2019-7月号 JULY
特集37 大学キャンパスとまちのこれから
●一般に建築系雑誌が取り上げる「大学の建築」とは、有名建築家らが手がけた大学関連施設を指す。それに対し本特集は、有名・無名を問わず「大学の建築」が集合する大学キャンパスに注目し、大学キャンパスがまちの構成要素として期待される役割や閉学時の負の影響に焦点を当てる。
●近年、首都圏の有力大学はこぞって都心にキャンパスを新設し、質の高い学生の確保に余念がない。いわば、少子高齢化と受験者数の減少に先んじた大学間競争の現れであり、大学を誘致する自治体側から見れば都市間競争の現れでもある。大学キャンパスの誘致はかつて公害に悩まされたブラウン・フィールドをクリエイティブ・シティに転換する都市再開発手法としても注目されている。
●それとは対照的に、文部科学省は大学キャンパスの「知の拠点」化を奨励してきた。具体的には、産学官が集うプラットフォーム機能を強化し、地元企業との共同研究や、サテライト・キャンパスの運営を通じて地域貢献する人材の輩出が期待されている。しかし、「連携疲れ」という言葉に象徴されるように、「知の拠点」に代表される大型予算の獲得は大学を疲弊させる毒饅頭と評されている。
●また、世界の大学キャンパスに目を転じれば、まちのようにキャンパスをつくり、キャンパスのようにまちをつかう発想(生きた実験場:リビングラボラトリー)が俄かに注目を集めている。
●本特集では、「大学キャンパスとまちのこれから」に関する3つのトレンドを紹介し、有名建築家の作品カタログとは異なる「大学の建築」の諸相をお届けしたい。
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[豊川斎赫・香月歩・永井佑季、編集協力:安森亮雄・上野武]
特集38 設計教育のジレンマ
●2018-2019年の『建築雑誌』では、建築を思考するプラットフォームとして「学び」を位置付けたうえで、「デジタル技術」や「ラボデザイン」という観点から現在の建築教育を再検討する特集を組み、未来の建築教育のあり方を考えてきた。建築教育における新たな試みを取り上げるなかで、現在の建築教育が抱える課題も浮き彫りになった。
●最も深刻な課題は、いわゆる「設計離れ」である。これは、建築系学科のカリキュラムを通じて、学生から設計への興味が薄らいでいくことを指す。しかもこの状況は特定の大学だけでなく、全国の多くの建築系学科が直面しているようである。十分な経済的支援を受けられない「学生の貧困化」や、研究の比重が軽くなる「大学の高校化」など、「設計離れ」にはさまざまな要因が考えられる。一方で、建築士法の規制緩和にともなう一級建築士受験機会の早期化が、大学教育の受験予備校化を招くという声も根強い(日本建築学会「改正建築士法施行に向けた日本建築学会からの意見」p.4、2019年5月13日)。設計離れと受験機会の早期化が行き着く先で、高等教育機関における設計教育のあり方は根本から再考を促されるに違いない。
●そこで本特集では、能動的かつ横断的な学びとして、長年建築系学科の基幹科目とされてきた「設計演習」を中心とした「設計教育」にフォーカスする。特集を始めるにあたり、建築系学科に属する学生と教員が、何を考え、どのような意識で建築を学び、また教えているのかを明らかにするため、教育に携わる編集委員と、委員が関わる学生を対象としたアンケート調査を行った[表1・表2・表3]。現在の設計教育における生の声を吸い上げてみると、日々のエスキスのあり方はもちろん、評価の透明性や課題の見直し頻度など、大学間によって設計教育の運用状況が大きく異なっていた。そして学生は、自らが置かれた教育環境に切実な思いを抱いていることが明らかになった。
●そのような状況を踏まえながら、本特集では二つの座談会を企画した。一つは学生の代弁者として2018年1月号から連載している「Table of Youth」に寄稿した若い世代によるもので、そこでは出身大学の異なる彼ら/彼女らが受けてきた設計教育のあり様と、今後望むべき設計教育について率直に意見が交換された。他方は、設計活動と設計教育の両方に携わる教員による座談会である。
●最後に、設計教育の現状を社会学ならびに建築学の視点から考察し、高等教育の場にふさわしいこれからの設計教育の姿が論じられている。演習科目に対する社会的要請を満たし、学生、教員ともに建築への学びを深める設計教育はいかに可能なのだろうか? 特集を通して深められた課題が、建築界全体で共有され、建築教育をより良いものへと変化させていくきっかけになることを期待する。
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[杉田宗・山崎泰寛・樋渡彩・三宅拓也・藤田慎之輔]
[目次]
002 |
特集37 大学キャンパスとまちのこれから
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003 | 座談会1 都市における大学キャンパスの 役割を再定義する-- 墨田区と千葉大学の試み 徳久剛史×山本亨|聞き手:上野武+安森亮雄+豊川斎赫 |
007 | 座談会2 都市の未来像としての 大学キャンパスのデザイン戦略-- 名古屋造形大学と京都市立芸術大学 山本理顕×乾久美子×大西麻貴×百田有希×郷野正広 聞き手:藤村龍至+豊川斎赫+香月歩+永井佑季+安森亮雄 |
011 | 論考1 大学キャンパスの拡大/縮小・ 新設/撤退と「まち」との関係 斎尾直子 |
012 | 論考2 地域の「知の拠点」としての 大学の役割 塚本俊明 |
013 | 論考3 自律分散型マルチキャンパスの展望 恒川和久 |
014 | 論考4 大学発リビングラボラトリによる 大学と都市の新しい関係 小篠隆生 |
015 | 論考5 都市の部品/縮図としての 大学キャンパスの可能性-- 地域志向型大学の場合 安森亮雄 |
016 |
特集38 設計教育のジレンマ
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017 | 座談会1 設計教育で教えていること、 教えるべきこと 羽鳥達也×藤原徹平×宮部浩幸 聞き手:杉田宗+樋渡彩+山崎泰寛 |
021 | 座談会2 設計教育で学んできたこと、 学ぶべきこと 小澤拓夢×加藤有里×清山陽平×久保田啓斗× 住田百合耶×鈴木陽一郎×谷繁玲央×津川恵理× 何競飛×楊光耀 聞き手:杉田宗+樋渡彩+山崎泰寛 |
025 | 論考1 表現者教育の再設計に向けて 藤代裕之 |
027 | 論考2 原論的な建築設計教育を 私は目指してきた 土居義岳 |
000 | 第19回 すれちがう美のありか 大西 洋 |
029 | 日本建築学会大会[北陸]開催概要 下川雄一 |
030 | 継承すべきは何か─法政大学市ヶ谷キャンパス55/58年館 石井翔大 |
031 | カラガハゲダラ(スリランカ)のアンバラマ 山田協太 |
031 | 記憶の中の早稲田 藪野健 |
032 | 変化の理屈とその変化 饗庭伸 |
032 | 編集後記 会誌編集委員 |