2016-3月号 MARCH
特集 災害対策研究の新しい起点
3月号では、「災害対策研究の新しい起点」と題して、東日本大震災から節目の5年を迎えることを背景に、災害研究がどのような方向に進み、それが建築業界にどのような影響を与えてきたか、また、今後の災害研究のあり方を考えるうえで議論の端緒となる記事をまとめることになりました。
このテーマは、多くのメディアによってこれまでに何度も取り上げられた、手垢のついたテーマであります。しかし、課題整理や反省が各方面で繰り返され、それなりにオーソライズされた「災害対策の将来像、あるべき論」が発表されればされるほど、社会に十分に組み込まれていない「子ども」や、災害に対して高い意識を持つことができないほど普段の生活に流されて生きる「普通の人々」にとっては、余計に理解しにくくなることも多く、希望を持つべき「将来像」なのにもかかわらず、むしろ、未来においてのびのびと幸福に生きる余地を損なうほどの「義務感」として、重苦しい雰囲気を伝えていたこともあるのではないでしょうか。
東日本大震災は、わが国がこれまで経験してきた災害のなかでも、特に複雑な状況を含んだものであり、社会や個人が事態を受け止めるのに時間を要する体験だったと考えられます。しかし、たとえ重苦しい内容であっても、災害対策を未来に引き継ぐことは人類にとって不可欠なことだからこそ、建設業界の「あるべき論」を宣言するだけでなく、知識の多寡によらず、多くの人にとって、抽象的でない、実務的で率直な観点がいま現在どのような結論に達しつつあるのか、あるいは議論がどのように進みつつあるのかをわかりやすく伝え、「共感」してもらうことが必要なはずです。また逆に、過剰に演出された「希望感」というものも違うはずです。
上記のような主旨から、今回は、①子どもは、震災と震災提言をどう理解しようとするか、②建築物は、どこまでの災害を考えており、それをどのように説明していくべきか、③対策が不十分だった非構造部材は、どのような動向にあるのか、④わが国は、災害対策先進国としてどのような情報蓄積と国際貢献があるのか、というテーマにしぼり、なるべく抽象的でなく、具体的な論点や例を整理することを目指したいと思います。災害対策の「具体的な結論や動向」が提示されることで、未来への重苦しさや義務感が多少感じられもしますが、結局は「そうそう、それを知ることができてよかった」といった安心や納得をじわじわと伴う読後感を目指せたらと考えております。
(北垣亮馬)
会誌編集委員会特集担当
壁谷澤寿一(国土技術政策総合研究所)、北垣亮馬(東京大学)、高橋典之(東北大学)、谷川竜一(金沢大学)、樋本圭佑(建築研究所)
[目次]
004 | 会誌編集委員 主旨 |
005 | 新井葵×新藤恒樹×中島柚季×吉田奈由×小野美史×北原啓司×佐土原聡×布野修司×濱本卓司(聞き手=佐藤淳) |
016 | 塩原等 これからの社会 |
018 | 高田毅士 想定すべき外力とは? |
020 | 北村春幸 新たな地震動に備えた建築物の性能設計の考え方 |
022 | 大森文彦 建築物の安全性と建築生産関係者の法的責任 |
024 | 恩藏三穂 災害保険はどう用意されるべきか─耐震化促進としての地震保険の役割 |
026 | 伊藤弘 非構造部材の安全対策の目指すところ |
028 | 元結正次郎 非構造部材(天井)の安全対策 |
030 | 吹田啓一郎 非構造材(カーテンウォール・間仕切り壁)の安全対策 |
032 | 藤田聡 非構造部材(昇降機)の安全対策 |
034 | 森山修治 非構造材料(設備インフラ途絶)の安全対策 |
036 | 真田靖士 災害対策先進国としての国際貢献─発展途上国の建築災害調査を通して |
038 | 中埜良昭 アジア地域の建築物の耐震補強・簡易補強 |
040 | 柴山明寛 災害データ活用のあり方─災害アーカイブと災害時ビッグデータ |
表紙裏 | 木村建一 環境とエネルギーで半世紀 |
002 | 田路貴浩 ジョサイア・コンドル建築図面より、唯一館(東京市芝区三田[現東京都港区芝]、1894年竣工、現存せず) |
042 | 新井久敏 設計者選定プロセスを公開すると、建築はよくなりますか?─群馬県庁職員・新井久敏氏に聞く |
044 | 阪田弘一 いろんなスピードがある、あっていい |
046 | 芹沢高志+近藤健史+横山和人+北川憲佑 デザイン・クリエイティブセンター神戸 |
047 | 斉藤大樹 ⑤豊橋技術科学大学地震災害工学研究室 建物の耐震シミュレーション |
047 | 仁田佳宏 ⑥足利工業大学仁田研究室 建築への応用 |
048 | 北垣亮馬 |