2016-6月号 JUNE
特集 生活を変えるニューテクノロジー
今回の特集は、生活を変えるニューテクノロジーというタイトルだ。近年、これまで想像もできなかったさまざまな新しい技術が登場している。こうした技術は私たちの生活を変えるし、その結果として建築も変えるだろう。
これまで人類がつくり続けてきたおよそすべてのテクノロジーは、人類という種の持続と発展の蓋然性を高めるように、また、安全、健康、快適で文化的に生活できるように開発されてきたに違いない。そして、技術の蓄積は現代人に空前の繁栄をもたらした。われわれは人類誕生以来、過去のどの時代にも経験したことのないエキサイティングな時代を生きている。一方で、技術の進化に伴って、人口の爆発、水・食糧・エネルギーの過消費、地球温暖化など、さまざまな課題を生じるに至った。今や、人間活動の結果は自然が備える復元力の外にとび出そうとしている。今後、自然によるフィードバック制御がかかるとすれば、その原因たる人間活動は壊滅的ダメージというかたちで修正されるかもしれない。しかし、われわれはそのようなダメージを望まないし、すでにフィードフォワード制御のような知恵も持っている。現代人は大自然に修正される前に、ニューテクノロジーで一歩先に進んで課題を解決し、近代的、文化的な暮らしを維持しながら自然の持つ復元力の枠の中に戻らなければならない。
右に示した日本学術会議第三部(理学・工学分野)による「理学・工学分野における科学・夢俯瞰マップ(技術)」には、2050年までを見据えた、真理の探究と人類が直面する課題解決のための科学の夢がまとめられている。マップの中央から周辺に向かって現在から2050年までに実現したい技術・テーマが書きこまれている。その周辺には「安心・安全・豊かな社会で人をはぐくむ」をはじめとする、八つの科学・技術の成果が実現される社会の将来像が並ぶ。このなかには都市・建築分野に直接関係するテーマが数多く含まれている。人間活動の器である都市・建築がニューテクノロジーと密接な関係にあることは間違いない。夢の将来像の実現にぜひとも貢献したいものである。
6月号ではあえて建築関連のニューテクノロジーにこだわらず、さまざまな分野のニューテクノロジーについて、それぞれの分野を専門とする先生方に技術の現状や可能性について紹介いただくことで、未来の暮らしと建築を考える切っ掛けにしたいと考えた。多くの技術にはプラス、マイナスの両面があることは十分に承知したうえで、今回はあまりネガティブに考えることはせず、技術が切り拓く明るい未来を期待する立場でニューテクノロジー特集を構成したつもりである。
(小林光)
会誌編集委員会特集担当
大岡龍三(東京大学)、川久保俊(法政大学)、川添善行(東京大学)、北垣亮馬(東京大学)、聲高裕治(京都大学)、小林光(東北大学)、樋山恭助(明治大学)
[目次]
004 | 会誌編集委員 主旨 |
006 | 小宮山宏×毛利衛 人類が生き延びるための知 |
012 | 竹内昌義 ユーザーの体験が未来の建築を変える |
016 | 川添善行 ロボットと暮らし、建築について |
018 | 光吉俊二 心を持った機械 |
020 | 松尾豊 ディープラーニング活用の可能性 |
022 | 遠藤謙 人と義足の未来 |
024 | 木暮祐一 ICTで健康を見守る建築の可能性 |
026 | 水島洋 健康を目指したITヘルスケアの未来 |
028 | 三田彰 生命化建築 |
030 | 井上裕治 ICT、コンピュータグラフィックス技術による空間拡張と新しい空間デザイン |
032 | 辻本昌弘 IoTとエネルギーが融合した新たなインフラ活用 |
034 | 荒木慶一+パリーク・サンジェイ+大森俊洋+貝沼亮介 構造材料の現在と未来をつなぐ─自己修復・形状記憶材料 |
036 | 鵜澤潔 革新的な製造技術により実現するCFRPの建築への適用 |
038 | 竹下覚+依田智 透明断熱材の開発 |
040 | 井上文宏 パワースーツの現状と未来の建設作業形態 |
表紙裏 | 川口衞 「喪失」の時代 |
002 | 遠藤康一 東京工業大学建物関係資料より、水力実験室(東京都目黒区、1932年竣工、現存せず) |
042 | 野村洋 JPタワー[商業施設KITTE](旧 東京中央郵便局) |
043 | 桂有生 横浜「都市デザイン室」の役割は何ですか |
044 | 手島浩之 被災地における、混乱/全体性の模索/シンポジウムのあり方─みやぎボイスの試み |
046 | 宮谷慶一 セメント:『農商務統計表』ほか |
047 | 長野克則 ⑪北海道大学大学院工学研究院環境システム研究室 環境設備工学における新しい価値の創造 |
047 | 山口信 ⑫熊本大学山口研究室 耐爆・耐衝撃安全性の向上を目指して |
048 | 会誌編集委員 |