2016-4月号 APRIL

特集= 学会の過去と未来

創立130周年記念特集号
Past and Future of AIJ

 

特集 学会の過去と未来─創立130周年記念特集号

 日本建築学会は創立130周年を迎えた。130年と言っても、129年と131年と何が違うのであろうか。すべての事象はタイムライン上の連続性を有しているので、それぞれの時点がかけがえのないものであることには変わりがない。しかしながら、ある時点を起点として定期的に過去を振り返り、未来への指針とすることは意味のあることである。なぜ10年刻みかということについては、人間の両手が10指であることに大きく関係するが、次のような理由で10年ごとに振り返ってみることは適切であるように思う。まず、経済的にも10年の波がある。これは企業の設備投資に起因するという。また、約20年を周期とする波がある。これは建設需要に起因する波と言われている。また、実体験から言っても、20年ではあまりにも長いし、5年では短すぎるような気がする。やはり10年ごとというのが適切な長さではなかろうか。そのような背景で130周年を迎えた本号でも、120周年の時と同様に、「学会の過去と未来」というタイトルで130周年記念特集を企画した。

 本号では全体を大きく2部構成とした。

 第1部では、「学会のこれまでとこれから」と題し、中島正愛会長と村上周三元会長の対談を用意した。村上周三先生はちょうど10年前、以前の中長期計画を策定時の会長であり、新旧会長の対談は、これまでの10年間を振り返ると同時に、これからの10年間の学会方針のみならず建築界全体の方向を指し示すものとなることを期待している。また今年、学会の新たな中長期計画が策定された。その中長期計画検討タスクフォースの委員で懇談会を行った。中長期計画の文章の背後に隠された各委員の想いが伝われば幸いである。

 第2部では、「時代をかたちづくった学術・技術・芸術」と題し、この130年の間の建築学の発展においてエポックメーキングとなった、いくつかの特筆すべき研究、技術、作品、業績についてスポットライトを当てる。それぞれの分野における通史的な解説は後に刊行予定である『130年略史』に譲るとして、ここではそれぞれ時代を切り取るスナップショット的な事象の紹介を行った。右の年表に、その時代背景とともに示す。取り上げた内容については、必ずしも130年のタイムラインのなかから均等に選び出したものではない。10年前の120周年記念特集の内容との重複をできる限り避け、また、編集委員会で特に重要であるという認識のトピックを選び出した。そのため、時代的な偏りや各編集委員の恣意的な要素を避けることはできない。しかしながら、何を重要と考えるのかは時代ごとに変遷するものである。『建築雑誌』にそれぞれの時代の思想のアーカイブ的な役割があるとするのであれば、ここで言う重要であるという認識は、日本建築学会設立130年の地点における、現編集委員会の思想を体現していると言えるだろう。

 今回の特集が、これまでの学会、ならびに建築界のありようを振り返り、また、未来に向けたマイルストーンとなることを期待している。

(大岡龍三)

会誌編集委員会特集担当
大岡龍三(東京大学)、北垣亮馬(東京大学)、高橋典之(東北大学)、中島伸(東京大学)、藤田香織(東京大学)、宮田征門(国土技術政策総合研究所)、谷川竜一(京都大学)

[目次]

特集=学会の過去と未来─創立130周年記念特集号

004会誌編集委員 主旨

第1部 学会のこれまでとこれから
006村上周三×中島正愛
建築のニューフロンティアを開拓する
012大月敏雄×坂井文×田辺新一×中埜良昭
これから10年の学会のヴィジョン

第2部 時代をかたちづくった学術・技術・芸術
018材料施工
友澤史紀 高耐久性コンクリート─その意義と課題
田中享二 高耐久化高分子系有機材料
菊池雅史 建物解体と建設資材のリサイクル─130年間のターニングポイントとエポックメーキング
大宮喜文 内外装の火災安全性能
026構造
五十子幸樹 制振構造
五十田博 中層大規模木造
源栄正人 強震観測とモニタリング技術─歴史と展望
加藤大介 試され始めた耐震補強技術
和泉信之 超高層RC造の進歩
奥田泰雄 東日本大震災と建築物の耐津波設計
038建築歴史・意匠
藤森照信 打放し略史
山梨知彦 CADからBIMへ、さらにAIへ
田原幸夫 "Living Heritage"としての東京駅丸の内駅舎
清水重敦 平城宮第一次大極殿と復元の現在性
046防火
山田常圭 都市の不燃化運動の限界と科学技術に基づく防火設計法の開発への取組み
048環境工学
石野久彌 HASPの登場によるシミュレーションの目覚め
加藤信介 建築環境分野におけるCFD(Computational Fluid Dynamics)技術の開発および活用
吉田治典 コミッショニング
上谷芳昭 光環境の制御技術
尾本章 アクティブノイズコントロールの開発および活用
058都市計画
中島伸 帝都復興事業による小学校と公園
初田香成 戦災復興期の住宅金融公庫設立と持ち家志向
西村幸夫 金沢の歴史文化保全施策
塩崎賢明 神戸の復興
066建築計画
大月敏雄 ほぼ100年前の集合住宅計画が21世紀のわれわれに教えるもの
松田雄二 ユニバーサルデザイン
木下庸子 「団地」が消えた日
徳田光弘 リノベーションの多義性

連載

My History④
表紙裏 槇文彦
 私の蒼生のころの歴史

近現代建築資料の世界 ④
002堀勇良
妻木頼黄関係資料より、[臨時建築局]秘密建議(1886年12月25日)

未来にココがあってほしいから 名建築を支える名オーナーたち ④
074森田昭芳
富岡製糸場

これからの公共的建築のつくり方 ③
075乾久美子
幸福な建築のために、どのような意志決定プロセスが必要ですか?

震災復興の転換点 ④
076梅本大輔
支援を手離すまでの射程─復興住宅におけるコミュニティ形成支援を通じて

近代日本建設産業史再考 統計資料からのアプローチ ③
078宮谷慶一
煉瓦:『農商務統計表』ほか

研究室探訪
079上野佳奈子
⑦明治大学建築環境計画研究室
音による空間づくり
079松井正宏
⑧東京工芸大学工学部建築学科建築構造I研究室
強風被害を低減するために

編集後記
080大岡龍三