2019-2月号 FEBRUARY
特集27 人生100年時代の都市と建築
公衆衛生からパブリック・ヘルス2.0へ
● ごく当たり前の人間の寿命が100年に迫る時代がすぐ先に迫りつつある。しかし「人生100年」は、誰もが長寿・健康で幸せに暮らす社会像と直結するものではない。
● たとえば「人生100年」社会は、人口構成にかつてない様相をもたらし、社会を新たな局面に導く。高齢者が圧倒的なマジョリティになった世界では、労働人口が相対的に減少し、社会保障費が増大するが、こうした状況が極端に進展した2040年の日本における社会保障費は、190兆円を超えるという予測があり、その半分は介護・医療費である。現状での日本の税収60兆円ほどに対して、これがいかに異常な事態かは直ちに了解可能である。
● すなわち、「人生100年」社会の到来にあたっては、社会システムの劇的な運用変更が必然的に迫られる。こうした局面において、生産力だけではまかなえない社会保障費は、社会資産(ストック)によっても負担する必要があるが、そこで典型的なストックである建築物や都市インフラが担うべき役割も大きくなることは必然である。
● こうした様相を、歴史的な視点からも捉えてみよう。かつて都市が急速に成長しようとしていた時代、すなわち近代化が始まった時代には、都市では衛生的に劣悪な状況が常態化した。こうした状況に応じて誕生したのが公衆衛生(Public Health)という概念であり、近代的な都市計画や近代建築も、同様の背景をもって発展したものである。
● しかし先人たちの努力により、衛生状態が改善されるにつれ、モダンデザインの意味は忘れ去られ、単なるスタイルとして認識される時代がしばらく続いた。このよう視点から考えてみれば、現在の課題は、拡大時代の人口構成の都市から、「人生100年」時代の人口構成の都市への転換であり、そうした都市における建築のデザインコードの更新である。
● そこで本特集では、「パブリック・ヘルス2.0」をキーワードに、近代の終焉に伴う広範な事象の一断面として、都市と建築の変化を考えてみたい。
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[門脇耕三・高瀬幸造・稲垣淳哉・永井佑季・松島潤平・三井祐介・山村崇]
特集28 タワーマンションの進化と生態系
マス住宅がつくるまちのライフサイクル
● わが国における集合住宅の高層化は、1970年代の「三田綱町パークマンション(1971年、地上19階)」「鹿島建設椎名町アパート(1974年、地上18階)」「与野ハウス(1976年、地上22階)」などに始まり、その後建設技術の進歩や容積率算定法緩和を受けた2000年代の建設ラッシュを経て、「タワーマンション」という呼称とともに東京圏および地方主要都市の景観を構成する一要素として定着している。
● タワーマンション[1]は、1棟に何百もの世帯を抱え、低層部や敷地内に各種施設を擁し、さながらそれ自体が小さな都市と言える。そしてその集合住宅としての肥大性ゆえに、コミュニティ形成の困難、維持管理に際する住民の合意形成・技術双方からの困難など、さまざまな問題に直面しつつある。
● また、多くのタワーマンションは湾岸部や駅周辺部の再開発といった都市開発計画と連動して建設されており、人口、経済、景観といったさまざまな点において周辺地域のライフサイクルを司る存在と言える。
● 以上を受け、本特集ではタワーマンションを都市の諸問題が予見的に顕在化する場と捉え、その進化と生態系を多角的に検討し、マス住宅がつくるまちのライフサイクルについて考えたい。
● 右にはタワーマンションの計画・建設に関わる政策的・法規的枠組みの変遷を年表としてまとめ、つづく森本修弥氏の論考の代表事例(記号は本文に対応)を併示した。ここではまず黎明期から今日まで、タワーマンションがいかなる力学のもと増殖・展開してきたか、その進化の様相を論じる。
1 超高層集合住宅・タワーマンションの明確な定義はなく、本特集では階数20前後もしくは高さ60m以上の集合住宅を対象とした。
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[香月歩・山崎泰寛・酒谷粋将]
[目次]
002 |
特集27 人生100年時代の都市と建築
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003 | 座談会 「人生100年時代」を生きるための 都市・建築 大澤元毅×園田眞理子×後藤純 司会:高瀬幸造+松島潤平+山村崇+永井佑季 |
008 | 図解 人生100年時代技術マップ |
010 | ケーススタディ1 年をとってからの居場所 若林幹夫|聞き手:三井祐介+門脇耕三 |
012 | ケーススタディ2 高齢化した住宅団地における 社会包摂的コミュニティ拠点「南機拌飯」 林書嫻 |
013 | ケーススタディ3 高齢者介護の 支援技術開発・評価を通してみた 建築学との協働可能性 杉原太郎 |
016 |
特集28 タワーマンションの進化と生態系
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017 | 論考1 超高層集合住宅の 進化と系譜 森本修弥 |
019 | 論考2 タワーマンションが示す 成長と衰退の様相 久保倫子 |
020 | 座談会 タワーマンションは 都市のストックとなりうるか? ─合意形成のマネジメントデザイン 小林秀樹×齊藤広子×長嶋修 司会:山崎泰寛+酒谷粋将+香月歩 |
024 | 論考3 都市のフロンティアとしての 郊外とタワーマンション 砂原庸介 |
000 | 第14回 Keep Yourself Alive 連ヨウスケ |
025 | 密度の尺度とまちづくりへの出発 佐藤滋 |
026 | インドネシアで実践する、建築学的参与観察 阿部光葉 |
026 | 圏域と建築家 田熊隆樹 |
027 | 最適化された奇妙な「かたち」 小澤拓夢 |
027 | 「跡形」の風景─修景的アプローチをのりこえるべく 清山陽平 |
028 | 挑発するカリキュラム─学生の抽象的思考を高めるために 藤原徹平 |
030 | 「建築外皮のエネルギー性能小委員会」の活動報告 長谷川巌 |
031 | 真鶴出版2号店の「碇取手」 冨永美保/伊藤孝仁 |
031 | 回想の大草原 松永安光 |
032 | ポスト・オリンピックは東京臨海部の都市景観と建築技術に何をもたらすのか 金田勝徳 |
032 | 編集後記 会誌編集委員 |