2016-2月号 FEBRUARY
建築を愉しむ─未来を変える力
建築の未来像を描きたい。
集合体として都市をも形成する建築は、その社会や自然環境へのインパクトの大きさ故、社会の共有財産としての認識が必要である。このため、建築の未来像を描くには、建築が全体として持つべき方向性を、社会科学と自然科学の両面を見据えて考えていく必要があり、前号では、多くの有識者の方に建築の向かうべき道を提示いただいた。
一方で、個々の建築物の多くは、個人の所有物であることも忘れてはいけない。すべての建築物に、施主や設計者をはじめとした、かかわる者すべての想いが詰まっており、その建築物の有り様に大きな影響を与える。結果、この想いが建築に多様性を与える。また、この想いを具現化する過程は、建築に携わる者に内なる充足感を伴う「愉しみ」を与え、次なる建築をよりよいものとする原動力を生むものと考える。それ故、建築の未来像を描くには社会的観点のみでなく、これらの個々の「愉しみ」を無視することはできない。加えて、この「愉しみ」を膨らませることで、建築の未来がより彩り豊かになることを期待したい。
第1部では、個々の想いが建築に与える影響を紹介したく、学生がゼロエネルギーという共通の課題のもとでも多彩なモデルハウスを実現したイベント「エネマネハウス2015」を題材とした誌面を設けた。第2部「建築を全力で愉しむ」では、今期の会誌編集委員会委員の推薦の下、19名の方に建築にかかわることの愉しみを、種々の視点から紹介してもらう。第3部「リテラシーの醸成」では、社会がより自然に建築を愉しむことを目指した教育活動を取り上げ、第4部「10歳の座談会」では、子どもたちの考える住まい観やその可能性を見いだすことを目的とした座談会を組んだ。
本特集が、総体として、建築の未来に彩りを与える種となりうる「愉しみ」を育むきっかけとなることを望む。
(樋山恭助)
会誌編集委員会特集担当
川久保俊(法政大学)、夏目康子(Lepre)、西原直枝(聖心女子大学)、樋山恭助(山口大学)、水石仁(野村総合研究所)、吉武舞(東京大学)
[目次]
004 | 会誌編集委員 主旨 |
005 | 川久保俊 5色の理想の家─エネマネハウスで見る未来の住まい 関東学院大学 住み手の参加を促す、アフォーダブルなZEH GREEN HAT 2030 芝浦工業大学 継ぎの住処─母から広がる多世代ZEH 山口大学 地域の資源を集めてつくる風の家 立命館大学 「ZEH+水」─+αによるZEHの進化 早稲田大学 暮らしを愉しむ ワセダライブハウス |
008 | 青島啓太×粕谷淳司×小林恵吾×五明遼平×丸毛遼 エネマネハウスで見えた未来の住まい─ゼロエネルギーのその先へ |
014 | 石原直 義務感+ささやかな愉しみ 伊勢田元 海外で働くたのしみ 岩瀬諒子 まちの鼓動が聞こえるとき |
015 | 大谷宗平+高島慶 写真で建築の未来を考える 金野千恵 他者と隣り合う空間"パティ" 酒井康史 愉しい終わり |
016 | 榊原充大 人と建築との間に「経路」をつくる 笹本直裕 職能を行き来する 重村珠穂 デジタル時代の新しい職能 |
017 | 末光弘和 「正しさ」の先にある「楽しさ」とは? 對馬聖菜 建築環境研究と生活文化 坪井宏嗣 理論と実践と |
018 | 中村拓志 動物の巣や集落から学ぶ 逸見篤俊 熟考・発信・共有 三木優彰 境界を目指す |
019 | 水上点睛 動詞としての建築 矢野冬馬 文化財の修理 吉見千晶 「家」を引き継ぐ:園田邸から |
020 | 夏目康子 子ども建築塾 |
022 | 廣谷純子 環境建築、パッシブデザインの魅力を次世代に伝える |
024 | Hさん×Kくん×Oくん×Sさん×Tさん 実用化可能な家? ユニークすぎる家? |
表紙裏 | 六鹿正治 留学時代 |
002 | 長谷川香 坂倉準三建築設計資料群より、神奈川県立近代美術館(神奈川県鎌倉市、1951年竣工、現存) |
027 | 芝川能一+星野幸世 芝川ビル |
028 | 前田昌弘 原子力災害被災者の再定住とコミュニティ・デザイン |
030 | 宮谷慶一 『東京市統計年表』 |
031 | 伊藤孝紀 ③名古屋工業大学建築・デザイン工学科伊藤孝紀研究室 身体・建築・都市を演出する 前真之 ④東京大学工学部建築学科環境系 グローバル・グリーン建築を目指して |
032 | 樋山恭助 |