2017-8月号 AUGUST
特集 「図」と「字」─1 繋ぎ合わせる建築のことば
2号連続で「図:ビジュアル(9月号)」と「字:言葉(8月号)」、専門領域と伝達・表現の方法について考える。編集後記は9月号に掲載する。
コミュニケーション技術の進歩は、専門領域の壁を取り払って社会との距離を縮め、異分野間の融合を促すと期待されてきた。けれども、2017年現在はどうだろう。むしろ専門家への無理解、他者との分断といった作用の方が目立ってきてはいないか。
世界中の情報が日々アップデートされるようになり、言葉はすぐに上書きされ、流れていく。ワンフレーズの鋭い言葉がもてはやされがちなのもまた一過性の風潮であって、今後落ち着きを取り戻すかもしれないが、専門家にわかりやすい説明と短時間での(コスパのよい)成果を求める傾向は当面続くだろう。
しかし一方で、私たちは、コツコツとひとつの専門領域を突き詰めた人が発する言葉に触れたとき、不意打ちのように深く共鳴することがある。その領域に対する知識や、わかりやすい説明かどうかとは無関係に、直接、言葉が心に響く。また、タコツボ化しがちな専門領域と社会の間を言葉によって橋渡しする人がいる。いわば、"つなぐこと"の専門家である。これらの人々から異分野間を結ぶ「接続の技法」を学べるかもしれない。そのように考えて、本特集では、壁を超えて活躍するプロフェッショナルたちの言葉を集め、「接続の技法」によって描かれるその先の未来を探した。
(大村紋子)
会誌編集委員会特集担当
いしまるあきこ(いしまるあきこ一級建築士事務所)、大村紋子(株式会社納屋)、高橋典之(東北大学)、夏目康子(Lepre)
[目次]
004 | 会誌編集委員 主旨 |
005 | 大阪市立住まい情報センターの皆さん 対話のなかで見えてくる暮らしの背景─専門家と市民の交差点から |
010 | 原研哉 Ex-formation─未知化するというコミュニケーション |
012 | 坂敏秀 工学におけるコミュニケーションの壁 |
014 | レイチェル・チャン 言葉だけで伝わる伝え方 |
016 | 竹内薫×福和伸夫 私たちも市民。他の専門域では素人。 |
021 | 西澤真理子 対談を受けて:「相手は自分と違う」「自分も素人」という地点からスタートすること |
022 | 小檜山雅之 住まいの災害リスクコミュニケーション |
024 | 本堂毅 専門家と市民の「ボタンの掛け違い」 |
026 | 苫野一徳 誰もが納得する共通の了解を見いだすこと。 それが哲学の役目。 |
028 | 池澤夏樹 わが幼稚園をめぐる驚き |
030 | 堀畑裕之 はじめに「言葉」がある |
表紙裏 | 小林郁雄 JCASと水谷頴介さんと |
002 | 藤岡洋保 後藤慶二資料 |
032 | 堀安規良 北菓楼札幌本館(旧北海道庁立図書館) |
033 | 青木淳 なぜまちの人の意見を建築に取り入れるのですか? |
034 | 青井哲人 福島の地図を描くこと |
036 | 早川克美 ㊴京都造形芸術大学通信教育部芸術教養学科 手のひらに、芸大を。すべての人に開かれた学びの場 |
036 | 水野貴博 ㊵西日本工業大学建築史研究室 ささやかな地域性の発見 |