 豊重哲郎×勝部麗子×中野智紀 人口減少・超高齢化社会におけるコミュニティの役割を考える |
22 | 有岡三恵+勝矢武之+佐藤淳+篠原聡子+寺田真理子 足りなくつくり始める |
26 | 髙林永統/川上恵一 「生きるための家」としての民家の継承─文化財としての家を住み継ぐ髙林永統氏、次の世代への橋渡しを担う川上恵一氏へのインタビューから |
30 | 市村高志 原発避難の混迷の実情 |
32 | 大月敏雄 震災復興ブレイクスルーをとおして |
34 | 北山恒+真壁智治+藤原徹平+満田衛資+いしまるあきこ 住まう権利が切り開くもの |
38 | 大岡龍三+佐々木仁+近本智行+星野雄 進化する住まいのもたらす暮らし方 |
42 | 会誌編集委員会 「住むこと」から「未来」へ |