2019-4月号 APRIL
特集31 ラボデザインの過去・現在・未来
● 大学における研究の場であり教育の場でもある研究室。それは大学の組織の最小単位であり、大学生活における醍醐味を提供してくれるものでもある。ゆえにラボのデザインが組織的にも学術的にも鋭く問われるべきである。
● 大学の方針、研究室をマネジメントする教員の考えにより、研究室のあり方は実に多様である。指導教員の抱える研究テーマに基づき研究を遂行し論文を執筆することを主とする「従来型」、教員がディレクションするかたちで大学院生、学部生がチームを組み、時に外部企業とも協働しプロジェクトに取り組むことを主とする「プロジェクト型」、専門分野の領域を横断しイノベーションを創出するインキュベーションの場となる「横断型」などが代表的な研究室のタイプとして挙げられる。
● ラボデザインは時代の変化に合わせ、その社会が求める要請に応じ、そのあり方を変化させつづけてきている。IT技術の発展を背景に技術革新が進み、同時に教育改革も叫ばれる昨今、ビジョンを描く新しいタイプのエンジニアを育てるラボのあり方が求められている。
● 一方で、研究室という閉じた組織のなかで、教員と学生の関係が固定化し流動性が阻害される、学生が労働力として搾取されるという問題も起こっている。また、教育に重点を置くあまり研究の場としての役割が希薄になり教室化する研究室の実情も見られる。
● 本特集では、「ラボデザインの過去・現在・未来」と題し、意匠、歴史、計画、都市といった建築系デザイン分野、環境・設備、構造、構法、材料といった建築系エンジニアリング分野、国外や隣接他分野、研究室を束ねる中間領域的な機関におけるそれぞれのラボデザインのあり方を組織論、マネジメント論の観点から、産業や社会といったそれを取り巻く状況とその移り変わりをもふまえその可能性と課題を議論する。このような目的のもと、本特集は以下のように構成される。
● はじめに、隣接他分野における先進的なラボデザインとして、研究室に求められる資金調達、研究、社会実装、教育といったことのあいだに独自のストラクチャーを構築し社会に回路をもつラボデザインに取り組まれている落合陽一氏にインタビューを行い、これからの研究室に求められるものはどのようなものであるか、研究室の可能性と課題とともに展望を論じていただく。
● 次に、慶應義塾大学SFC研究所所長の田中浩也氏と京都工芸繊維大学KYOTO Design Labラボ長の岡田栄造氏の対談をとおして、研究室の垣根を超えた横断型組織としてのラボデザインのあり方についてお話いただき、現代社会の複雑化する課題に対応するための専門分野を横断した協調の可能性を模索する。
● 次に、研究室を設立して3年以内の若手教員による座談会、設立10年前後になる中堅世代による座談会、三世代の師弟による座談会、世代を横と縦につなぐかたちで3つの座談会を企画した。若手座談会ではラボデザインに抱く野心と現在の教育現場のなかで向き合っている課題について、中堅座談会では環境、意匠、構造と専門分野の異なる3人の教員にご登場いただき理想と現実のあいだでの試行錯誤を経て確立されたラボデザインとその経緯について、三世代座談会では建築計画系研究室の歴史的変遷や研究室運営の継承と展開について、それぞれ議論していただいた。
● また、建築材料系研究室の運営制度設計の一例として丸山一平氏に研究方針から組織運営まで具体的なラボデザインの実践について論考を寄せていただき、海外の分野横断型のラボデザインの最先端事例として酒井康史氏にMITメディアラボについてご紹介していただいた。
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[山崎泰寛・米澤隆・杉田宗・藤田慎之輔]
特集32 新エンジニア─工学で未来を思索する
● 「技術」(technology)とは明らかにされた科学的知見を応用し、人間の生活に役立てるための手立てのことを、そして技術者とはその手立てを構築し、実行する者のことを言う。「建築」(architecture)もその語源を辿れば、そこには「技術」(techne)の意が込められており、建築家(architect)の概念も「技術者」(tekton)の一つのあり方として位置付けられる。しかし科学技術が発展し、複雑化するにつれ、それぞれの専門分化が進み、「技術者」という言葉はある特定の領域における高い専門性を持った技能者として捉えられ、「建築家」や「設計者」とはかなり異なる意味で使われているのが実情なのではないだろうか。すなわち、技術者は社会のビジョンを提示する主体としてではなく、目的を達成するための手段の提供者として捉えられがちのように思えるのである。技術が社会の発展と成長を支えると信じられた時代は遠く過ぎ去り、現代においてはAppleやAmazon、Googleのように個々の技術を開発しながらも、それらを組み合わせ、人々のライフスタイルをかたちづくる製品やサービスを提供し、技術と社会を接続する主体が産業の主導権を握っている。
● 建築や都市の領域においても、多くの先進的な技術の開拓者は人の暮らしからは遠く離れた所にその立ち位置をとどめているのではないだろうか。その一方で、エンジニアでありながら社会をリードするコンセプトやビジョンを提示する新しい専門家が出現しはじめているのも事実であり、こうした時代のなかで、建築・都市の技術者が目指すべき姿、そしてその可能性を改めて見つめ直したい。
● 今回の特集では、上記のような背景のもと、これからの「技術」を扱うための作法を、あくまでも「技術者」の視点から捉えたい。工学に深く精通し、自らもその発展に寄与しながら、その技術がどのようにして人、環境、社会にインパクトを与えることができるのか。そうした技術のビジョンを描き、技術と社会を接続する技術者を、ここでは仮に「新エンジニア」と呼ぶこととする。新エンジニアの理想の姿を探求することを通して、今後、建築の技術がどのように社会に接続すべきなのか、展望を開きたい。
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[満田衛資・酒谷粋将・高瀬幸造・吉本憲生]
[目次]
002 |
特集31 ラボデザインの過去・現在・未来 |
004 | インタビュー 魔法使いのラボデザイン 研究・アート・実務の三位一体論 落合陽一 聞き手:藤村龍至+門脇耕三+米澤隆 |
008 | 対談 研究室のつなぎ方 大学の内外をまたぐ横断的活動をつくる 岡田栄造×田中浩也 司会:山崎泰寛+杉田宗+藤田慎之輔+米澤隆 |
010 | 座談会1 建築計画系研究室・三世代 ラボデザインの歴史的展開とこれから 若山滋×北川啓介×米澤隆 司会:山崎泰寛+杉田宗 |
014 | 論考 建築材料系研究室の 運営制度設計の一例 丸山一平 |
016 | 座談会2 各系の研究室のそれぞれ 構造・意匠・環境のラボ 多田脩二×平瀬有人×前真之 司会:山崎泰寛+藤田慎之輔+米澤隆 |
019 | コラム MIT Media Lab 酒井康史 |
020 | 座談会3 自立した学生を育て 自分の研究のフレームも広げる 岩元真明×海野聡×大風翼×能作文徳 司会:山崎泰寛+杉田宗+藤田慎之輔+米澤隆 |
024 |
特集32 新エンジニア─工学で未来を思索する |
025 | 論考1 "構造家"概念の成立を辿る 小澤雄樹 |
027 | 論考2 Well-tempered Environmentを目指す─ エンジニアの役割 野沢正光 |
029 | 論考3 思索的工学は可能か? 久保田晃弘 |
031 | インタビュー 本質の探究を通した ものづくりのヴィジョンメイキング 山中俊治 聞き手:酒谷粋将+高瀬幸造+中島弘貴 |
033 | 座談会 人間性を伴ったエンジニアリング 遠田敦×浜田晶則 聞き手:酒谷粋将+高瀬幸造+吉本憲生 |
036 | 技術ノート+論考1 分析的な空間レイアウトデザイン: 技術者の役割|髙松誠治 |
037 | 技術ノート+論考2 建築情報のプラットフォーム 掛本啓太 |
038 | 技術ノート+論考3 オープン・ソース、 オープン・エデュケーション|髙木秀太 |
039 | 対談 建築・都市と技術をつなぐ 「新エンジニア」の可能性 羽藤英二×豊田啓介 聞き手:酒谷粋将+高瀬幸造+吉本憲生+満田衛資 |
000 | 第16回 平成天才エジソン Mr.松葉 |
042 | 飾らない町家暮らしに本質的保全のありようを見る 清山陽平 |
042 | ビルに生まれる奥 中村周 |
043 | スキマからまちを育てる 木村達之 |
043 | ベリーピッキングモデルで探す北九州の魅力 森友里歌 |
044 | 早稲田大学芸術学校における設計教育 保坂猛 |
046 | 円筒の渦励振の数学モデル 田村幸雄 |
047 | 3種のボックス席を持つみんなの劇場 本杉省三 |
047 | スラムに転変したキャンディリスのバルコニー 松原康介 |
048 | 住宅復興/神戸の未来 塩崎賢明 |
048 | 編集後記 会誌編集委員 |