2019-10月号 OCTOBER
特集43 大阪から考える都市再生の現在
水都・インバウンド・ジェントリフィケーション
●高度経済成長が一段落して新たな社会経済情勢の変化を迎えるにあたって、2002年に都市再生特別措置法が制定された。都市機能の高度化と都市居住環境の向上を図るこの法律の適用により、東京を中心に多くの大都市で都市再生事業が実装されてきた。各々の事業区域において複合的な開発が進み、公開空地の確保や狭隘な道路の拡幅による都市の公共性と防災性の向上、低未利用地の利活用による新たな価値創造などの一定の成果が現れてきている。
●本特集で取り上げる大阪では各事業区域での成果に加えて、21世紀に入ってから「水都大阪」を大きな都市再生ビジョンとして掲げ、公共による親水空間の整備事業やそれと連動した民間によるにぎわい創出事業が展開してきている。さらに大阪都心内部では、都市再生緊急整備地域指定に伴うマンション開発やインバウンド需要を狙ったホテル開発など民間資本による再投資の兆候もみられている。
●一方で、以上のような大都市内部の再活性化現象とともに地域の高級化や住民階層の変化といった、いわゆる「ジェントリフィケーション」が生じているという議論も噴出している。このジェントリフィケーションは、借家人の立ち退きとそれに伴う伝統的コミュニティの瓦解などの問題を引き起こしつつある。
●本特集では、大阪の都心内部で起こっている急激な都市変化を、「水都」「インバウンド」「ジェントリフィケーション」の3つの側面から読み解き、都市再生の現在を論じることを目指す。
●第1部では、泉英明氏、忽那裕樹氏、 砂原庸介氏の座談会により、大阪の都心内部における都市再生のこれまでを概観し、実態と課題を把握する。
●第2部では、吉江俊氏による図解と内田奈芳美氏、藤塚吉浩氏、岡絵里子氏の座談会を通して、「ジェントリフィケーション」から大阪の都心再活性化の特徴を把握し、他の都市圏や地方都市との比較により大阪の位置付けを明確化する。
●第3部では、大阪の再生事業の最前線に携わる各々の論者の立場から、現在の大阪の都市再生の最新動向を報告していただく。
[藤村龍至・益子智之・吉本憲生・内田奈芳美(編集協力)・吉江俊(編集協力)]
特集44 万博から考える関西の未来
大阪の役割・可能性を構想する
●20世紀において、国家の開発力や国威を発信する場として少なからず活用されてきた「万国博覧会(以下、万博)」は、21世紀最初の愛知万博以降、人類が共有する全地球的な課題に対する対応策を提示する理念提唱の場へと移行している。2025年に開催が決定した大阪・関西万博では、その標語を「いのち輝く未来社会のデザイン」と銘打ち、国内外から医療・健康、自動走行、ロボットなどの新技術の投資を呼び込み、臨海部の夢洲を主会場とした未来社会の実験が行われる予定である。
●主会場である夢洲は、1988年に策定された大阪市の「テクノポート大阪」計画に基づいて、大阪ベイエリアの新都心としての役割が期待されていた人工島であるが、1990年代以降のバブル崩壊に伴い、長きにわたり未利用の状態が続いていた。2008年に夏季五輪の誘致に取り組むもののその誘致活動は実現せず、2009年以降「テクノポート大阪」構想は道半ばで中止することになる。このような文脈を有する夢洲を利活用するため、万博とIRを誘致し、大阪のベイエリア全体を再活性化させることを目指していると言えよう。
●一方、前特集で捉えたように、2000年代以降大阪の都心では、官民連携による水辺再生や民間資本による駅前再開発の成果が徐々に現れてきている。このような都市再生の流れは、御堂筋の歩行者空間化やうめきた2期再開発などが計画されていることを鑑みると、今後も推進されると容易に予想できる。そのため、2025年大阪・関西万博開催時には、都市再生事業により各々の地区特性に応じて形成された新たな価値が、都心部に点在していると考えられる。
●以上のような大阪ベイエリアの再開発と都心部における都市再生の動向を踏まえると、2025年大阪・関西万博では、囲い込まれ孤立した人工島・夢洲内で完結させるのではなく、都市経営の政策・戦略に基づいて、万博の効果を大阪の都心部へとつなげることが求められよう。さらには、より長期的な「関西」の発展のために、大阪に求められる役割も含めて構想することが必要であろう。このような問題意識から本特集では、現段階での2025年大阪・関西万博に向けた都市政策・戦略を浮かび上がらせ、万博を契機とした大阪と関西の未来を構想することを目指す。
●第1部では、万博誘致に尽力なされ今後も主導的立場に立たれる、田中清剛副知事へのインタビューと経済戦略局局長の論考、橋爪紳也氏と嘉名光市氏の論考により、大阪が2025年万博で目指すものを具体化する。第2部では、都心6区の周辺区で先進的な取り組みをされている山口照美区長、民主導で長堀通と御堂筋でまちづくりに取り組んでこられた成松孝氏へのインタビューを通じて、臨海部とまちなかをつなげるための手がかりを探る。第3部では、小林郁雄氏に神戸を事例として港湾部と都心部を結ぶ都市軸構築、辛島理人氏に過去の万博の文脈を振り返りによる大阪と関西文化圏の将来像、について論じていただき、2025年大阪・関西万博の可能性を見出す。
[藤村龍至・豊川斎赫・益子智之・水谷元・三井祐介・吉本憲生・吉江俊(編集協力)]
[目次]
002 |
特集43 大阪から考える都市再生の現在
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004 | 座談会1 今大阪で何が起きているのか 泉英明×忽那裕樹×砂原庸介 聞き手:藤村龍至+益子智之+内田奈芳美+吉江俊 |
008 | 図解 ジェントリフィケーションの巨視的観察 吉江俊 |
010 | 座談会2 「ジェントリフィケーション」 から見る大阪 内田奈芳美×岡絵理子×藤塚吉浩 聞き手:藤村龍至+益子智之+吉江俊+吉本憲生 |
014 | 論考1 水都大阪のクライマクス-- 公民連携の到達点とその先へ向けて 武田重昭 |
016 | 論考2 文化・芸術による工場遺産の 創造的活用と地域との共生 白石将生 |
017 | 論考3 ジェントリフィケーションの暴力を 直視せよ|原口剛 |
018 | 論考4 多面的価値としての 長屋のリノベーション|吉永規夫 |
019 | 論考5 空き家の暫定利用から 都市再生の"芽"を育てる 今村謙人 |
020 |
特集44 万博から考える関西の未来
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021 | インタビュー1 2025年大阪・関西万博で目指すもの 田中清剛|聞き手:藤村龍至+益子智之 |
024 | 論考1 いのち輝く未来社会のデザイン─ 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の 構想とレガシーをめぐって 橋爪紳也 |
026 | 論考2 都心の都市再生と臨海部をつなぐ 都市・大阪の再編集 嘉名光市 |
028 | 論考3 大阪・関西万博を契機とした、 大阪の経済戦略 柏木陸照 |
029 | インタビュー2 御堂筋の歩行者空間化へ向けた ビジョンと戦略 成松孝|聞き手:藤村龍至+益子智之 |
031 | インタビュー3 万博の効果を生野区の活性化に つなげるための政策と企画 山口照美|聞き手:藤村龍至+益子智之 |
033 | 論考4 港湾と都市を結ぶ神戸の中央都市軸 小林郁雄 |
035 | 論考5 3つの万博をめぐる100年史 辛島理人 |
000 | 第22回 タネの都 木下いたる |
039 | 風景の変容を紐解く意味:錦市場 岡本和己 |
040 | 地域を纏う空港 大和田卓 |
040 | マチカタとつくる新しい町の風景 久保田啓斗 |
041 | エコジグ─エコロジカルな治具 正田智樹 |
041 | スケールの零度 大村高広 |
042 | 15歳からの建築設計教育 水島あかね |
044 | アクチュアルなキーワード集作成を目指して 坂牛卓 |
045 | レベル2を超える地震動に対して構造設計者はどう対応するのか? 西村勝尚 |
046 | 最初の学会投稿論文 仙田満 |
047 | 国立西洋美術館本館の打放しコンクリート 平井直樹 |
047 | 高層化するスラム建築 小野悠 |
048 | 斥力と引力─公共性と創造性をつくるもの 小野田泰明 |
048 | 編集後記 会誌編集委員 |