2018-1月号 JANUARY

特集= 01 建築と学び
特集= 02 デジタル(のよう)に学ぶ


01 Architecture and Learning
02 Learning from/as the Digital

 

特集01 建築と学び

─建築の学びはこのままでいいのだろうか?

 これが本特集の底に流れている関心である。実は本特集の担当者である山崎は、昨年来本格的に建築教育に携わり始めた新米教員だ。勤務校や他校の様子を見聞きするなかで、設計演習を主軸に構成される建築教育の実態を肌身で感じるようになった。
 言うまでもなく、設計演習は、全国の高等教育機関で必修科目として展開されているはずだ。教員は課題を与え、学生がそれぞれに建築物を構想し、図面や模型を用いて内容を目に見える形に定着し、プレゼンテーションを行う。設計行為のイロハを習得するための課題は、住宅や小学校、保育園、美術館、市民ホールなど、学生の習熟度と、規模やプログラムの複雑さを勘案して決定される。提出までの数週間は、敷地のリサーチと、エスキスと呼ばれる教員-学生間のディスカッションの時間が設けられている......。多少の差異こそあれ、設計演習の多くは、以上のようなプロセスで組み立てられているだろう。
 ではそこで、人口減少に向かう現代社会を象徴する方法論─例えばリノベーションや統廃合─についてどれほど検討されているのだろうか。新築の、それも多くの学生にとって実務上一度も出会わないようなプログラムが与えられてはいないだろうか。いや、与えられていても構わないのだが、それならば出題の意図は学生に届いているだろうか。あるいは、学生が毎週ひねり出してくる案を前にしたエスキスには、どのような教育効果が想定され、達成されているのか。教員は学生のモチベーションを学生個人の資質に丸投げしていないか。設計演習における図面や模型は何のために生み出されるものなのか。課題に対するリアクションの突飛なもの、いわば大喜利の問答のような作品を過剰に評価していないか。言い換えれば、現在の設計教育は、設計の教育になっているだろうか? という問いである。
 一方、いわゆる設計演習のような個人作業とは別路線で、ワークショップを取り入れた事例を耳にすることも多い。建築教育委員会がまとめたワークショップ型設計教育(建築やまちづくりの設計に関連するプロジェクト参加型学習)の実態調査によれば[1]、回答のあった全国61事例のワークショップの46%が正規のカリキュラム上に位置づけられている。より社会的な要請に応える設計者を育てるために、架空の建築の設計ではなく、実際にモノが建つプロセスや手応えを経験させようとするもので、学部3年生から修士1年生が参加する例が多いようだ。単位が与えられるとなれば、もはや気ままなサークル活動ではすまされない。
 ワークショップ型の教育内容は「設計や判断のプロセスを可視化することが重視され」たカリキュラムとして設計される。しかも、いわゆる製図能力の向上とは別に、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルの習得、問題発見能力の獲得、地域活性化の手助けといった、これまで扱いづらかったリアリティを持った設計教育として意義があるだろう。ともすればイベント化しがちな側面もあるのだろうが、ワークショップ型教育を通じて地域社会に貢献するという思考モデルは、実務と座学の狭間でバランスを取ってきた建築学科の存在理由として現場には受け入れやすいのかもしれない。


『建築雑誌』における〈教育〉

 では、読者の多くが教育にも携わる『建築雑誌』は、教育にどう向き合ってきたのだろうか。そう考えてバックナンバーを紐解くと、少なくとも2000年以後の特集では、グローバリズムのなかの建築教育や大学院教育など、どちらかと言えば教育行政における先端的なテーマが取り上げられてきたことに気づかされる[表]。ここで気になるのは、そういった話題の背後にある、多くの大学が直面する現場の設計教育の将来像だ。
 今月から2年間にわたって編集を務める藤村委員会では、「学び」を、建築を思考するプラットフォームのようなものとして位置づけている。そこで滑り出しとなる1月号では、建築教育の足元を今一度見直すために二つの特集を編んだ。
 第1特集は大きく二つの軸で構成されている。まず、建築を含めた高等教育全般の位置づけを理解するために、カリキュラムと卒業後の就学・就労の関係を中心に高等教育論を専門とする本田由紀氏をお招きし、設計教育の中核を担う世代の大学教員と議論した。次に、教授方法の観点から設計教育の実践を批判的に検討するために、日本社会が教育目標としてきた「新しい能力」のあり方を論じている教育方法学の松下佳代氏と議論している。ここではいわゆるアクティブラーニングを再考するとともに教員自身の方法論を更新する必要性も語られている。
 併せて、設計演習や卒業設計といった建築教育特有の実践の現代的な意義を考えるために2本の論考を収録した。最後に1991年から続く建築サークルである木匠塾の現状をレポートし、デジタルものづくり教育にフォーカスする第2特集へとつなげている。  建築の専門性が教育によって切り開かれるとするならば、それは建築の未来を開拓することにほかならない。

山崎泰寛

特集02 デジタル(のよう)に学ぶ

未来の建築教育の
プロトタイプを考える

本特集は2000年代の初頭に成年期を迎えた、生まれた時からインターネットが存在する「デジタルネイティヴ」と呼ばれる「ミレニアル世代」による建築の学び論である。急速に進化するテクノロジーや多様化する価値観等、社会構造が抜本的に変化しつつある現代において、建築家に求められる役割も大きく変化しつつある。本特集では6名のミレニアル世代の実践者の活動と座談会を通して、未来の建築教育のプロトタイプを考えたい。

秋吉浩気+藤田慎之輔


特集にあたって、下記に用語の定義を記す。


デジタルとは
一般的に、離散的(ディスクリート)であることを言う。コンピュータを構成する0/1やDNAを構成するA/G/C/Tのように、連続的な情報を要素単位に細分化することで、「離合集散」[A, p.25]でき、「バラバラに切り離したり集めたりできる」[B, p.230]仕組みであると定義する。


デジタル技術とは
具体的には、後述する座談会や実践紹介で言及されるPythonなどのプログラミング言語や、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションのことである。本特集ではより広義な意味合いとして、情報と物質、デザインとエンジニアリング、設計と施工、アカデミズムと社会、施主と建築家といった「分断された対立項を等価に扱うことができ、両者の間を自由に行き来できる媒介技術」であると定義する。


デジタル(のよう)に学ぶとは
原広司が「コンピューターを活用する都市と建築」と「コンピューターのような都市と建築」の差異を指摘したように[A, p.32]、「デジタル技術を自由自在に扱うことのできる人材を創出する事」と「デジタル技術のような人材を創出する事」を明確に区分する必要がある。本特集におけるデジタル(のよう)に学ぶとは、前者を前提としつつ、後者の実現を目的とした建築の学びのことであると定義する。

[目次]

004

特集01 建築と学び
Architecture and Learning

006座談会
建築教育のゆらぎ─
作品主義でも、プロジェクト主義でもなく
本田由紀×五十嵐太郎×槻橋修×福屋粧子
聞き手:藤村龍至+山崎泰寛
012インタビュー
建築の学びを深く、アクティブなものへ
松下佳代
聞き手:藤村龍至+山崎泰寛+満田衛資
017論考─1
東京大学工学部建築学科の設計課題
丹羽由佳理
018論考─2
卒業設計から読み解く
共時的・通時的影響
古澤大輔
020論考─3
木のものづくりが育む
学生のモチベーション─
木匠塾に取り組む学生への調査から
戸田都生男

022

特集02 デジタル(のよう)に学ぶ
Learning from/as the Digital

024座談会─デザイン編
デジタルものづくりが可能にする
建築教育の再統合
秋吉浩気×杉田宗×浜田晶則
聞き手:藤村龍至

実践紹介─デザイン編
027[1]秋吉浩気[VUILD]
028[2]杉田宗[広島工業大学]
029[3]浜田晶則[AHA]
030座談会─エンジニアリング編
分野と時間を横断する教育へ
酒井康史×田村尚土×藤田慎之輔
聞き手:満田衛資

実践紹介─エンジニアリング編
033[1]藤田慎之輔[東京工業大学]
034[2]田村尚土[DIX]
035[3]酒井康史[MITメディア・ラボ]

編集方針
表紙学びとしての建築

建築漫画
000建築教育も"ループもの"!?
Hogalee

年頭所感
002建築界が一丸となり、信頼される日本の建築学の再興を
古谷誠章

連載

編集長インタビュー 第1回
036建築とともに郊外都市の将来を考える|話者|藤縄善朗[前鶴ヶ島市長]
聞き手:藤村龍至

設計教育の設計 第1回
038多様な領域を統合する─東京大学工学部建築学科
千葉学

学会発 第1回
040戦後空間ワーキンググループ
松田法子

技術ノート 第1回
041排水から建築をかえる「拡張排水システム」
古賀誉章

変わりゆく風景 第1回
042重層する時間こそが─世田谷区民会館・区庁舎
野沢正光

すごい〇〇! 第1回
043長崎居留地二十五番館の杢目塗
松下迪生

youは何しに学会へ? 第1回
043規模を差配すること
南後由和

TABLE OF YOUTH 第1回
044アドリブな建築
半田悠人
044選択と評価に向き合う
加藤有里
045点在する個性を組織する
中田寛人
045歴史の地球儀─建築言説の対蹠性
楊光耀

まい・すぽっと 第1回
046外濠とカナルカフェ
陣内秀信

こんな場所からこんな建築 第1回
046島のものと島の技でつくる
能作淳平

#建築雑誌 第1回
047編集室
会誌編集委員