2017-7月号 JULY
特集 建築は記念する
モニュメント(monument)という言葉があります。一般には「記念碑」と訳されますが、建築の場合には「記念的建造物」のようなこなれない日本語があてられることもあります。ラテン語の動詞《moneō》(思い起こす)に由来する言葉です。何かの出来事が、未来において思い起こされるために建立されるオブジェがモニュメントと呼ばれ、そこから建築は記憶と結びつけられます。その最たる形式は墓でありましょう。
とは言え、未来での忘却の不安だけから、人はモニュメントを立てるわけではありません。今日この日の記念に、私たちは碑を立て、建物を建てます。祝いの始まりに。あるいは災厄のあとに。そこにはひとりでは溢れてしまう感情を、去っていった人々へ差し向けるとともに、同時代の人々と共有したいという願いがあり、また未来の人々の共感を得たいという期待があります。
一方でモニュメントがただちに記憶を伝え、感情を呼び起こすわけではありません。最初に感ずるのは隔たりでしょうし、それが何なのかさえ、私たちは知らないことがほとんどです。とは言え、それが残ることで、新たに知る可能性は保たれています。
昨今、建築の対峙する時間の幅が狭くなっているように思います。かつて「建築」という言葉に込められた永続性への思いは、建築の長寿命化や耐久性だけで応えられるものではなかったのではないでしょうか。一方で、建築の本質とは残ることだと思われることもあります。
建物は空間的にはひとつの場所にしか存在しないものですが、建築の抱えている時制は現在だけではありません。建物は時代の念いを場所に記します。建築は記念する。『建築雑誌』2017年7月号では、創刊130周年・通巻132巻1700号の節目に、建築の記念性について考えたいと思います。
会誌編集委員会特集担当
戸田穣(金沢工業大学)、中島伸(東京都市大学)、谷川竜一(金沢大学)
[目次]
004 | 会誌編集委員+田中傑 主旨+20世紀記念建築年表 |
006 | 相田武文×小石川建築ノ小石川土木(石川典貴+小引寛也) 祈りの空間について─硫黄島/東京/石巻 |
012 | 遠藤勝勧×山崎一彦×市居博×古賀繁雄×みぞぶちかずま 菊竹清訓と11の戦没者慰霊碑 |
018 | 村上しほり 戦災の記念から阪神・淡路大震災の記念へ |
020 | 篠沢健太 ランドスケープは「記念」する |
022 | 鈴木了二×小澤京子 建築は回帰する─歴史のイマジナリーラインズ |
表紙裏 | 平井聖 師に恵まれて |
002 | 戸田穣 ①菊竹清訓、東太平洋戦没者慰霊碑(マーシャル諸島共和国マジュロ、1984) ②相田武文、鎮魂の丘(東京都小笠原村硫黄島、1983) |
027 | 伊藤俊志+丸尾恭造 大阪ガスビルディング(通称ガスビル) |
028 | 金菱清 廃墟と幽霊に見る建築の何か |
030 | 牛島朗 ㊲山口大学生活空間デザイン学研究室 |
030 | 赤澤真理 ㊳岩手県立大学盛岡短期大学部 生活科学科生活デザイン専攻 物語・絵画から中世の生活感にふれる |
031 | 会誌編集委員 |