2019-11月号 NOVEMBER

特集= 45 「高流動化」する日本列島
国土と都市・地域のこれから
特集=46 外国人/移民とすまい
到着地としての日本


45 The High Mobility Archipelago: Perspectives on Transforming
National and City-regional Structures of Japan
46 Immigrants and Dwellings –
Japan as Destination

 

特集45 「高流動化」する日本列島
国土と都市・地域のこれから

●大都市の20世紀
 20世紀は大都市の時代であった。付加価値創造の中心が農業から商工業へと移ったことで、農村から都市へと夥しい人口移動が引き起こされ、都市成長の原動力となった。都市が一定規模に達すると、そのこと自体がさらなる成長の要因となる。特に三大都市圏では、さまざまな生産資源が集中して事業所を誘引し、同時に豊富な雇用の存在と、教育・文化・娯楽・医療など諸機能の充実が居住者を惹きつけることで、都市域は累積的に肥大化して郊外へと膨張していった。

●情報流・人流が加速し「高流動化」する社会
 しかし近年の技術革新は、そうした従来の都市成長の前提を突き崩し始めている。特に情報技術の発達によって、生活・生産両面において多くの利便を場所に関わらず享受できる社会が実現しつつある。また今後は、自動運転の実現やリニア新幹線によるメガリージョンの出現などによって、都心・郊外・地方のヒエラルキー的関係は変化していくだろう。既に一部では、居住地や事業地を脱都心化させる動きや、固定した仕事場を持たないノマドワークの台頭など、大都市に縛られないライフスタイルの実践が見られるようになってきた。多様なワークスタイルを許容する社会の意識変化も、今後こうした傾向を後押しするだろう。  このように21世紀初頭の日本は、ヒト・モノ・カネ・情報の移動が加速する「高流動化」の渦中にあり、そのことは人間生活と国土との関係性の本質的な変化をひき起こす可能性がある。

●「高流動化」時代の国土像、都市・地域像
 今後さらに「高流動化」が加速していくとすれば、果たして21世紀は引き続き大都市の時代でありつづけるのだろうか。そして、20世紀に生まれた都市像や都市生活の様式は、これからいかに変化していき、新たにどのようなものが立ち現れてくるのか。  以上のような疑問を出発点として、本特集では特に情報流・人流の「高流動化」に着目し、そこに旧来の「都市」概念を変容しつつある大きなダイナミズムを読み取ることを試みる。その先に、これからの都市・地域と、その連合体としての国土の姿を浮かび上がらせるとともに、その計画のあり方について考えてみたい。


[山村崇・吉本憲生・樋渡彩・中島弘貴]

特集46 外国人/移民とすまい
到着地としての日本

●2000年に国連より報告書「補充移民:人口減少・高齢化の解決策か?」が発表された。日本でも、縮退社会・労働力不足が課題とされるなか、特に2019年の入管法改正によって、その動きを強めている。2018年時点で日本に滞在する在留外国人は273万人を超え、OECD加盟国のなかでの移民流入人口(有効なビザを保有し、90日以上在留予定の外国人の数)は約39万人(2015年)で、ドイツ、米国、英国に次ぐ4位であった。

●一方、これまで日本は、移民(定住を前提として入国する人々)は存在しない、つまり「入管政策」はあっても「移民政策」は存在しないという姿勢を貫いてきた。そのため、生活(仕事、教育、住居など)のさまざまな権利や支援の対応策については、国よりも自治体や民間が主な担い手であったと言える。外国人の「すまい」に対する取り組みも同様で、外国人集住自治体や集住地区では独自に外国人と「共住」するためのノウハウが蓄積されてきた。

●本特集では、こうした各地域での外国人/移民をめぐる「すまい」の実態と課題、また各現場から見出される知恵を理解しながら、今後各地で必要となるであろう、すまいや地域づくりの見直し、また居住政策について考える特集としたい。

●特集冒頭では、来日する外国人/移民と「すまい」の関係を概括するために、関連政策年表ならびに、来日初期段階から定住段階に至るおおまかなすまいの変遷の見取り図を示した。また、その具体的な事例として留学生および在日ネパール人の実態について取り上げる。

●第1部では、移民政策論の第一人者である渡戸一郎氏(社会学)、海外の住宅政策に詳しい檜谷美恵子氏(居住学)、そして長年にわたり国内の移民の住宅問題に取り組む稲葉佳子(本特集ゲスト編集委員・都市学)が加わり、日本の「移民政策」の特徴や外国人居住の現状、さらには住宅政策の目指すべき方向について鼎談を行った。

●第2部のインタビューでは、長谷部美佳氏(社会学)に、30年間にわたり外国人を受け入れ続けている神奈川県営いちょう団地の変化について、林隆春・島田英二両氏には1980年代から日系人の就労斡旋を行う会社経営の立場から、外国人の就労とすまいとの関係について話をうかがった。

●第3部では、新宿区大久保、大阪市西成区、葛飾区東四つ木の3つの外国人集住地区における多国籍な人々が共存するためのすまいやまちづくりのあり方について、寄稿いただいた。


[井本佐保里・柳沢究・石榑督和、稲葉佳子(ゲスト編集委員)、鈴木あるの(編集協力)・サキャ・ラタ(編集協力)]

[目次]

002

特集45 「高流動化」する日本列島
国土と都市・地域のこれから
The High Mobility Archipelago: Perspectives on Transforming
National and City-regional Structures of Japan

004座談会
高流動化時代の国土計画へ─
「均衡ある発展」を越えて
市川宏雄×城所哲夫×松原宏
聞き手:藤村龍至+山村崇+樋渡彩+中島弘貴
009論考1|人流の革新
リニア中央新幹線とスーパー
メガリージョン構想の背景と期待─
危機感から生まれた国際競争力と
地方圏域の創生構想|家田仁
011論考2|人流の革新
北陸の構造|羽藤英二
013論考3|情報流の革新
高度情報化時代のワーク・ライフと
国土・大都市のゆくえ─
テレワーク社会の到来から考える|松村茂
015コラム
東京を脱出したクリエイティブワーカーが
集う「鎌倉」─芽生える社会活動と
グローカリズム|柳沼優樹
016論考4|高流動化×国土・都市圏
いくつもの「シティ・リ-ジョン」がうごめく
列島像|後藤春彦
018論考5|高流動化×ビッグデータ
ビッグデータの活用が拓く
新しい国土計画のあり方と
レジリエンスの考え方|秋山祐樹
019インタビュー
「テリトーリオ」から学ぶ─
都市と地域の真の再生のために
陣内秀信×植田曉|聞き手:山村崇+樋渡彩

022

特集46 外国人/移民とすまい
到着地としての日本
Immigrants and Dwellings -
Japan as Destination

024論考1
留学生のすまいにおける変化と格差
鈴木あるの
024論考2
在日ネパール人のすまい
ラタ・サキャ

第1部
025座談会
フロントドアからの受け入れ時代へ
渡戸一郎×檜谷美恵子×稲葉佳子
聞き手:井本佐保里+サキャ・ラタ

第2部
030インタビュー1
日系人移民と共に生きる
林隆春×島田英治
聞き手:井本佐保里+柳沢究
033インタビュー2
いちょう団地の移民の歴史と現在
長谷部美佳
聞き手:稲葉佳子+井本佐保里+柳沢究

第3部
035インタビュー3
多様性のまちオオクボに学ぶ
稲葉佳子|聞き手:井本佐保里
036論考3
釜ヶ崎のまちづくりと外国人
─西成特区構想を巡る攻防から
寺川政司
038論考4
葛飾区リトルエチオピアを取り巻く
NPOの取り組み
小出幸次郎+石榑督和

連載

建築漫画
000第23回
Prologue Nexus
軍司匡寛

変わりゆく風景 第17回
039バンコクの大地主ナーナー家とその活動─
インド系ムスリム移民の都市開発
岩城考信

編集長 インタビュー 日記 第8回
040議論と実践
藤村龍至

TABLE OF YOUTH 第18回
042エコジグから読み解く風景
正田智樹
042「建ち方」の構築─《倉賀野駅前の別棟》について
大村高広
043設計手法をプログラミングする
林和希
043駅舎という建築物を超えた怪物の攻略
真島嵩啓

設計教育の設計 第19回
044コンテンツ(設計課題)よりフォーム(授業形態)を。
青井哲人

はじめての投稿論文 第13回
046後輩を育てる査読者の思いやり
上野淳

まい・すぽっと 第18回
047花祭の里
佐々木睦朗

こんな場所からこんな建築 第17回
047デリーの中世イスラーム建築と都市開発
宍戸克実

#建築雑誌 第23回
048大阪論特集の編集に潜む都市ヴィジョン
渡邊大志
048編集後記
会誌編集委員