写真:津田直、晴天時に発電するオフグリッドハウス
2020-2月号 FEBRUARY
特集02 震災以降の生活の転換者たち
2011年3月11日に発生した東日本大震災、福島第一原発事故をきっかけに、私たちの生活が、不安定な大地の上に築かれ、広大なインフラ網に支えられてきたことを意識するようになった。震災直後、煌煌(こうこう)と輝いていた都市の夜景は節電のために薄暗くなり、誰もがその暗さの中で自分たちの生きている環境そのものを見直すことになったのではないだろうか。その後、都市の夜景は元の明るさに戻っていった。震災がまるでなかったかのように。
しかし、この震災の経験から、自らの生活を見直し、新たな生活を模索し実践し始めた人たちがいる。地域コミュニティの紐帯(ちゅうたい)の大切さが再確認され、流動化する社会の中であっても人々が互いに支え合う生活の仕組みを築く人たち、反原発の動きに合わせて原子力発電による電力に依存するのではなく、太陽などの自然エネルギーを利用した生活や、電気をできるだけ使わない生活を独自の方法で実践する人たち、都市生活を見直し、農村などへの移住生活や二地域居住を始める人たちがいる。原発事故の放射性物質の汚染により全村避難した地域において、被災地と避難先の二地域を拠点にした生活が試みられている。また物質的な復興だけでなく、「フクシマ」というレッテルを貼られた地域の子どもたちへの支援も続けられている。
震災を契機に出現した新たな生活実践から、システムやテクノロジーに依存している現代社会への批判、人口減少・少子高齢化への対応や地球環境・生態系への配慮といった新たなライフスタイルの予兆、そして自律的に生活を組み立てる手応えや自信を読み取ることができる。本特集では、そうした生活の転換者たちに焦点を当てることで見えてくる未来の建築・都市のアイデアを紡いでみたい。
[能作文徳・川島範久・中川純・長澤夏子・難波和彦・吉村靖孝]
[目次]
000 | 他分野テック 他分野で起こっていることに学ぶ 安井謙介 |
002 | 特集02 震災以降の生活の転換者たち |
004 | 論考 人類と生活―広義の思考のために 上妻世海 |
008 | 取材1 オフグリッドハウスが教えてくれた 暮らしの思想 サトウチカ |
010 | 取材2 生きるサイズを考え直す 稲垣えみ子 |
012 | 取材3 拡張家族と多拠点居住の実験 近藤ナオ |
014 | 取材4 東京通勤圏を拡張する 柚木理雄 |
016 | 取材5 気候変動の時代に山間集落で 暮らし方を考える 中島靖紀 |
018 | 取材6 二地域居住から見えてくる建築と生活 高木俊 |
020 | 取材7 100年後のために今できること 本間・フィリップ・ジョン・キャッシュマン |
021 | 取材8 二地域居住から考える福島の復興と生活 松本松男、遠藤秀文 |
024 | 取材9 次世代の架け橋となる福島の子どもたち 伴場賢一 |
026 | 伝統知に根ざす新しい世界観 小倉沙央里 |
027 | Así no mas文化に学ぶ 土屋瑛衣子 |
028 | 建築環境シミュレーションを用いた 設計製図演習 中大窪千晶 |
030 | 一室空間住居の系譜 難波和彦 |
032 | 数百年後の読者に向けた「ゴツい」記録 山岸剛 |