2019-1月号 JANUARY
特集25 ポスト・オリンピック・シティ
臨海部からみた東京の2020年以後
● グローバルシティにとって現代オリンピック・パラリンピックはその招致過程において、ロンドンでは東西格差解消、ニューヨークではイーストリバー川の再開発と東西交通網の整備、というように、普段成し遂げることのできない都市構造の再編をアピールし、加速させるよい機会となっている。他方、2020年東京大会の招致においては、「東京ベイゾーン」と「ヘリテッジゾーン」というふたつの地域区分が設けられ、未来の都市開発モデルの提示、1964東京大会のレガシーの継承というそれぞれの地域像が提示されたが、こうした地域区分と都市構造再編の目標像の関係は不明瞭といえる。
● 東京における臨海部は、丹下健三による「東京計画1960」に大きく描かれて以来、1980・90年代の「東京テレポート構想」・「臨海部副都心開発基本構想」へと引き継がれた。当時は、埋立地の遊休状態や、都心部の過密の進展という課題を前に、業務機能を臨海部に移転し、通信衛星により世界とつながる情報通信基地を整備することで、国際的な情報・金融センターをつくる、という目標が掲げられたが、1995年の青島幸男知事によって世界都市博が中止となって以後、バブルの崩壊もあって目標は曖昧になっている。
● そこで本特集では、2020年以後の東京を考える上で東京臨海部がもつこうしたコンテクストを再評価し、オリンピック・パラリンピックを契機とした社会的・都市的変動が、臨海部のあり方をどのように変質させ、東京に対してどのような影響を及ぼすのかを考えることを通じて、成熟期を迎える東京の行方を論じることを狙いとする。
● このような目的のもと、本特集は以下のように構成される。
● まず、白井宏昌による論考では、1960年以降のオリンピックにおける施設配置の変遷を対象とした議論とその図解が展開される。ここでは、施設配置とポスト・オリンピック・パラリンピックを見据えた都市戦略の関係についての示唆が与えられる。次に、市川宏雄・坂井文・白井宏昌による座談会では、2012年ロンドン大会を1つのベンチマークとしながら、ポスト2020年の東京および臨海部のビジョンを描くうえでの、イニシアティブをもつ主体について議論していただいた。また、続く平本一雄・馬場正尊による対談では、臨海部を大きく変えた1980年代の臨海部副都心計画の功績や課題について再評価するための視座が提示されている。さらに、中島直人・村木美貴・渡邊大志・藤垣洋平による各論考では、それぞれ都市ビジョン史・都市計画・港湾史・モビリティの観点により、東京臨海部の特質や課題が浮き彫りになった。最後に、佐藤克久・大江太人・大和則夫によるエッセイでは、実際に都市開発に携わる立場から、ポスト2020年の東京を展望いただいた。
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[山崎泰寛・吉本憲生・山村崇・中島弘貴・三浦詩乃]
特集26 アーキテクチャを書き換える技術
ポスト・オリンピック・テクノロジー
● 2020年頃をひとつの節目として、これまでの社会の枠組みが大きく転換することがリアリティを帯びつつある。
● この予感は「テック」などと呼ばれるIT技術の飛躍的発展に後押しされたものであり、計算機(コンピュータ)、通信、モビリティ、ロジスティクス、マン─マシンインターフェース、ロボティクスなどの広範な範囲に認められる革命的な新技術は、われわれの生活様式を根底から書き換えてしまいそうに思える。言うまでもなく、生活様式の刷新は社会や人間倫理の刷新も要求する。
● すなわち、現在急速に共有が進もうとしているのは、テクノロジーを出発点とした未来主義的な将来イメージである。そして、こうした革新は建築分野にも及ぶであろうことが語られ始めている。
● 一方で、技術による建築という枠組み自体の更新は、建築の歴史においては決して珍しいことではない。例えば、前回の東京オリンピック(1964年)前後においては、高層建築や大空間を実現させる構造技術の進展、工業化構法や機械設備技術の導入などにより、建築物は様変わりし、それが都市の様相を一変させ、法規などの諸制度の整備を要請した。
● そこでこの特集では、1960年代頃に建築分野において起きた技術革新を踏まえたうえで、それから半世紀が経つ2020年前後、すなわちポスト・オリンピックの建築(アーキテクチャ)を書き換える可能性のある諸技術をレビューする。このことを通じて、ポスト・オリンピックの建築と、それを取り巻く世界に対して漠然と抱かれている、楽天的な未来イメージを検証してみたい。
● このような目的のもと、本特集は以下のように構成される。
● まず、金田充弘・権藤智之・富樫英介の座談会では、前回オリンピックからの約50年をひとつの時代の区切りと捉え、そこで起こった建築における技術史的な枠組みの更新について、構造・構法・設備それぞれの専門から技術史的に振り返っていただくとともに、今後どのような技術が建築をつくっていくかを展望していただいた。次に、今後の建築や都市を書き換える技術の例として、自動運転・セキュリティ・音・ロボット・コンクリートに注目し、それぞれの将来性や課題についてレビューを行った。2020年大会で使用される施設の設計者である市川知・永瀬秀格・大庭拓也による座談会では、ポスト・オリンピックを展望しつつ、そこで建築の要素技術が社会の要請や合意形成の接点やツールとしての役割を担っていることが浮かび上がらせるとともに、AIを含めた未来の職能に関する議論を行った。
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[門脇耕三・三井祐介・永井佑季・米澤隆]
[目次]
006 |
特集25 ポスト・オリンピック・シティ
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008 | 論考1|図解 オリンピック・シティの都市戦略 白井宏昌 |
012 | 座談会 ポスト2020年東京のイニシアチブ 市川宏雄×坂井文×白井宏昌 司会:吉本憲生+山村崇+中島弘貴 |
016 | インタビュー 臨海副都心とは何だったのか 平本一雄×馬場正尊|聞き手:藤村龍至+中島弘貴+山村崇 |
020 | 論考2 東京臨海部都市ビジョンの変遷 中島直人 |
022 | 論考3 ポスト・オリンピックに向けた 東京臨海地域の課題|村木美貴 |
024 | 論考4 有限な海の東京─ポスト2020年 五輪の東京臨海論序説|渡邊大志 |
026 | 論考5 MaaS概念をもとに考える 東京臨海部の未来の交通サービス 藤垣洋平 |
028 | エッセイ1 東京臨海部の近過去・近未来 佐藤克久 |
029 | エッセイ2 都市のソフトウェアを創る グローバル資本・人材戦略|大江太人 |
030 | エッセイ3 東京の将来像に関する自己対話 大和則夫 |
031 |
特集26 アーキテクチャを書き換える技術
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032 | 座談会1 技術はアーキテクチャを どのように変えたか 金田充弘×権藤智之×富樫英介 司会:門脇耕三+三井祐介+永井佑季+米澤隆 |
035 | 技術レビュー1 建築・都市を変えうる自動運転技術 黒田浩年 |
036 | 技術レビュー2 空間化するセキュリティ技術 中村公洋 |
036 | 技術レビュー3 音によって変化する建築観、都市観 羽鳥達也 |
037 | 技術レビュー4 ロボットとその制御 加戸啓太 |
037 | 技術レビュー5 自由な造形の観点での コンクリートシェルの未来像 武藤厚 |
038 | 座談会2 ポスト・オリンピックに躍進する技術 市川知×永瀬秀格×大庭拓也|司会:三井祐介 |
002 | 建築界の連携を通して、日本の建築学をさらに前に 古谷誠章 |
004 | 「編集方針2.0」にむけて 会誌編集委員 |
000 | 第13回 POST OLYMPIC CITY - NEO TOKYO Hogalee |
042 | 黒潮圏の発見 田熊隆樹 |
042 | インドネシアで営む、暮らしと一体の建築行為 阿部光葉 |
043 | 行為の集結により生まれる場所の新定義 津川恵理 |
043 | GIFを目指して。終わりなき建築へ 山川陸 |
044 | プロジェクト型の設計教育 坂東幸輔 |
046 | 近代建築法制100年にむけて 加藤仁美 |
047 | デジタルネイティブ世代における環境設備デザイン 清野新 |
048 | 100年後に論文が参照されることを夢見て 嘉納成男 |
049 | 伊勢神宮棟持柱の古材転用 中山利恵 |
049 | フィレンツェで「ワープ」してしまった 井口勝文 |
050 | レコードとアーカイブ/アーキテクチャー 青井哲人 |
050 | 編集後記 会誌編集委員 |