2017-5月号 MAY

特集= 建築賞を考える


The Architecture Prize for Whom

 

特集 建築賞を考える

日本建築学会賞(作品)の30年

 優れた建築を選定し、その設計者などを顕彰する「建築賞」について考える特集です。建築関係団体にはそれぞれ建築賞があり、さらに地域を限定したものや、自治体によるものなどさまざまな賞があります。そこでこの特集では、本会における建築賞である「日本建築学会賞(作品)」を軸としながら、それを相対化する視点から幾つかの建築賞を選び、それぞれについての知見をお寄せいただきました。巻頭と巻末の座談では、ともに日本建築学会賞(作品)をテーマに、巻頭では選考の現場からの見解を、巻末では会誌編集委員会特集担当とゲストに深尾精一さんを迎えて各委員がそれぞれの立場から見解を述べています。また、賞を受けた側から2016年の受賞作である「武蔵野プレイス」の受賞者と施設管理者の言葉を収録しています。

 ここでは以下、本文で触れられなかった日本建築学会賞(作品)の設立から現在までの経緯を簡単にトレースしておきます。

 日本建築学会が「『日本建築学会賞』制度の復活について」と題して建築作品の応募を初めて会員に呼び掛けたのは『建築雑誌』1950年1月号の告知記事でした。これが現在の「日本建築学会賞(作品)」の始まりで、以来67回となる2016年までに173作品が選ばれています。

 1950年の告知に「復活」とあるのは、1937年に設けられていた建築学会賞の制度(旧制度)が中断していたためです。この旧制度の建築賞(技藝賞)は1938年に1回だけ、実作ではなくアイデアコンペの入賞案に授与するかたちで実施されたのですが、この賞の出し方に異を唱えたのが東京大学教授の岸田日出刀でした。いわく、「技藝賞を授与すべきものは、建築学会会員の作になる実体化された建築でなければならぬ」(『建築雑誌』1938年11月号)と。この発言とその後の中断の背景には、当時、実現した建築に優劣をつけることになる賞への否定的な意見が多数であったことがうかがえます。

 9年後の1947年、岸田は日本建築学会会長となり、念願であった「実体化された建築」を選定する賞の実現に向けて動きます。その成果が前述の「復活」です。岸田が『建築雑誌』1948年1月号に発表した「建築藝術」と題する巻頭言のなかに「規模はどんなに小さくとも、またそこに使はれる素材はどんなに貧しいものであらうとも、もしその建築に高度の藝術性が満ち溢れてゐるならば、貧しい建築も豊かなものとなることができるであらう」という一節があります。ここで岸田は芸術における作家と作品の関係を持ち出して建築を建築家の作品として評価することが可能であることを訴えており、このロジックをもって「実体化された建築」を表彰する賞が実現に向かったと言えるでしょう。

 告知にある学会賞規程実施要項は「表彰は作品を対象とする」としています。もちろん建築に表彰状を渡すのではなく、続けて「賞を受ける人」=受賞者が規定され、これは当初はなぜか施主や施工者を含むものでしたが、まもなく設計者=建築家に限定されます。この受賞者について1967年に要項に加えられた「重賞は原則的に避ける」という規程はのちのちの選考委員を悩ますものとなりました。

 賞の発表時に公表される審査経過と委員の見解(1988年以降)からは、毎回の選考の現場で、何をもって優れた作品とするのかという真摯な議論とともに、規程への検討が延々と行われてきたことがわかります。日本建築学会賞(作品)が、日本の建築家が目指すべき賞であり続けている背景には、その輝かしい歴史とともにこうした議論の積み重ねがあったからと言えるでしょう。

(大森晃彦)

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会誌編集委員会特集担当
いしまるあきこ、今井康博、大森晃彦、川添善行、戸田穣、中島伸、中山英之、羽鳥達也

[目次]

特集=建築賞を考える

004会誌編集委員
主旨/日本建築学会賞(作品)の30年
006北山恒×松隈洋×大岡龍三
日本建築学会賞(作品)はこうして選ばれる
012比嘉武彦+川原田康子
日本建築学会賞(作品)を受賞して─公共文化施設の新しいあり方を目指した「武蔵野プレイス」
013加藤伸也
管理運営者にとっての日本建築学会賞(作品)─武蔵野プレイス館長に聞く
014各賞基本情報
日本建築学会賞(作品)/日本建築学会作品選奨/JIA日本建築大賞、JIA優秀建築賞/JIA25年賞/BCS賞/グッドデザイン賞/SD Review/日本構造デザイン賞、日本構造デザイン賞 松井源吾特別賞/村野藤吾賞/三春町建築賞/BELCA賞/WADA賞
020藤村龍至
なぜWADA賞をつくったのか?
022山梨知彦
グッドデザイン賞について
024菅順二
BCS賞の創設と現在
026古谷誠章
村野藤吾賞─建築家が選ぶ建築界のベストワン
028芦原太郎
日本建築家協会優秀建築選・JIA優秀建築賞・JIA日本建築大賞と次世代建築賞への提言
030大谷弘明
JIA25年賞の社会的意義
032槇文彦×相川幸二
SD Review
034新谷眞人
日本構造デザイン賞
036三井所清典
BELCA賞
038中島直人
「三春町建築賞」による地域の建築文化向上の試み
040大野秀敏
建築評価システムとしての賞
042深尾精一×会誌編集委員
座談会 日本建築学会賞(作品)とは何なのか?

連載

My History⑰
表紙裏 富田玲子
 けっこう面白い人生

近現代建築資料の世界 ⑰
002田﨑農巳
葛西萬司関係資料より葛西邸(東京市麹町区三年町[東京都千代田区永田町]、1912年竣工、現存せず)

近代日本建設産業史再考 統計資料からのアプローチ⑨
047宮谷慶一
『長期経済統計8 物価』

震災復興の転換点 ⑰
048佐久間信之
ふくしまの住まいの復興とコミュニティの再生に向けて

未来にココがあってほしいから 名建築を支える名オーナーたち ⑰
050大城一郎
八幡浜市立日土小学校

これからの公共的建築のつくり方 ⑯
051平野勝也
風景のトータリティをつくるのに必要なことは何ですか?

研究室探訪
052門脇耕三
㉝明治大学構法計画研究室 モノとコトのダイナミズムの追求
052平田晃久
㉞京都大学平田晃久研究室 生きている建築に向けて