2018-5月号 MAY
特集09 パブリックスペースからまちを動かす
パブリックスペース(公共空間)とは、公園や広場などのように、誰もが利用可能で、多様な人々が集まる開かれた場所を指し、我が国の場合、それらは公有地として捉えられることが多い。しかし、そのような人が集まる公的な場所にいま大きな変容がおきている。
近年、パブリックスペースの整備あるいは運営に民間資本が入り、「人を集めること」がパブリックスペースの新しい役割に加わりつつある。とくに商業的なポテンシャルの高い大都市の公園ではそれが顕著である。
加えて、人口減少や高齢化に起因する地方自治体の財政悪化を背景に、都市経済の活性化の手段として、土地や施設などの社会の資産全体に対して高い割合を占める公有資産のポテンシャルが注目され、公園だけでなく道路、河川区域、駅前広場は「お金を稼ぐ場所」とみなされるようになりつつある。
また巨大な再開発が進みつつある渋谷区では宮下公園がホテルを組み込んだ立体的な公園として再整備されつつあり、豊島区では池袋駅周辺の公園整備は再開発のきっかけであると位置付けられているように、パブリックスペースは都市間競争の武器ともなりつつある。
本特集ではまず、以上のような変容の背景となっている近現代のパブリックスペースの歴史的な変遷をとらえる論考を中島直人氏に寄せていただき、状況を俯瞰する。そして現在、民間主体主導の都市公園整備を可能とする「Park-PFI」制度が導入されるなど、最も動きのあるパブリックスペースである公園行政の当事者である国土交通省公園緑地・景観課課長の町田誠氏、全国のパブリックスペースの利活用のデザインと仕組みづくりに取り組む泉英明氏、小林正美氏の3名にインタビューを行う。また東京のターミナル周辺、名古屋、福岡、愛知県岡崎市等のパブリックスペースの再整備に関わるデザイナーや学識経験者、NPO法人のメンバーなど各種の専門家の方々に具体的な事例のご紹介をいただき、全国のパブリックスペースの整備と利活用の実態と課題を明らかにする。
こうしたパブリックスペースの近年の状況は、都市の魅力を高めることに寄与する一方で、多様な市民に開かれた場所である都市空間本来の公共性をどう捉えるかという問題を引き寄せる。そこで本特集の最後に、シドニーやロンドンを発祥とし世界中で広がる、夜間の路上生活者数を集団で調査する運動「ストリートカウント」を東京で展開する「ARCH」のメンバーの皆さんに論考を寄せていただき、パブリックスペースのもうひとつの実態を明らかにする。
以上を通じて、近年のパブリックスペースの実態と課題を捉え、「まちを動かす」ツールとしてそのポテンシャルを捉え直したい。
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[藤村龍至・石榑督和・三浦詩乃・三井祐介・吉本憲生]
特集10 巨大
日本初の超高層・霞が関ビルは1968年に竣工し、今年で半世紀になる。地震が多発する日本において、超高層を実現することはナショナルプロジェクトと呼べるほどの意味を持ち、20世紀日本の建築が到達した偉業の一つである。その後、国内には霞ヶ関ビルをプロトタイプとして市街地再開発が行われたことも現代の都市環境を考察する上で重要な視点を与えている。
また、霞が関ビルが竣工した頃、超高層ビルは基準階共用部の大半がオフィスとして利用されていた。その後、ニューヨークの超高層ビルがそうであったように、日本の超高層ビルも様々な機能を飲み込み、一つの街と呼べるほどの多数の機能を担う超高層コンプレックスを実現するようになり、さらに駅やバスターミナルなどの交通施設とも結びついて日本独特の発展を遂げた。
また現在の渋谷駅では、JRや私鉄、地下鉄が複数乗り入れるターミナル駅と直接接続するかたちで超高層が6棟建設されようとしており、地下コンコースやペデストリアンデッキなど複数階での接続にとどまらず、河川や道路の付替え、街区を跨いだ地下駐車場ネットワークなど、都市基盤と合わせて整備する世界にも類例の少ない複雑な超高層都市コンプレックスとして実現されつつある。
本特集は2つのセクションに分かれ、前半では日本における超高層ビルのプロトタイプとしての霞が関ビルにフォーカスを当て、中心的に設計に携わられた池田武邦氏へのインタビューを行なった。さらに霞が関ビル以降の日本の再開発事業を日本設計元会長の伊丹勝氏に俯瞰していただいた。
後半では、都市基盤の整備と複合用途の超高層ビルをセットにした日本型超高層コンプレックスの集大成を示しつつあるといえる渋谷駅周辺再開発にフォーカスを当てる。同開発のデザインを統括する「渋谷駅中心地区デザイン会議」の座長である内藤廣氏と、都市基盤、公共施設の整備および整備後のエリアマネージメントを統括する「まちづくり調整部会」の座長である岸井隆幸氏にインタビューを行い、デザインサイドとマネジメントサイドの両面から全体像を浮かび上がらせようとしている。
「まちをつくる」が目標だった霞が関と、「まちをかえる」が目標である渋谷を比較することで、そのあいだの我が国における巨大建築の進化のありようを描く試みである。
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[豊川斎赫・藤村龍至・石榑督和・中島弘貴・三井祐介・吉本憲生]
[目次]
002 |
特集09 パブリックスペースからまちを動かす
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003 | 論考1 施設としての都市公園の誕生と再編 中島直人 |
005 | インタビュー:制度 パブリックスペースとしての 公園の可能性|町田誠|聞き手:石榑督和+藤村龍至 |
008 | インタビュー:空間の活用 公共空間を使い倒す人々を 育てるには|泉英明|聞き手:石榑督和 |
010 | インタビュー:デザインと活用の統合 つくることとつかうこと─ 公共空間とプレイヤーの関係性のデザイン 小林正美|聞き手:石榑督和+吉本憲生 |
012 | 大都市プロジェクト1 公園で池袋を再生する 平賀達也|聞き手:石榑督和 |
014 | 大都市プロジェクト2 名古屋駅前広場 vs 久屋大通公園 伊藤孝紀|聞き手:石榑督和+吉本憲生 |
016 | 大都市プロジェクト3 警固公園 vs 水上公園|柴田久 |
018 | 地方都市プロジェクト おとがわプロジェクト─ 河川・緑道・公園からまちを動かす 天野裕+山田高広|聞き手:石榑督和 |
020 | 論考2 社会課題を解決する 舞台となる公共空間 ─市民参加型の深夜ホームレス実態調査から 北畠拓也+河西奈緒+杉田早苗+土肥真人 |
022 |
特集10 巨大
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023 | 年表 東京の巨大建築年表 石榑督和+三井祐介+吉本憲生 |
024 | インタビュー1 「霞が関ビル」を回想する─ 何のために超高層を設計するのか 池田武邦|聞き手:豊川斎赫+藤村龍至+石榑督和+中島弘貴 |
026 | インタビュー2 日本の再開発、この50年の歩み 伊丹勝|聞き手:豊川斎赫+石榑督和+吉本憲生+三井祐介 |
029 | マップ 渋谷駅中心地区再開発事業概説 石榑督和+三井祐介+吉本憲生 |
030 | インタビュー3 基盤整備からまちづくりへ─ 「渋谷駅中心地区」を振り返る〈1〉|岸井隆幸 聞き手:石榑督和+藤村龍至+豊川斎赫+中島弘貴+三井祐介 |
034 | インタビュー4 都市は誰のものか─ 「渋谷駅中心地区」を振り返る〈2〉|内藤廣 聞き手:豊川斎赫+石榑督和+吉本憲生+三井祐介+中島弘貴 |
000 | 第5回 ジェイン・ジェイコブズの渋谷立体さんぽ 連ヨウスケ |
038 | 渋谷問題を問い続ける─渋谷駅前開発 真壁智治 |
039 | 空地アーバニズム小委員会 遠藤新 |
040 | 現在進行形の課題に取り組みバランスを養う─東洋大学理工学部建築学科 伊藤暁 |
042 | 「生きられた町」から「生きられ"ていく"町」へ 畔柳知宏 |
042 | 情報モデル─人生ゲーム的なワークショップ 何競飛 |
043 | オルタナティブパブリックネス 西倉美祝 |
043 | 「らしさ」が表出する「私の町」 吉田沙耶香 |
044 | 太陽放射と建築・都市環境 井上隆 |
045 | コンピュータ登場のころのはじめての投稿論文 石野久彌 |
046 | 「土造」の建築 山田宮土理 |
046 | 学会の外の建築研究としてのDIY 山口純 |
047 | 外の思考─海を眺める時 富永讓 |
047 | エクストリーム・マウンテン・アーキテクチャー 平瀬有人 |
048 | 特集を読んで─移動ということ 土居義岳 |
048 | 編集後記 会誌編集委員 |