2017-4月号 APRIL
特集 熊本地震から見えてきたもの
2016年4月14日と16日に発生した熊本地震では、最大震度7の強い揺れが2日間で2回観測されました。震源近傍の極大地震によって、一部の新耐震建物にも大きな被害が生じるなど、2011年の東北地方太平洋沖地震のような広域災害とはタイプの異なる災害が発生しました。このような災害が建物や社会に与えた影響については、地震動・建築構造・材料施工・社会防災・情報通信・教育等の専門家によって分析が進められています。それらはこれまでの地震災害ですでに認識されていた恒久的な課題でもありますが、今回新たな警鐘となるものも含まれると思われます。震災から1年を経た現時点で何が見えてきたのか、まだ確定的な結論には至っていない状態ではあるものの、得られた教訓や課題をできるだけ早く、かつわかりやすく社会に伝えるのは専門家の使命でもあります。研究成果を社会に還元することは、社会が防災対策を積極的に進める契機になると同時に、防災分野の研究を支援することにもつながるでしょう。本特集では「第一線の研究者の目」によって「熊本地震から見えてきた」現状での知見を建築に携わる会員読者に紹介します。今後生じうる地震被害を少しでも軽減するための一助になれば幸いです。
会誌編集委員会特集担当
壁谷澤寿一(首都大学東京)、北垣亮馬(東京大学)、高橋典之(東北大学)、聲高裕治(京都大学)、土屋直子(国土技術政策総合研究所)、大村紋子(株式会社納屋)、西原直枝(聖心女子大学)
[目次]
004 | 会誌編集委員 主旨 |
005 | 金箱温春×平石久廣×和田章 熊本地震から構造設計はどう変わるか |
010 | 三宅弘恵 地震動① 地震学から見た熊本地震 |
012 | 久田嘉章 地震動② 2016年熊本地震で観測された震源近傍強震動、および地表地震断層による建物被害 |
014 | 蜷川利彦 RC構造 繰り返されるピロティ形式の建築物の被害 |
016 | 五十田博 木構造 木造住宅の耐震等級と継続使用 |
018 | 山田哲 鉄骨構造 避難所として使用できなかった体育館の被害 |
020 | 高山峯夫 免震構造 熊本地震における免震建物の効果 |
022 | 森野周 報道機関 熊本地震からの警鐘─リスクコミュニケーションができる社会へ |
024 | 古賀一八 外壁材① 熊本地震における外壁材落下被害について見えてきたもの |
028 | 石井久史 外壁材② 大地震から見えてきたDPG構法によるガラスファサードの被害 |
030 | 樋本圭佑+山海敏弘 建築設備 地震時の建築設備被害と建築物の継続使用 |
032 | 田中聡 被災度調査① 建物被害認定調査の限界と今後の対策 |
034 | 吉敷祥一 被災度調査② 被災後の迅速な被災度区分判定と復旧技術─体育館を主な対象として |
036 | 藤井賢志 被災度調査③ ロボットを活用した建築物の被害調査 |
038 | 岡千裕 通信インフラ 異なるタイプの地震による携帯通信インフラ被害からの一考察 |
040 | 川田菜穂子 住教育 巨大災害の時代を生きるための住教育 |
表紙裏 | 青山博之 最近強く思い出すこと |
002 | 藤岡洋保 石田繁之介資料 |
042 | 西村幸夫 東京大学 本郷キャンパス建築群(安田講堂ほか) |
043 | 平野勝也 景観デザインがもたらす公共的空間の価値は何ですか? |
044 | 川﨑興太 福島復興政策の転換と"2020年問題" |
046 | 徐佳凝 アジア、オセアニアのオリンピック・スタジアム |
047 | 神野達夫 ㉛九州大学都市環境リスク学研究室 地震被害の軽減を目指して |
047 | 黒木正幸 ㉜崇城大学工学部建築学科構造系黒木研究室 コンクリートブロック造の耐震性 |
048 | 会誌編集委員 |