2016-1月号 JANUARY
未来をつくる
建築や都市はつくられた時点から社会遺産となり、非常に長い時間スケールで、われわれの生活を規定することになる。それゆえ、建築や都市をつくる際には、「未来をつくる」という意識を持たなければならない。しかし、現存する建築や都市は十分にそのことを考えてつくられたのであろうか。少なからぬものが負の遺産となってはいないであろうか。これは未来を見ようとしなかった、あるいは見えなかったことが原因ではないのか。一方、「未来を見る」ことは非常に困難であることは理解している。塩野七生氏の『ローマ人の物語』からユリウス・カエサルの次の言葉を引用する。
「どんなに悪い事例とされていることでも、それがはじめられたそもそもの動機は、善意によったものであった」。
これは、物事を始めるときに悪意から始めることはほとんどなく(もしそうであればそもそも社会的に受け入れられない)、未来を透徹することができなかったがゆえに、現状と合わなくなるということだと理解している。そして、塩野氏は「未来を透徹できるのはカエサルのような天才だけである」とも述べている。残念ながらわれわれの多くは天才ではない。しかし、凡人であっても多くの人が知恵を出し合い意見を戦わせることによって、天才と同じ高みに達することができると信じたい。もちろん、凡百の議論よりも、ひとりの天才の直観の方が真実の的を射ていることは、われわれは歴史のなかで多く見てきた。しかし、われわれは議論を続けなければならない。天才と思われた一個人に未来を託して、道を誤った例も多く見てきたからだ。
2016年の1月からの2年間を通した編集のコンセプトを「未来をつくる」とし、「建築と都市の未来」について議論していきたいと思う。未来を語るうえで根源的なことは、「未来の環境がどう変わるか」「われわれはどうありたいか」の二つである。そのうえで「建築がどう貢献できるのか」ということを考える必要がある。右の図は現時点での各編集委員による特集テーマを整理したものである。この2年の間に、会員・読者の皆さまからご意見・ご批評を頂戴し、随時、この図を修正変更しつつ、進めていきたいと思う。
大岡龍三(Ryozo Ooka 東京大学教授/会誌編集委員長)
[目次]
002 | 中島正愛 建築と建築学会の持続的発展をめざして─建築としての声を一つに |
004 | 大岡龍三 編集方針 |
008 | 内田祥哉×内藤廣 未来へ向けて「造ったり考えたり」 |
014 | 木本昌秀 気候変動の今 |
016 | 岩田衛+佐土原聡+持田灯 気候変化による災害防止 |
018 | 中村勉 未来における低炭素社会を考える |
020 | 荻本和彦 エネルギーのこれからと建築 |
022 | 後藤治 歴史的建築物の継承と未来をつくる力 |
024 | 鎌田健司 超少子高齢化人口減少社会 |
026 | 林直樹 山間の小集落における縮拓論 |
028 | 村上暁信 自然環境と都市の共生:共存から相利共生へ |
030 | 佐野哲 外国人建設労働者は、どこからきて、どこへいくのか? |
032 | 柴田育秀 エンジニアの未来を考える |
034 | 畑中菜穂子 宇宙建築とその未来 |
036 | 渡邊朗子 環境情報・生体情報の建築への応用─ロボットから脳科学まで |
038 | 佐野友紀 ロボットと暮らす |
040 | 藤原広行 自然災害へのレジリエントな対策 |
表紙裏 | 伊東豊雄 私の青春 |
006 | 山口俊浩 伊東忠太関係資料より 写真・二人 |
042 | いしまるあきこ |
043 | 有岡三恵+大村紋子+羽鳥達也+川添善行 |
044 | 後藤智香子+小泉秀樹 被災地におけるコミュニティスペースの新しい展開─りくカフェの試み |
046 | 宮谷慶一 『長期経済統計4 資本形成』 |
047 | 田中貴宏 ①広島大学建築環境学研究室 都市環境デザインを目指して |
047 | 藤本郷史 ②宇都宮大学建築材料研究室 新しい一歩 |
048 | 大岡龍三 |