2018-4月号 APRIL
特集07 キャリアデザインとしての留学
日本の近代において、留学は西洋から先進技術や教育手法を日本に輸入する重要な手法でした。特に戦後の建築業界では、1970年代まで丹下健三、槇文彦、伊藤ていじといった一部の例外を除いて、「教える側=西洋、教わる側=日本」という構図が長く続きました。
しかし、21世紀に入り、留学にも短期・長期、国費・私費、指定校推薦、プチ留学、トビタテなどさまざまなモデルが乱立し、もはや一国内で建築教育が完結しない時代となりました。これに呼応するように、日本の各大学では、海外からの留学生数(質は不問)を増やそうと躍起になり、さまざまな受け入れコースが乱立し、協定校・指定校による「教育の国際化」が形式的に進んでいます。
さらに、教える側から留学を捉え直せば、近年では日本の建築家が海外の著名大学でスタジオを持つようになり、教わる側も、教える側も一カ所に固定されず、誰にどこで学ぶか/教えるかを戦略的にデザインする必要が生じています。
本特集は三つのセクションからなっています。最初のセクションでは「近代における留学の意味を歴史から振り返る」と題し、第一線で活躍する建築史家たちにインタビューを行います。二つ目のセクションでは「現代における留学のオルタナティブ」と題し、留学に関連するさまざまな選択肢を整理しています。最後のセクションでは「留学先で教える立場から見た留学制度」と題して、世界各国の大学で教鞭を執った(執っている)建築家・建築史家に日本の留学制度の課題と可能性を問いかけています。
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[豊川斎赫・市川紘司・平野利樹・樋渡彩・三浦詩乃・三宅拓也]
特集08 建築の「働き方」をめぐる個人と組織のライフデザイン
本企画では、建築分野における「働き方」の問題を通して、その背景にある社会構想の変化、ないしそこでの建築の課題をとらえることを企図する。
近年、政府が推進する「働き方改革」(「働き方改革実行計画」働き方改革実現会議、2017年3月)を受けて、各企業においても「働き方」の再検討に関する取り組みが見られるとともに、雑誌などメディアを通して社会的に共有されるテーマとなりつつある。当該テーマを取り巻く議論は、いわゆるワークライフバランスという「生活」のあり方に関する問題に加えて、ダブルワークや労働時間などのように「スキル」や「裁量」、そして「キャリア」の問題が絡んだ複雑な様相を呈している。これらに関しては、働く場所の設計・構想という建築分野が扱う対象の問題としてだけではなく、建築と他分野との関係や、建築に携わる主体自身の問題としてもとらえることができる。『建築雑誌』においては、過去に「就職」や「雇用」が議論の対象とされてきたことはあったものの(『建築雑誌』1981年4月号、「建築学生と就職」)、上述した近年の問題は、「生き方」という、より大きなフレームのなかに取り込まれたものであると言える。この背景には、人口減少や情報化など社会構造の変化、およびそれにともなう人々の価値観の変化があるものと推察される。
そこで本特集では、所属組織や活動場所の異なるさまざまな主体の働き方に注目し、その多様性を明るみに出すことを試みたい。このような主旨のもと、本特集は主に三つのセクションで構成される。まず第1セクションでは、建築設計・計画等の活動にとどまらず、暮らしや場づくりのデザインを通して、新しい働き方を創出・実践している方々による座談会を設け、現代の建築業界における働き方の多様性や課題等について検討する。また、樋口あゆみ氏による論考では、組織論・社会学の観点から現代の社会状況と働き方の関係を俯瞰的にとらえるための視座を提示いただく。次に第2セクション、第3セクションでは、それぞれキャリアデザイン、マネジメントデザインという観点から執筆いただいた論考により、個人のキャリア形成に関する意識・考え方、および組織における人材の育成・協働のあり方について議論する。
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[門脇耕三・秋吉浩気・中島弘貴・三井祐介・吉本憲生]
[目次]
002 |
特集07 キャリアデザインとしての留学
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004 | インタビュー1 『日本の近代建築』から留学を考える 藤森照信|聞き手:市川紘司+豊川斎赫 |
007 | インタビュー2 移動と制度─学としての建築 土居義岳|聞き手:三宅拓也+市川紘司+豊川斎赫 |
010 | インタビュー3 東アジアから学ぶこと 東アジアと共に学ぶこと 村松伸+林憲吾|聞き手:市川紘司 |
012 | 事例紹介1-8 事例8題 平野利樹/柳澤要/大島敦仁/川島宏起/幕田早紀 奥泉理佐子/坂本和子/宮武壮太郎 |
016 | インタビュー4 「外国人になる」経験/ 設計メソッドと教育の作品化の意味 貝島桃代|聞き手:平野利樹 |
018 | インタビュー5 異文化間を横断し経験すること、 考えること 三宅理一|聞き手:樋渡彩+豊川斎赫 |
020 | 論考1 中国美術学院における 国際化教育の取組み|助川剛 |
021 | 論考2 教えと学びの循環する 海外の設計教育現場|伊藤維 |
022 |
特集08 建築の「働き方」をめぐる個人と組織のライフデザイン
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023 | 座談会 建築出身者のキャリアデザイン、 マネジメントデザイン 中村真広×瀬川翠×角田大輔×山川智嗣|聞き手:吉本憲生 |
028 | 論考 変わってこなかった「働き方」を 変えるために 樋口あゆみ |
030 | キャリアデザイン事例1 経営者と働き手をつなぐ、 建築キャリアのつくり方、働き方 納見健悟 |
031 | キャリアデザイン事例2 「建築家の働き方」は いかにデザイン可能か? 藤原徹平 |
032 | キャリアデザイン事例3 ある視点 金田泰裕 |
033 | マネジメント事例1 自由な働き方・生き方を実現する しなやかな組織を目指して 成瀬友梨 |
034 | マネジメント事例2 戦略的な遊びという充填剤が 多様性をつなぐ価値になる 豊田啓介 |
000 | 第4回 夢のあとさき 加藤ノブキ |
035 | 「坪井善勝の世界」に見る論理の美学 ─偏平HPシェルのフーリエ弾性解析─ 中田捷夫 |
036 | 展覧会と建築─「建築の日本展」開催を前に|話者|南條史生[森美術館館長] 聞き手:藤村龍至 |
038 | ありえなかった(かもしれない)関係を接続する 加藤正都 |
038 | ニュートラルな建築 高砂充希子 |
039 | 町並みのなかから考える─研究・実践と町の新しい関係へ向けて 畔柳知宏 |
039 | 誤配文法による軟禁の可能性 何競飛 |
040 | 多彩なスタジオを支えるエスキス力─近畿大学建築学部建築学科 松岡聡 |
042 | 学会発、批評的議論のプラットフォームを 青井哲人 |
044 | 構造デザイン2.0─建築の軽さを求める技術の向かう先 増渕基 |
045 | 漂[ただよ]う広場─新宿歌舞伎町シネシティ広場 西成典久 |
046 | 岡山中心市街地の都市美造成 中野茂夫+井上亮 |
046 | どこまでが建築学会の範疇か 藤岡麻理子 |
047 | 都市の色に気づく場所:ヴェローナのボッテガ・デル・ヴィーニ 赤松加寿江 |
047 | 石垣島の躯体形式 垣内光司 |
048 | 特集を読んで─新築こそ例外 岡部明子 |
048 | 編集後記 会誌編集委員 |