写真:津田直、ギソクの図書館
2020-7月号 JULY
特集07 パラリンピックがひらくインクルーシブな都市
この特集は、本来パラリンピック開催直前に発行され、丸めた雑誌を片手に応援と街を見に出かけていただくはずであった。
2011年5月に、1964年以来2度目となる東京での2020オリンピック・パラリンピック招致に成功してから、2020年8月を目指し準備がなされてきた。しかし、2020年春の世界的なコロナ禍によって、少なくとも1年の延期を余儀なくされている状況にある。大規模に人が集まる世界有数のイベントが開催されることの見通しは不透明である。
そこで、全世界が都市での行動・生活の不自由さを体験したこの時期に「インクルーシブな都市」について、考える契機にしたい。
2020東京大会のパラリンピックは、パラ選手だけでも4,400名を超す人を、同時に迎えるための都市の準備であった。この成熟した都市・東京でこれを実現するために、都市と建築・情報技術などハードをアップデートし、さらに受け入れる社会の人材教育や、当事者を含んで物事を決定してゆくためのノウハウといったソフトの試行錯誤・積み上げが多くなされてきたとのことである。
競技施設を中心とした幅広い分野でアクセシビリティ確保のための整備が進展した。建築・都市において環境整備に留まらない議論や変化も生じている。これらを多角的な視点からまとめることで「TOKYO 2020 パラリンピック・レガシー」とはどのようなものか、考えてみたい。
国際パラリンピック委員会は、「オリンピック・パラリンピック大会のインクルーシブなアプローチ」というタイトルのついた、IPC Accessibility Guide を示している。これによれば、社会的基盤やサービスをアクセシブルでインクルーシブなものとするための原則や解決策が、インクルージョンという文化を醸成し、それが社会のさまざまな面に遡及するとされている。これを受けて開催国におけるガイドラインが作成され、整備や準備がなされてきた。日本でも、バリアフリー法の改正や、競技場のみならず交通施設やトイレ、ホテルなど、さまざまな施設に関するガイドラインの整備が進められている。また、ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)が増えているなど、ソフト面も含めて、多様な人を巻き込みながら社会が徐々にではあるが確実に変化している実感もある。
振り返ると、1964年のオリンピック大会の直後に、東京で第2回パラリンピックが開催されている。ちょうどその時期から、日本で福祉のまちづくりがスタートしている。この56年の変化を、当事者の語る都市・社会体験から俯瞰したい。
本号では、こういった整備の経緯や現状を概観し、実際のユーザー視点での都市・建築の変化について特集し、「パラリンピック・レガシー」として何が変わったのか、またそれが今後の日本社会全体に広がるための課題などを明らかにしたい。
[長澤夏子・松田雄二(ゲストエディター)・讃岐亮・高口洋人]
[目次]
000 | 学会長からのメッセージ 種々のリスクに対して社会の レジリエンスを高めるための多様な視点 竹脇出 |
002 | 特集07 パラリンピックがひらくインクルーシブな都市 |
003 | 論考 IPCアクセシビリティガイドからみる建築・ 都市の目標 松田雄二 |
005 | 取材1 建築のユニバーサルデザインのこれまでと これから 髙橋儀平 |
010 | 取材2 多くの人の経験が、最大のレガシーとなる ―パラリンピック統括室の取り組み 中南久志 |
013 | 取材3 都市・交通から建築のユニバーサルデザインを考える 秋山哲男 |
016 | 取材4 海外から見た日本のアクセシビリティ グリズデイル・バリージョシュア |
018 | 取材5 車椅子から見た都市交通の変遷、 そして当事者研究から学ぶべきもの 熊谷晋一郎 |
021 | 世界を知るための方法 浅子佳英 |
022 | 日本と世界の間にある 見えない壁を超える 丹羽貴之 |
023 | 名前のない色 隈翔平 |
024 | 文化遺産の 活用と再生のデザイン 田原幸夫 |
025 | 徹底して具体的かつ身体的であるということ 中川エリカ |
026 | 聴覚障がい者のための 建築情報教育 倉田成人 |
028 | 都城市民会館調査記録WG 斎藤信吾 |
029 | 煉瓦の眺め方 ―旧富岡製糸場西置繭所の場合 齋賀英二郎 |
030 | 生態的なデザインをめざして 難波和彦 |
032 | 質的な関係を 踏まえたうえで量を取り扱う術 榊原充大×前田昌弘 |